パッション (レビュー)

観客は目撃者
メル・ギブソンは将来きっと偉大な監督になる。「ブレイブハート」は、完璧といえる構成力に圧倒されたが、今度は映画のまったく新しい描き方を編み出してしまった。「パッション」は「ブレイブハート」ほどよくできた映画とは言えなくも、これが歴史に残る問題作であることは間違いない。イエス・キリストが十字架にかけられて息を引き取るまでの12時間。ところどころに回想シーンを絡める程度で、極力ストーリーは膨らまそうとせず、キリストの受難というひとつの出来事だけに的を絞った微視的アイデアが功を奏した。工夫しているのはもっぱら表現方法である。セリフを英語ではなく、アラム語とラテン語にしたことで、忠実性がより強調されており、その場にいるような気にさせる。その容赦ない残酷描写は、今までのキリストのイメージが嘘に思えてくるほど鮮烈で生々しいが、これはキリストの受難だけしか描いていないので、そこに目を背けると、何も見なかったことになってしまう。観客は否応なしに事件の目撃者となるのだ。
皮膚が引きちぎれ、肉が飛び出す映像の痛々しさ。決して忘れられない映画=名作である。

オリジナルページを表示する