TRICERATOPSデビュー15周年記念ツアーファイナルを完全収録

TRICERATOPS

ロック・バンド、TRICERATOPS(トライセラトップス)のデビュー15周年記念ツアーファイナルの模様を完全収録した映画『TRICERATOPS GOING TO THE MOON - 15th ANNIVERSARY SHOW at HIBIYA MUSIC BOWL -』が公開中だ。初日には、TOHOシネマズ日劇にて、メンバーの和田唱(ギター・36歳)、林幸治(ベース・36歳)、吉田佳史(ドラム・41歳)が舞台挨拶に立った。

TRICERATOPSの音楽性の素晴らしさについては、これまで様々なところで語られて来たので、ここにあえて書くまでもない。ここでは映画の内容に的を絞って、映画としての作品の出来栄えについて書きたいと思う。筆者はこれまで何百という音楽ドキュメンタリー、コンサートフィルムなどを鑑賞してきたが、正直お世辞とかを抜きにして、この作品はその中でも最大級の賛辞を呈したいと思う。

話は変わる。コンサート映像作品として、過去傑作といえる作品として挙げられるのは、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』やピンク・フロイドの『ライブ・アット・ポンペイ』などがある。『ラスト・ワルツ』は、音楽の部分部分で、そのとき最も光っている人物を映し出していて、この描き方がその後のコンサートフィルムのバイブルになった。『ライブ・アット・ポンペイ』はカメラワークがアートの領域に達していた作品だった。TRICERATOPSの映画はそれらと比べても引けを取らないだろう。

傑作といわれるものは大抵はフィルムで撮られていた。80年代からコンサートはフィルムではなくビデオで撮るのが主流となってから、なかなか傑作といえる映像作品は生まれていない。最近はデジタルシネマが普及し、デジタルカメラでフィルムと同等の映像美が描けるようになった。その映像は、最大級のスクリーンで上映してもフィルムと比べてもまったく遜色を感じさせないものである。筆者がTRICERATOPSの映画を見て思ったことは、もうフィルムの時代は終わり、デジタルが追いついたということである。

TRICERATOPSの映画のいいところは、コンサートだけしか描いてないということである。それ以上でも以下でもなく、とことんこだわりを感じさせるまでにそれだけに徹底している。コンサートの模様は最初から最後まで2時間半フルで収録しており、現実の時間の流れと映画の時間の流れは完全に一致している。

それじゃあライブ中継の映像と同じじゃないかと言ったらそうじゃない。よくあるライブ中継の映像というものは編集が入っていないので、悪いものではギターソロのところで客席のおっさんの顔をアップで映していたりとんちんかんな作品が多かった。その点ではそういう不満点がTRICERATOPSの映画には全くない。何しろ10台以上のカメラが同時に回っていて、これは本気で作ってるなという感じがした。かなりカット数も多い。客席は極力映さず、瞬間瞬間でバンドメンバーの最も良い映像が選ばれているのは『ラスト・ワルツ』の演出を更に高みのものにしたもので、筆者はここまで完璧なカット割りのライブ映像を過去に見たことがない。

いったいどれだけ編集に時間をかけたのだろうか。そこには一切手抜きは見られなかった。割と記憶に新しい、ローリング・ストーンズの『シャイン・ア・ライト』、エリック・クラプトン&スティーブ・ウィンウッドの『ライヴ・フロム・マディソン・スクウェア・ガーデン』と比べてもTRICERATOPSの映画の方がクオリティ面で確実に上回っており、日本の映像技術の高さに改めて驚かされた思いである。

一台一台のカメラワークも見事の一語である。もはやアートの領域。できるだけ浅いフォーカスで撮影しているので映像に奥行きが生まれており、バンドメンバーがスクリーンから飛び出さんばかりに臨場感たっぷりに映し出されている。顔の表情だけでなく、楽器を演奏している指の動きもはっきりと映し出していて、演奏している映像を見ているだけで、その楽器の音も強調されて耳に入ってきて、実にロックとして気持ちがいい。3人の超絶インプロビゼーションは大きな見せ場。たった3つの楽器だけでこれだけ分厚い音を紡ぎ出していることに驚かされるが、その部分部分のディテールが手に取るように見えてくる映像になっているのである。

