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向井理主演『悼む人』上演

悼む人

向井理(30)主演の舞台劇『悼む人』がPARCO劇場で上演中だ。第140回直木賞を受賞した天童荒太の原作に惚れ込んだ堤幸彦監督(56)が演出。小西真奈美(33)が8年ぶりに舞台に立っている他、手塚とおる(50)、真野恵里菜(21)、伊藤蘭(57)が出演している。

舞台セットはシンプルなもので、背景にイメージ写真が映し出され、その前で演技するスタイルである。なぜ悼むのか。この作品を見て答えを出そうとすることは哲学である。イメージ写真、光と影の形状などが何かのメタファーになっていたりして、演出の中にも堤監督のこだわりが見られる。少し難解な部分もあるが、あまり難しいことは考えずに、直感で見ればすんなり入り込める。全体の意味は漠然と哲学しつつ、個々のシーンの持つ感性をその場その場で堪能すべき作品だと筆者は思う。

映画畑の監督とキャストの作品という印象を受けるが(そのせいか映画系メディアの取材が目立った)、その点では、堤監督は『包帯クラブ』は映画でやったから今度は映画ではできないものを舞台に求めている感じがした。同じ舞台でふたつのシーンが同時進行するシーンもある。例えば、上手で伊藤蘭らが会話している場面の横で、下手で向井理が回想シーンを演じており、暗闇の中に向井理の姿だけがぽっかり浮かんで見える。こういった演出は舞台ならではのもの。光と影を使った効果的な舞台演出技法が見られる。また、役者が客席の間で割とゆっくり演技してみせるのも大きな特徴である。

小西真奈美は8年ぶりの舞台復帰ながらも、男性の声も演じ分ける難役に挑んでいるが、クライマックスでは実際に泣いていた。客席の間で演技にしているときにはちょうど筆者の手が届く目の前で小西が泣く演技をしていて、こんなにも近くで役者の迫真の演技を見ることができるとは思わなかった。今までとは全く違う小西真奈美をこの日、見たような気がする。

モノローグ主体の作品なので、とにかく、この役者との距離感の近さは特筆に値する。とくに向井理がこの作品で何度か見せる悼むポーズ。向井理が膝を曲げるときに関節がポキッと鳴るのがはっきりと聞こえてくるほどである。映画では絶対に感じられないこの生身の人間の演技を感じて欲しい。

ラストには、非常にエモーショナルなエンディングが待っている。向井理と伊藤蘭のかけあいが涙を誘い、真野恵里菜の声が胸にじんと響く。向井理はこの作品で役者としてかなり成長した。向井は役に入りすぎて、カーテンコールに鼻をかみながら登場し、まだ涙が抜けきれていなかったほどである。それでも本人は「まだ迷いがあります。確立されていない」と話していたが、映画とは違う手応えは確実に感じているようだった。

舞台を見終わったあとには、ぜひもう一度ポスターかチラシをじっと見て欲しい。そこには出演者のイメージ写真が羅列されている。いずれも静かな空気を感じさせるものだが、舞台をみたあと、この写真を見ると、その一枚一枚がなんだかとても感慨深いものに見えてくるのである。ただの肖像写真かと思っていた向井理の顔からも、舞台の後に見るとなんだか人生の深みが感じられるようになるし、ささいな風景写真にも何かドラマを感じさせる。一枚一枚飽きずにじっと眺めていられる。舞台というのは、ライブで見たものだけがすべてではなく、こうしたチラシも含めて総じてひとつの作品なのだと気づかされる。

舞台『悼む人』はPARCO劇場にて28日まで上演。その後、全国11カ所を巡る。

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2012/10/22 3:06

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