シカゴ (レビュー)

歌うことで表裏をひっくりかえす
ミュージカル映画は、元来不気味なものである。会話中いきなり歌い出し、登場人物たちがまるで示し合わせたかのように段取りよく踊り出す。ミュージカルに必ず付き物のこの「不気味さ」を、スタイリッシュに活かして見せたのが「シカゴ」である。本作は、歌のシーンになると、いつの間にか背景までも派手なセットに入れ替わる。やるからにはやろうと開き直っているようで、本作のレビュー・シーンはできうる限り「それらしく」大袈裟に飾り立てられている。反対に、歌のないシーンは、冷たいタッチである。
主な舞台は刑務所だ。囚人は歌うことで刑務所の外に出た心地になるが、喝采を浴びるや、たちまち牢獄に引き戻される。歌うほどに自分の価値は高まるのに、同時に虚しさがおしかぶさる。ストーリーの表と裏をはっきりと色分けし、ちょうど表の部分をレビューでみせているわけで、従来のミュージカルにみられた「不気味さ」が、本作では重要な意味合いを持つことになった。裏から表への、そのなめらかなる場面転換の一瞬に、このドラマのすべてが集約されているのである。

オリジナルページを表示する