戦国マニア待望のスペクタクル映画『のぼうの城』ついに公開へ

『のぼうの城』

製作開始から8年。『のぼうの城』の公開日がいよいよ11月2日(金)に迫った。豊臣秀吉と北条氏政が争った戦国時代最後の合戦「小田原の戦い」の忍城(おしじょう)のエピソードを描いた作品である。

去年9月に公開するはずだったが、東日本大震災の影響で公開が1年以上も延期していた。「歴女」という造語ができるなど、今戦国時代が大ブームの真っ只中であるが、そんな中、ようやく歴史映画の真打ちといえる作品の「解禁」である。2012年公開の映画の中でも最もお金がかかっている邦画ということで、これは単に時代劇といった程度のものではなく「歴史スペクタクルエンタテインメント大作」といえるものである。

公開を目前にして、9月20日(木)には六本木ヒルズアリーナでキャスト陣を迎えて大掛かりなプレミアイベントも行っている。この記事ではプレミアの模様を伝えると共に、作品の世界をより深く楽しんでいただくために、その時代背景を簡単に説明している。歴史映画は、その時代を知っていると、より深く楽しめるものである。

戦国時代とは

幕開けは室町時代の1467年。京都で内乱が起こる。「応仁の乱」である。11年も続いたこの乱により、京都は無法地帯となり、政治の中枢を失った日本では、全国各地で力を持ったものたちが台頭し「戦国大名」となる。ここから全国各地で群雄が割拠する戦国時代へと突入していくのである。

戦国時代は、日本中にいくつもの国があったと考えればわかりやすい。隣の領地は言わば外国なので政治も経済も全く違っていた。戦国大名は、自分の国を大きくするために、隣国と戦をして、それに勝利することで領地をどんどん広げていったのである。

毎日、日本のどこかで誰かが戦を行っていた。例えるなら地区予選である。この地区予選は100年もの長きに渡って続いた。勝ち抜き戦であるから、1580年にもなると、有力な大名家はついに全国で伊達・上杉・北条・徳川・織田・毛利・長宗我部・島津の8家だけになっていた。勝ち残ったこの8家が決勝トーナメントへと進出するのである。
版図1582年

これは説明の便宜上ざっくり描いた地図だが実際はもっと複雑である。この地図を見てもらえばわかるように、京都をも手中に収め、誰よりも大きな版図を描いている織田信長が近いうちに日本を統一することはまず間違いなかったはずだった。ところが歴史とは面白いもので、1582年、日本の歴史が一夜でひっくり返る大事件が起こった。「本能寺の変」である。織田信長は家来の明智光秀の謀反により殺されてしまうのだ。

ここに信長の家来だった秀吉が登場する。信長に才能を認められて草履取りから一軍団長へと出世した秀吉は、中国の覇者・毛利輝元と交戦中であったが、毛利とは和睦に持ち込み、同じ年「山崎の戦い」で明智光秀を倒し、織田軍内で急激に力を増して行った。この当時は世襲制であり、大名家の当主が亡くなればその息子が後を引き継ぐことになっていた。織田信長には長男・信忠がいたが、信忠も明智に殺されていたため、次男・信雄か三男・信孝のどちらかが織田家の後継者になると思われていた。しかし、秀吉は1583年「賤ヶ岳の戦い」で織田信孝を、1584年「小牧長久手の戦い」で織田信雄を制し、事実上織田家をさん奪したのである。

秀吉の勢いはとどまるところを知らず、1585年には四国の覇者・長宗我部元親を打ち破り、天皇の代理人である関白の座へとのぼりつめた。その翌年には現在の総理大臣に相当する太政大臣になり、名目上天下人、豊臣秀吉となった。北陸の覇者・上杉景勝を政治的に支配下につけた豊臣秀吉は、天敵ともいえる徳川家康までも言葉巧みに言いくるめて味方につけると、1589年には九州の覇者・島津義久を打ち破った。そして1590年、いよいよ関東の覇者・北条氏政と対決するため「小田原攻め」を開始する。この合戦中に、東北で勢力をのばしつつあった伊達政宗も遅ればせながら豊臣の傘下に入ったため、これで日本の勢力は豊臣・北条の2者だけに絞られた。
版図1590年

