『レ・ミゼラブル』ここからミュージカル映画が変わる
去る11月28日(水)、東京国際フォーラムで『レ・ミゼラブル』のイベントが行われた。イベントは2部構成になっていて、第1部では舞台『レ・ミゼラブル』の日本語キャストとオーケストラによる歌の披露が行われ、第2部では、来日ゲスト、ヒュー・ジャックマン、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、トム・フーパー監督、プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュを迎えての記者会見になっていた。
非常に特色のあるイベントであった。このイベントは、映画メインのイベントであるが、日本版『レ・ミゼラブル』の舞台演出までミックスさせたその心意気は、舞台ファンにも嬉しいものである。というのも、この作品は映画ファンのみならず、舞台ファンにも非常に期待されている作品だからである。プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュは舞台の世界で言えば知らない人はいないほどの重要人物である。集まったマスコミの数も通常の映画の3倍から4倍はいたが、これは舞台系のマスコミも参加していたからである。舞台『レ・ミゼラブル』を何度も見ているという舞台評論家の萩尾瞳さんは映画版のキャストの歌唱力を絶賛していた。
後半の記者会見については、「2500人の記者会見」といえるものだった。東京国際フォーラムのホールAの1階席はほぼ満席。一般客がいる前での、あまりにも壮大な記者会見である。試写会ではないので、映画の上映はなかったが(というのも先週完成したばかりだからである)、キャストが座っている前でスクリーンに代表的なシーケンスを4つほど抜粋して上映された。大きな会場で、2500人のオーディエンスが、キャストたちと一緒に映像を鑑賞するわけで、こんな光景なかなか見られるもんじゃない。
拍手喝采が起こったのは、ヒュー・ジャックマンの独白のシーンだ。ヒューは照れ臭そうに自分のシーンを見つめていた。この映像のあと、筆者のまわりに座っていた女性ライターたちはみんな泣いていたし、ヒューの通訳をしていた女性まで涙を目に浮かべていた。筆者の視点から言っても、その演技は過去見たことがない新しいタイプの演技法といえるものだったと思うし、筆者は「アカデミー賞最有力」という宣伝文句は好きではないが、これほどの演技を見せられてしまっては「ヒューは今オスカーに最も近い俳優」といっても過言ではないと思った。あくまで5分のシーンの感想だが。
これまでのミュージカル映画というものは、先に歌を録音して、演技では口パクをしていたのである。しかし、その常識はこの映画で変わった。この映画では、撮影のたびに実際に歌っているのである。歌のテンポなどは臨機応変。歌の合間の息遣いなどかなりリアルなものになった。それの最たる例が前述したヒューの独白のシーンであり、これは明らかに「ミュージカル映画が変わった」といえるものである。本編にも大いに期待していいだろう。
会見ではアマンダ・セイフライドの美しさが際立っていた。監督がアマンダを選んだ理由について「コゼット役には、世界一美しい人に出てもらおうと思ったのです。それが今そこに座っている人です」と語ると会場から「おお!」という感嘆の声があがったが、しばらく沈黙を置いて「ちょっと待ってよ。何?」とファンテーヌ役のアン・ハサウェイが遮り、会場は爆笑。たじたじになった監督は「コゼット役は世界一美しい”ブロンド”に出てもらおうと思ったのです」と訂正。アンは「もういいわ。もう監督のことは知らないわ」とふくれっ面をするお茶目な一面を見せてくれた。
一方、ヒュー・ジャックマンは、実は昔オーディションで『レ・ミゼラブル』の歌を歌っていたことがあり、面接官から「君は別の歌を歌うべきだよ。生涯君はその役を演じることにはならないからね」と言われたことを話して笑いを誘った。アンも大きな口を開けて思わずアハハと大笑いしてしまうが、とっさに手で口を隠した。ヒューは「スバラシイ」という日本語を相当気に入ったのか、会見中親指を立てて何度も連発して笑わせてくれた。
『レ・ミゼラブル』は、12月21日(金)からTOHOシネマズ日劇ほかで全国公開。
2012/12/03 6:21