日比谷野外大音楽堂という日本最古の野外ステージというロケーションも最高だった。昼から夕方、夜へと空が表情を変えて行く様子が映像にも描かれている。雨上がりの空がなんとも清々しく、日比谷のビルがちっぽけに見えてくるほどに視界いっぱいを包み込む大空がたまらなく開放的である。和田唱がブルースしているときにはすっかり太陽も落ち、暗い中にスポットが照らされ、今度はなんとも幻想的な映像になる。

2回目のアンコールでは会場のみんなと一緒に大合唱する。普通ならこういったライブ音源の場合、客席コーラスは音が小さすぎて作品として後から聞いてもしらけるのが常だったのだが、この映画の場合、客席コーラスも和田唱の声と同じくらいしっかり入っていて臨場感たっぷりである。会場全体でコーラスしているときにまた和田唱が本当に幸福感に満ち満ちた良い顔をしているから見ているこっちまで嬉しくなる。ここまでアンコールの熱気が伝わってくる映像作品は滅多にあるまい。この映画が他のコンサートフィルムと圧倒的に違うのは、本当にそこにいるような気持ちにさせることである。映画なのに思わず拍手をしていた人がいたほどだ。

この映画は、TRICERATOPSの音楽とライト演出の妙技ももちろんだが、天気、ロケーション、15周年の誕生日というシチュエーションなど、様々なことが奇跡的なまでに高い次元で融合している。まるで魔法にかかったような2時間半が堪能できる傑作だ。

舞台挨拶でのメンバーのトーク内容は以下のとおりである。

司会「バンド史上初の舞台挨拶ということで、今の気持ちは?」

吉田「いい劇場でびっくりしました。ライブと違って映像ですからどんなに人が来てくれるかと思ったけど、こんなに来てくれて嬉しいです」

和田「そこでただでさえ僕らの映画、ライブが、映画が・・・、なんだ、まったく喋れてないぞ俺。なんなんだ(会場笑)。最初に舞台挨拶はマリオンで一番大きなところでやるよと言われて、まじっすかと思った」

吉田「これスクリーンも良いスクリーンらしいですよ」

和田「どこで仕入れた情報なの?」

吉田「さっきちょっと裏から触ってみたんだけど肌触りがすごいんですよ」

林「それは俺も思った。ああ、こういう質感してるのかと、ちょっとビニールぽいんですよ。よく見ると、ちょっと穴が空いてるんですよ」

和田「中にスピーカーが入ってて、そのスピーカーの音を中からぶわっと出すために穴が空いてんじゃなかったっけ。昔テレビでやってた。間違ってたらすいません。多分そうだと思います(会場拍手)」

司会「この日のライブの思い出を聞かせてください」

和田「個人的に、この数日前に喉をぶっ壊しまして、本当に声が出なくなっちゃってこれ絶対ダメだと思って、急いで病院行って、点滴うったりとかして、応急処置をほどこしてLa.mamaのステージに挑んだんですけど、でもやっぱ全然ダメで、まいったなと思ったら、そのときはお客さんにすごく助けてもらって、みんなのお陰で、それはライブとしてはものすごく温かい特別な夜になったんですけど、でもあれはある意味La.mamaだから許されたのであって、これは野音では通用しないぞと思って。しかもカメラが入ってて後で作品になることはわかってたんで」

和田「その次の日、本当に一日の休みしかなかったんで、できる限りのことをして挑んだんですよ。この日朝起きて、どうだろうと思って声を出したら・・・出ないんですよ。今日は日比谷最終日なのにって、すっげえ落ち込んでた。でもそんなこと言ってらんねえから、ここは奇跡を信じるしかなくて、実を言っちゃうとこの日も病院に行って挑んだんですよ。本当に色々な人の力が働いたと思うんですけど、あとは映画を見て欲しいんですけど、僕はこの日魔法をかけてて、なんと声が出たんですよ。最初から最後まで!」

和田「これは色んな奇跡と魔法がかかったとしかいいようがなくて、現にこの日終わってすぐに声が出なくなって、3日間くらい声が出なくて。やりながらいつダメになっちゃうかわかんないという不安があって、でもきっと大丈夫だとどこかで感じている自分もいて。野外というのもあるし、ちょうど15歳の誕生日ということで、みんなと僕らの奇跡のコラボレーションになったと思っています」

吉田「声が心配だったというのは本当にあったんですよ。15歳の誕生日だし、なんかひとつ大きくワンステップ進んだようなライブだったなと。それが映画として上映されるのは嬉しいです」

