ポーラー・エクスプレス (レビュー)

★★★★★

The Polar Express
(:An IMAX 3D Experience)
2004/米・ワーナー

監督:ロバート・ゼメキス
出演:トム・ハンクス
原作:C・V・オールズバーグ
音楽:アラン・シルベストリ

クリスマスイブの夜、少年を迎えに急行北極号がやってくる。行き先はサンタクロースがいる北極点。汽車に乗ったときから、夢と冒険のファンタジーが始まる。
トム・ハンクスがオールズバーグの有名な絵本を映画化。トムの一人芝居映画「キャスト・アウェイ」を撮ったロバート・ゼメキスに監督を依頼。トムが少年役から車掌役、ホーボー役など5役を演じている。

上映館案内
メルシャン品川IMAXシアター
とにかくIMAX-3Dで見ることをお勧めします。今のところ、この映画を立体画面で見られる映画館は、日本ではここだけしかありません。関東地区に住んでいる人は、アトラクションと思って、ぜひ行ってみてください!
吹き替え版と字幕スーパー版がありますが、IMAXの大型スクリーンでは字幕を追いかけている暇がないので、吹き替え版をお勧めします。唐沢寿明さんの演技、良かったですよ。
(2005年3月に上映は終了しました)

絵本(村上春樹翻訳)の情報
DVDの情報

これがアイマックスだ!
 心温まる映画というよりは「別世界へご招待」タイプの胸バクバクのアトラクション・ムービーである。本作はIMAX(アイマックス)大型スクリーンによる3D技術を採用した飛び出す立体映像作品で、これがIMAXの初の3D長編となるわけだが、これの監督がかつてIMAXの社員だったロバート・ゼメキスだというのが因果なものである。その昔「これがシネラマだ」という大型スクリーンの特性を生かした見世物的な映画があったというが(僕は未見)、「ポーラー・エクスプレス」を見たとき、あの映画もこれと同じような映画だったのではないかと思った。有名監督がIMAXの3D映画を作るケースは、以前ジェームズ・キャメロンが海底に沈んだタイタニック号を探索するドキュメンタリー「タイタニックの秘密」という前例があるが、残念ながら、あれは立体映像の持ち味をほとんど生かし切れなかった凡作であった。しかしゼメキスの今回の新作は、立体映像の特性を完璧なまでにフル活用しており、3D映画を極めた大傑作だ。斜めからのアングルや、あえて横壁をフレームにいれる構図など、遠近法も多様し、画面が飛び出して見えることの娯楽性をとことんまで追求している。
 大型スクリーンに映し出される映像のすべてが観客の視界に収まりきれるので、観客たちは本当にその世界にいるように錯覚してしまうだろう。よく小道具が空中に放り出される映像があるが、そんな平凡な映像も、立体映像でみると愉快な映像になる。黄金色の乗車券が風にさらわれて様々な場所に飛んでいく連鎖アクションなど、鳥の目線になったようなスピーディかつダイナミックなカメラの動きと、奥行きのある映像があまりにも感動的で、客席からオオオッと歓声があがったほどである。
 他にも、人ごみが邪魔してサンタの顔がよく見えない一幕も、立体映像では真に迫って見えるし、ジェットコースターのシーンにも本気でゾゾゾッときた。氷上の豪快なスペクタクルは、今年一番の興奮を約束しよう。
 画面一杯に被写体が接近する映像も多く見られるが、これも時折身をのけぞってしまうほどの迫力で、例えば、汽車の先端が観客のすぐ目と鼻の先まで迫ってきたり、ゼメキスは3Dのツボを押さえて、あきらかに驚かそうと狙っているようだ。そもそもこの映画には撮影用カメラなどどこにも存在しないため、本当の意味でカメラが自由を得たように動いている。ディープ・フォーカスも思い通りのままだし、カメラが窓ガラスを通り抜けたような映像などもあり、映像の動きこそが本作最大の見所になっている。

CGの弱点をすべて克服!
 「油絵のようなCG映像」と褒め称えられているくらいだが、たしかに映像は過去最高の美しさである。とくに人間の映像が素晴らしい。表情は優しく、体温を感じさせる。肌のシミもちゃんと描きこまれているし、何より目が綺麗だ。大型スクリーンでみると、ディテールまでこだわっていることがわかる。少年の瞳の奥に、ちゃんと景色が反射して映っているのに気づいたときには、さすがに唸ってしまった。ラスト・カットのさりげない演出も、大型スクリーンで見ると感慨深いものがある。
 僕はCGに関しては厳しい男で、今まで見た映画のCG映像については「重量感がない」とか色々とケナしてきたが、その諸問題はこの一作で完全に克服しているように見える。「パフォーマンス・キャプチャー」によるキャラクターのムーブメントは、カートゥーン特有の誇張された感覚がまったくなく、体の微妙な揺れ具合など、かつてなかったリアリティを感じる。子供たちが相づちをうっている様子が本当に可愛らしい。また、動物の映像も美麗で非常に重量感があり、早く飛び立たんといきりたつトナカイの映像を見たときには、思わず胸が一杯になってしまった。
 サンタが出てくる映画は僕も今までいくつか見てきたが、本作のサンタは、最もサンタらしいサンタだった。顔は少年のパパと同じだが、あの神秘的な表情は、外殻が作り物のアニメーションで、中身が生身の人間が演じているという相互作用があってこそ、その表現が可能になった。
 原作が絵本ということで、さすがにストーリーは単純明快であるが、だからこそIMAXの3Dテクノロジーをじっくりと堪能できる余裕があり、理屈抜きに楽しい。初っ端から出来事がどれも唐突すぎるが、見せ方ひとつひとつの芸が細かいため、作品の流れにうまく乗せられ、最後まで興奮が冷めやらない。もちろん大人の鑑賞にも堪える健全たる傑作だ。
 今回のレビューでは、IMAXを褒めることで終始してしまい、通常の映画館でこれを見た人には申し訳ない文章になってしまった。しかしこれは何よりもIMAXの大革命を起こした歴史的名作だと思うので、そこを評価することが最大の賛辞だと僕は思っている。そうした意味で5つ星だ。

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