やがて北条氏政は降伏し、豊臣は名実共に天下人となり、ここに戦国時代は幕を下ろす。織田信長が尾張(愛知県西部)一国を統一するまでには、親の代から数えて何十年もかかっているが、豊臣秀吉は電光石火の早業で、わずか8年で日本全国を統一するのである。その秀吉に最後の最後まで刃向かったのが北条氏政だったわけで、秀吉は20万もの兵をこの一戦のために投入したと言われている。これはひとつの合戦にかける兵の数では最高記録。「小田原の戦い」は戦国時代最後の合戦にして、戦国ファンの間でも10本の指に入る名合戦のひとつなのである。

『のぼうの城』で描かれるもの

『のぼうの城』で描かれるのは「小田原の戦い」の一エピソードである「忍城の戦い」である。豊臣秀吉は日本一のキャッスルキラーであり、城を攻めたら負け知らず。まさに城攻めの大天才だった。「小田原の戦い」では秀吉は関東にある城をひとつずつつぶして北条を着実に追い詰めていくわけだが、あらゆるものを屈服させてきた秀吉が最後まで唯一落とせなかった城が忍城だった。秀吉は2万の兵に忍城を攻めさせるが、忍城はわずか500の兵で城を守り抜いたのである。その城代は「でくのぼう」といわれたちょっとズレた武将・成田長親だった(演じるのは能楽師の野村萬斎だ)。弱きものが強きものに抵抗する。この戦国ロマンが『のぼうの城』に描かれているのである。

映画では、この世界を表現するために、東京ドーム20個分のセットを作ったというから、かなり力が入っているといえるだろう。秀吉得意の水攻めや合戦のシーンなども迫力の映像で描かれている。また、キャスト陣がイチオシする田楽踊りのシーンも必見とのことだが、それがどのように描かれているかは見てのお楽しみだ。

キャストがジャパンプレミアに「出陣」

六本木ヒルズで行われたジャパンプレミアには、野村萬斎(46)、榮倉奈々(24)、成宮寛貴(30)、山口智充(43)、上地雄輔(33)、山田孝之(28)、佐藤浩市(51)、犬童一心監督(52)、樋口真嗣監督(46)が出席した。ステージには本物の滝と本物の火炎の演出もあり、大掛かりなものであった。スモークの中から監督・キャストが2人ずつ「出陣」するときに流れる太鼓を使ったBGMはいかにもスペクタクル映画ここにありといった感じ。この音楽にはかなりゾクゾクっと来たので、作品にもかなり期待できそうだぞ。

映画には、豊臣秀吉、北条氏政の他、石田三成、大谷吉継、長束正家ら、戦国時代の有名武将たちが続々と登場する。石田三成は戦国時代一頭が切れる奉行。これを上地雄輔が演じているのも注目ポイントで、上地は「僕が知将を演じるなんて、これが最初で最後だと思います」と笑いを誘っていた(ちなみに上地は『天地人』では対照的な小早川秀秋を演じたことがあった)。この映画を引っさげてモントリオール映画祭にも出席した上地。具足など外国人もかなり食いつきが良かったとのことで、つまりは戦国時代をよく知らない人でも誰でも楽しめるというわけだ。

この日、綺麗な脚が眩しかった榮倉奈々は、甲斐姫の役を演じている。甲斐姫は後に豊臣秀吉のめかけとなる女性である。波乱の人生を送った甲斐姫が、忍城にいた頃、どういう生活をしていたのか、またどのように映画の中で秀吉と接点を持つのか、その辺を見つけるのも歴史ファンとして映画を見る楽しみのひとつになるだろう。榮倉は「最後のエンドロールが一番好きです。キャストは誰も出ませんが、最後まで見た人だけがわかる内容になっているので、絶対最後まで見切ってください」と話していた。

監督は2人いる。事情があってやむなく監督が2人になったのではなく、最初から最後まで監督2人で作るべくして作ったという。アメリカではコーエン兄弟やウォシャウスキー兄弟などの例があるが、日本では非常にまれなケースだ。2人とも作品にかなり自信を持っていて、樋口監督は「2人でやってすごく良かった。すごく良すぎたから誰にも真似されたくない。ここだけの独占にしたい」、犬童監督は「面白かったので5回も見た」と話していた。2人とも自分の作品を自分で褒めるのではなく、まるで他人の作品を一観客の視点から褒めているような言い方だったのが印象深かった。

佐藤浩市は「30年以上この仕事をやっていますけど、試写室の小さなスクリーンで見たことをこんなに後悔したのは久しぶりです。今日ここで大きなスクリーンで見られる皆さんが羨ましいです」と話していた。いつも舞台挨拶でこういうことを言わない佐藤浩市にそこまで言わせた作品である。公開は11月2日(金)から。(澤田英繁)

ジャパンプレミア

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2012/09/23 5:21

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