『クラウド アトラス』6つの時代と場所で1人6役を演じる500年のドラマ

『クラウド アトラス』

去る1月24日(木)、六本木にて、映画『クラウド アトラス』の来日記者会見が行われ、本作を手がけた3人の監督、ラナ・ウォシャウスキー(47)、アンディ・ウォシャウスキー(45)、トム・ティクヴァ(47)が登壇した。

中世・現代・未来など、6つの時代と場所で6つのドラマが描かれる。SF、アクション、ミステリー、ラブストーリーと、これ一本に映画のすべてが詰まっており、500年にもまたがる壮大なドラマになっている。6つのシーンが一見脈絡なくつながっているようにみえて、実は一本のドラマとして一貫した概念的な一筋の流れがある。クラシック映画『イントレランス』を彷彿とさせる手法だが、『クラウド アトラス』が持つ大きな特徴は、トム・ハンクス、ハル・ベリー、ペ・ドゥナといった役者たちがそれぞれの世界でまったく異なる登場人物を演じていることである。

それぞれの監督がどこを担当したのかはわからないが、6つの世界をティクヴァ組とウォシャウスキー組で分担して撮ったようである。いずれにせよ監督が3人もいるのは前代未聞ではないだろうか。この記者会見は、まさに「三者三様」という言葉がしっくりくる会見であった。ラナは終始にこにこ笑顔を絶やさなかったが、一方でアンディは仏頂面で言葉も少なく終始ガムを噛んでいた。トム・ティクヴァは無表情で理屈っぽく、iPhoneを使って会場の様子を録画していた。性格もスタイルもまったく違う3人のシェフが6つの食材を使ってひとつの料理を作り上げたのだから、どういう味になっているか予想もつかない。しかもそれが映像化不可能と言われた原作をもとにしたものゆえに、そのビジュアル的衝撃は計り知れない。

以下に、記者会見のやりとりを示す。

--映像化不可能と言われた作品を映画化しようと思ったきっかけは何ですか?

アンディ「映画化不可能な原作は無いと答えています」

トム「私はかえってそういうことが魅力だと思います。チャレンジこそが私を惹きつけました」

--キャストについて聞かせてください。

ラナ「本作ではそれぞれの魂がいろんな顔を持ちます。ヒュー・グラントは、いつもは主役なのに本作ではバックグラウンドに溶け込んで脇役を演じました。みんなキャラクターのアイデンティティを追求することを楽しんでいました」

トム「俳優にとって複数の責任を負うのは、ワクワクする体験であると同時に勇気が必要です。表情ひとつで進化していく瞬間を見たとき、これは作り手にとっても素晴らしい経験なのだと実感しました。過去の人生にあったことがストーリーにも表情として表れてくるのです」

--監督はこの映画のテーマを何だと考えますか?

ラナ「大きなキャンバスに信念をぶつけた作品です。支配や搾取、差別を超越して、その先にある未来を開く扉を描きました。東洋、西洋問わず、愛が扉を開く可能性があるものだと伝えたかったのです」

アンディ「私の人生そのものが映った鏡のようなものです。世の中にこのメッセージを伝えたくて、どんなことがあっても完成させようと思いました」

--日本のカルチャーで大きな影響を受けたものは?

ラナ「今、村上春樹の新作を読んでいます。彼の作品は全部好きです」
アンディ「日本映画が好きで、三船敏郎の『七人の侍』で、冒頭鼻をほじっている設定に興味を持ちました」
トム「1人の名前を出すと、名前を出さなかった人に対して失礼だから、1人の名前を出すことができないほど影響を受けた人はいます。日本の文化は好きです。若い頃はドイツ映画よりも日本映画の方が身近で、黒澤明、小津安二郎、溝口健二には多大な影響を受けました」

--この映画を楽しむポイントは? 短く一言でもいいので。

アンディ「どんな芸術作品でも言えることだけど、先入観を持つことはよくないと思います」
ラナ「構成、ナレーション、俳優たちが異なる役柄を演じることなど、普通とは違う作品ですが、心を囚われることなく見て欲しいです」
トム「とても一言になんてまとめられないよ。人それぞれ、今までいろいろな経験をしてきていると思いますが、誰しもこの作品にどこか親しみを感じてもらえると思います。この映画を見ることは音楽を聞くことに類似していると思います。音楽にもアイデアがあって、様々なことが合わさってできています。トム・ハンクスがバイオリンを、ハル・ベリーがチェロを弾き、ヒュー・グラントはトランペットを吹き、ベン・ウィショーはドラムを叩く。キャストがオーケストラの一員として全体に奏でていると考えていただきたいです」

ちなみに、トム・ティクヴァはどの質問にも長々と中身の濃いことを発言してくれたが、当然ながら通訳の人が訳した日本語もその分長くなるわけで、訳された日本語を聞いていたトム・ティクヴァ監督は自分の発言の長さに改めて自分でびっくりしてしまい、思わず肩を震わせて笑いを堪えていた。フォトセッションでは監督3人がおどけて足をあげて踊るという微笑ましい光景も見られた。

『クラウド アトラス』は、ワーナー・ブラザース映画の配給で、3月15日(金)より、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。

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2013/01/27 22:07

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