ミュンヘン (レビュー)

10年に一度の大傑作!
描いているテーマ自体、かつてない重苦しさ。スピルバーグはアウシュビッツの実態、最前線の実態に続き、またひとつ現実の怖さを浮き彫りにした。
これは10年に一度現れるかどうかという大傑作だと断言しよう。その理由は、これが僕が今までに一度も見たことがなかったタイプの映画だったからである。映画を見ていて、かつてここまで胸にズシリときたのは初めてだった。70年代の世界を細部まで再現し、フィルムの質感、照明の明暗まで70年代のヨーロッパ映画の雰囲気を意識しているが、その映像からは、まるでその場にいるかのようなリアリティがあったし、ワンカットワンカットから感じとれる映像的圧力感は尋常じゃなかった。一見、全体的にリアリズムに徹しているようであるが、このシリアスな展開にあって、始終娯楽映画のスタイルを保持している点にも驚かないわけにはいかない。真面目な内容ではあるが、すべてのシーンが現実の怖さを描きつつも、サスペンスとしてもスタイリッシュかつ巧妙に作り込まれている。ノンフィクションとフィクション。本来なら相反するであろう二つの要素が、お互いに殺ぐことなく、見事に共存しあい、観客に食い入るように見させてしまう。このような映画はこの10年間で一度も見たことがない。

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