若尾文子 (今週のスター)

一ヶ月に3000通のファンレター
 僕が中学の頃、学校の授業で「竹取物語」(87)を見せられてワクワクしたことを覚えているけど、あの映画がこんなにも豪華キャストだったなんて当時は知るよしもないわけで。若尾文子の久々の映画出演は、まさにビッグプロジェクトだったんじゃないかな。そうなると、「男はつらいよ・純情篇」(71)のマドンナ役は本当にありがたいと思うし、改めて「男はつらいよ」のマドンナのキャスティングはすごいなあと思っちゃうわけであります。
 「妻は告白する」(61)、「刺青」(66)などの増村保造監督作品で広く知られている他、川島雄三監督作の「雁の寺」(62)、「しとやかな獣」(62)などに出演。若尾文子は、投票で選ぶ人気女優ベスト1の常連だった。ふっくらとした美しさと、色っぽい声が魅力だった。また年間の出演作が多かった。1年に10本くらい話題作に出ていたものである。映画会社のデビュー当初の狙いとしては、隣のお姉さんっぽい雰囲気を出すことだったという。「十代の性典」(53)は高校生の愛と性を描いた作品で、当時は<お姉様>と言われて、大いに話題になったというが、セレブっぽさをあえて出さないから、庶民的な人気を獲得したのだろう。とくに女性ファン多し。僕は「若尾文子」という名前の発音の温かさ、漢字の親しみやすさも人気に影響していると思っている。
 届けられるファンレターの数も相当凄かったらしい。キネマ旬報の1956年3月下旬号では若尾文子宛に送られたファンレターを分析する興味深い記事があったので、ここで取り上げさせてもらう(もろに受け売りになっちゃって僕も世話がないです)。若尾文子は1ヶ月に3千通のファンレターをもらっていた。ファンレターには色々なタイプがあるらしいが、その9割を占めるのが「あなたの演技を見て好きになりました。サイン入りのブロマイド下さい」というタイプのもの。残りの1割が「私をスターにしてくださいタイプ」などだそうだ。中には脅迫の手紙や、金の無心など、様々な手紙が届くという。有名になるのも大変である。「赤線地帯」(56)から演技者としての地位を確立したといわれている若尾文子であるが、まだ「赤線地帯」を撮影中のころから、すでにこの人気ぶりである。まったく驚く。「赤線地帯」以前では、「祇園囃子」(53)や「舞妓物語」(54)などの舞妓役の評価も高かったようだ。「秘密」(52)ではニキビができて大騒ぎする高校生を明るく演じ、「螢の光」(55)では妹のために頑張るけなげな娘を演じ、清純派として人気があった。菅原謙二、根上淳との息もピッタリだったが、「珠はくだけず」(55)では両者と三角関係になる役を演じている。

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