タランティーノ『ジャンゴ 繋がれざる者』のアイデアは日本で生まれた

『ジャンゴ 繋がれざる者』

2月13日(水)、新宿ピカデリーにて『ジャンゴ 繋がれざる者』の男性限定上映イベントが行われ、クエンティン・タランティーノ監督が上映前に登場してイベントを盛り上げた。

司会の呼び込みがあると、「ハロー!ジャパン!」と叫びながら猛ダッシュで客席を突っ切ってステージまで上がって来たタランティーノ。もうとにかく元気が良い。英国アカデミー賞で脚本賞を受賞、授賞式を終えたら次はロンドンを発ってその足で日本に来たという。この多忙さで日本に来るなんて、どんだけ日本が好きなんだか。司会も「僕も色々な司会をやってますが、登場しただけでこんなに盛り上がったのは初めて」と興奮気味だったが、タランティーノは「これがタラちゃん流さ!」とにっこり。さてさて、こんな調子でイベントは幕を開けたのだった。

タランティーノといったら、前作『イングロリアス・バスターズ』でナチス・ドイツを描き鮮烈な印象を残したことは記憶に新しい。プロモーションで日本にも来たが、そのときに生まれたアイデアがこの『ジャンゴ』だったという。

「そうなんだ! 『イングロリアス・バスターズ』で来日したときに、日本にはアメリカにはないマカロニ・ウエスタンのサントラがいっぱい売ってあってね。20枚くらい買ったんだよ。ちょうど日本がプロモーションツアーの最後の日だったから、ホテルでゆっくりエンニオ・モリコーネやルイス・バカロフを聞いていたら『ジャンゴ』の最初のシーンのアイデアが閃いたんだ。でもノートがなくてね、ホテルの便箋に急いでアイデアを書き殴った。これから皆に見てもらう映画の最初のシーンはそのときに書いたほぼその通りの映像になっているよ。日本に来たときにはまだ次回作を何にするかはまったく決まっていなかったんだけど、帰りの飛行機の中ではもう次回作が西部劇になることは決まっていたんだ。ドーモドーモ」。いやぁ、こいつは日本人として嬉しいコメントだ。しかもアメリカでは「スパゲティ・ウエスタン」というところを、日本の慣習に倣って「マカロニ・ウエスタン」と言い換えていたのがいかにも映画痛なタランティーノらしいところである。あれだけ映画を沢山作っていながらいまだにアイデア帳の類を持ち歩いていないなんて逆に驚きでもあるが。

それにしても、前作がナチスで、新作が西部劇だなんて、いつもいつも違うジャンルで我々を楽しませてくれて、凄すぎるぜタランティーノ! といってもタランティーノの場合、やっぱりマカロニ・ウエスタンの方になっちゃうのね。ま、その辺は期待通りじゃあるけど。

とにかくイベント中もじっとしていられないタランティーノ。マスコミ向けのフォトセッションのときも、我慢できなくなって「もう写真はいいからそろそろ映画を見せろよ! なあ皆!」と突っ走るばかり。で、イベントが終わっていよいよ上映開始かと思ったら、退場の音楽が流れているのにも関わらず突然タランティーノは「まだ言いたいことがあるんだ!」と立ち止まった。退場の音楽をいったん止めて、予期していない展開に司会者も動揺を隠せない様子だ。

ここでタランティーノ、最後に「みんな! 映画見たいか! 西部劇見たいか!」と呼びかけ、客席を一気にヒートアップさせた。「聞こえないぞ!それだけか!」と汗だくになってさらに奮い立たせ、ついに「さあ!映画をおっぱじめるぜ!マザ◯ファッカ◯!!!」と例のスラングも飛び出し、マイクを床に叩きつけ、夕陽のガンマンのごとく去っていったのだった。観客に気合いを注入するスタジアム系エンターテイナーとしての顔を見せてくれたのである。タランティーノ・ファンがタランティーノに出会えた実感が得られた瞬間だった。

『ジャンゴ』は、アナログな良さが詰まった豪快痛快バイオレンス・ドンパチ映画になっている。ストーリーも奥が深く、タランティーノの話術の妙味は本作も健在だ。前作『イングロリアス・バスターズ』に続き、クリストフ・ヴァルツが今回もまたとても良い味を出しているが、今回はレオナルド・ディカプリオが出ていることにも注目して欲しい。ディカプリオが嬉々としてタランティーノ映画十八番の長ゼリフを演じているのである。

タランティーノの映画の良いところは、本人が作りたいものをゼロから楽しみながら作っていること。そしてそれが独りよがりにならず、すこぶる面白いストーリーになっていることである。脚本の見せ方でいえばまさにマイスターの領域。奴隷制度という暗い歴史をこうも豪快に描こうとは。こいつぁサム・ペキンパーよりもワイルド! 観客を楽しませてやるぞという精神が伝わってくるからサービスの見せ場も多い。そしてちゃんと納得のいく落とし前をつけてくれるから、タランティーノ映画のカタルシスというものはただもんじゃないのである。全米では12月25日に公開するや、タランティーノ最大の興行成績を打ち出しているが、アメリカが愛してやまぬ西部劇の世界ゆえ、それも当然のこととうなずけよう。(澤田英繁)

『ジャンゴ 繋がれざる者』は、ソニー・ピクチャーズの配給で、3月1日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。

[PR] 戦国時代カードゲーム「秀吉軍団」好評発売中

2013/02/18 1:31

サイトのコンテンツをすべて楽しむためにはJavaScriptを有効にする必要があります。