チャップリンの声優口演で若本規夫節が炸裂
9月16日(日)、上野にて、『声優口演ライブ in したコメ2012』が行われ、声優の羽佐間道夫(77)、野沢雅子(74)、若本規夫(66)、山寺宏一(50)がチャーリー・チャップリンの『霊泉』と『午前一時』の映像に合わせて見事な口演(活弁トーキー)を披露した。
『霊泉』でチャップリン役を演じた羽佐間は、「声優志望の人も来ていると思いますが、声優はこういうこともできるということを知ってもらいたい」とコメント。野沢は紅一点ということで、美女エドナ・パヴァイアンス役を演じ、「今回初めて全部女性だけの役でやらせてもらいました。いつも男の子の役ばっかりなのに」と喜んでいた。
この日の目玉は、”穴子さん”こと若本規夫。なにしろこういうイベントに参加することは滅多になく、羽佐間が「今、若様人気がすごい」と言えば1200人の観客の多くが大喝采していたほど。『プリズン・ブレイク』のティーバッグ役で独自のスタイルを生み出しお茶の間の人気者に。『ドラゴンボールZ』の再収録版では悪役セル役をそのスタイルで演じ直してみせ、海外ドラマとアニメの新しい楽しみ方も教えてくれた。かつて声優は"この役者にはこの人"と決まっていたように、ロバート・ネッパーといえば若本と、今ではハリウッドスターの声も専属化してきているが、これも若本人気が起因しているのではないかと思えてならない。口演では、最初のナレーションの一言目から若本節が炸裂。巨漢エリック・キャンベルの役を演じていたが、エリックの登場シーンが映るたびに観客全員が爆笑していた。
チャップリンといったら「映画史上最大の天才」という褒め言葉が唯一許される人物である。しかし、チャップリンの本当の実力が発揮されるのは『移民』あたりから。『街の灯』も『モダン・タイムス』も大傑作であるが、『移民』よりも古い作品は、今見るといったい何が面白いのかわからない単なるドタバタでしかない作品が多く、今ではあまり知られていない作品がほとんどだ。当時は写真が動いているだけでも面白かったからドラマ性などあまり深く考えられていなかったのが現実なのだが、今回の声優口演を目の当たりにして、チャップリンは実はストーリーをよく考えて作っていたことを気づかせてくれた。意外にもギャグは高度で、ただ映像を見ていただけでは気づかない細かいギャグも声優がセリフを入れてくれたことで意識させてくれて、「なるほど、そうなっているのか」と納得させられた。
『霊泉』も『午前一時』も映像だけ見ていても大して面白いものではないのだが、これが声優がやると、あら不思議、生き生きとした傑作コメディへと変わってしまうのである。若本も「実はチャップリンの映画を面白いと思ったことがなかった。今回180度見方が変わりました。チャップリンはすごく面白い!」と話していた。『午前一時』を一人で演じた山寺は一切台本を見ずに見たまんま声を即興でいれていたが、解説と演技がミックスした独特の口演で、チャップリンが階段を落ちるときの叫び声など絶妙のタイミングだった。山寺の芸達者ぶりに感銘を受けると同時に、改めてチャップリンの至芸の妙味を再確認させられた思いである。
口演には、他に、田原アルノ、駒谷昌男、今村一誌洋、冨沢竜也が参加。生演奏に古後公隆、川嶋杏奈。解説に日本チャップリン協会の大野裕之が出席した。したまちコメディ映画祭では、これからも毎年声優口演を行っていくという。
2012/09/19 2:15