林「野音の日は雨が降ってたんですよね。まずそこが心配があったんですけど、なんかあがったし。喉のこともあったけど、いつだって15年間そういうので失敗したことってないし、信じてたというか、絶対歌ってくれると思ってた」

林「野音は雰囲気としては結構シリアスですごかったですよね。時間のことを気にしてて。野音って公共のものだから、何時までに完全撤収しなければいけないのもあって、押せないし失敗できないと思ったし、ここでふざけて喋っちゃうと尺がのびちゃうからとか、そういうの気にしてた」

和田「2人のそういう感じもビシバシ感じてて、普段のライブだったらもっと2人がどんどん絡んでくるのに、全然絡んで来ない感じも、ああ2人とも時間気にしてんだなと思った。1分でも押しちゃいけない雰囲気があったね。1分でもすぎたら色々面倒くさくて、もう二度とできないとかね」

林「始末書を書かなきゃいけない」

吉田「時間の20秒前に終わったんだって」

和田「まじで!? うわぁ、すげえ!」

吉田「終わった時もホッとしたし、雨もやんだし声も出たし、すごいうまくいったなと。すごいホッとしたのと嬉しかったのがありますね」

和田「これツイッターにも書いたんですけど、時間がなくて、みんな髪の毛セットするじゃないですか。みんな鏡に向かってワックスつけたり、ドライヤーでブォーってやって、それぞれ本番の30分前ぐらいに髪の毛とかやるんですけど、この日はとにかく押せないということで、僕もストレッチやらスーツに着替えて歯磨いて、さて髪の毛やろうと思ったら、もうスタンバイです! みたいになっちゃって、ちょっと俺髪の毛やってないから、髪の毛! 髪の毛! もういいや! しょうがない!ってそのまま出て。僕らもデビュー前から16年くらいライブやってますけど、本番前に整髪料つけなかったのはこの日が初めてですね(会場笑)」

吉田「ふわふわしてる」

和田「それがすごくイヤなんです。ふわふわしてるところがこんな大きなスクリーンに映っちゃうんだって思って、イヤだなあ」

吉田「モザイクかけりゃいいよ(会場笑)。でも髪の毛セットして1分押してたら最後40秒前に音がブツっとなってたね」

和田「だから俺が整髪料つけてたら二度と野音でできなかったね。そう考えるとこのふわふわにも意義が出てくるよね」

吉田「逆にありがたいぐらいだよ(会場笑)」

和田「みなさん、僕の髪をありがたいと思ってください(会場笑)」

吉田「15歳。中学3年生ですね」

林「さすがに5年とか8年とかだとあっという間でしたねぇとよく言うし、そう思うけど、15年というのはそんなにあっという間という感じではないですよね。すげえ早かったという感じでもないけど、色んなことがあったなあというのはありますよね。・・・内容のあること何も言ってないですけど(会場笑)」

和田「なんですかねえ。今僕らは、音楽シーンを見回してみると非常に中途半端な位置にいると思うんです。15年間すごくがんばって変わらないメンバーでここまで来たのは誇りでもあるんですけど、でもそういう先輩たちもいるし。すごいでしょという気持ちもあるけど、あまり何度も言えないんですよね」

吉田「先輩たちが邪魔だな」

和田「そうだな。先輩たちが邪魔だな。今の嘘ですから(会場笑)」

司会「目指せ20周年ということで、20周年にはどうします?」

和田「時間守ったから、また野音でもできるということですよね。今後の抱負は、これはやっぱり林に訊かないと」

林「まあそうですよね。ライブは好きだし来てくれる皆さんもいるので、15周年で野音やったんで、そんときは武道館あたり行っちゃいますか(会場拍手)」

和田「良いこと言うね」

林「と言いながら、一人お客さんを連れてきてくれると倍になるという(会場笑)。人に紹介したくなるようなバンドでありつづけたいなと思っています」

吉田「いい締めだね」

和田「僕らのこういうライブが作品としてフルサイズで全部流れるというのは初めてです。男たちが3つの楽器と声だけで築き上げてきたものを感じてもらえたらすごい嬉しいかなと思っています。とにかく笑っちゃうくらいあの日そのままなので」

ライブシネマ『TRICERATOPS GOING TO THE MOON - 15th ANNIVERSARY SHOW at HIBIYA MUSIC BOWL -』は現在公開中。(文・写真:澤田英繁)

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2012/10/22 2:19

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