ガタカ (レビュー)

何かに挫けそうになったらこれを見るだろう
★★★★★

(1997年アメリカ映画)
製作:ダニー・デヴィート、マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェール
監督・脚本:アンドリュー・ニコル
音楽:マイケル・ナイマン
出演:イーサン・ホーク、ジュード・ロウ、ユマ・サーマン、アラン・アーキン、アーネスト・ボーグナイン

 

 人には誰しも、人生観を変えたほどの映画があるはずである。人の心を変える映画こそ、映画の最も理想的な在り方だと思う。僕の場合、主人公の生き方に感銘を受けたという点では、それはフランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」であり、チャールズ・チャップリンの「ライムライト」であった。キャプラやチャップリンは僕にとっては尊敬の一言ではすまされない人生の恩人でもある。そこにもう一人現役の映画作家の名前を加えるならば、僕は迷わずアンドリュー・ニコルの名を挙げる。アンドリュー・ニコルは心にしみいるヒューマン・コメディを得意とする映画作家で、その点ではキャプラやチャップリンと同じだが、「ガタカ」は彼の監督第一作で、この映画にはコメディの要素はない。どちらかというと暗い雰囲気が全編を漂っている映画である。しかし、僕はこの映画を見るたびに、必ず生きる力をもらうのである。「ガタカ」はサスペンスタッチのSF映画なので、そうしたサスペンス・SFの要素、あるいは社会的・哲学的な部分ばかりが注目されがちであるが、僕はこの映画をそのように難しく見ることが出来ない。僕が見ているところはもっとシンプルなところで、主人公のひたむきな姿である。
 舞台は、人間の評価がすべて血液検査で決定される未来社会。会社の就職試験も血液検査で決まる。主人公の夢は宇宙飛行士になることであるが、血液検査では無能と判断され、就職試験で必ずはじかれてしまう。せいぜい彼の身分では便所掃除係が関の山だ。しかし、主人公は決して夢を諦めず、差別に耐え、精一杯人生を生き抜いていく。どんなものにも可能性はある。無理だと言って諦めなければ、いつか道は開かれることをこの映画は教えてくれる。
 個人的なことを書こう。実は僕は生まれながらに色盲で、色がよくわからない。僕は学生時代からずっとそこに悩んでいた。就職試験では、色盲だと例えばデザイン関係の会社からはまず間違いなく蹴飛ばされる。僕には赤信号も黄信号も同じ色に見える。運転免許を取るための色覚試験では勘で答えた。普段このことは誰にも話さないようにしているが、昔から色の話題にはついていけず、肩身の狭い思いをしたものだ。一度で良いから、本物の色がどんな色なのかを見てみたいと今でも思うことがある。しかし、こんなことで挫けていてはいけない。僕は、色のセンスがあるのだと自分に言い聞かせて、絵を描いたり、デザインしたり、必死で頑張った。だから僕にはこの映画の主人公の努力が少しはわかるつもりである。ここで自分の欠点を堂々と書く気になったのも、この映画を見てその壁を乗り越える勇気をもらったからだ。
 イーサン・ホークの演技は素晴らしい。僕はこの映画を見るまでは正直言ってイーサン・ホークをあまり良い俳優と思っていなかった。ユマ・サーマンに自分の正体を話すときの表情が良い。繊細で、僕はいつもここで胸がいっぱいになる。ここからラストまではマイケル・ナイマンの音楽も手伝って、感動しっぱなしである。僕はこれを見るたびに、彼から戦う勇気と生きる希望をもらうのだ。

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