ハイレベルな即席映画作品群『シネマ☆インパクト』第1弾登場
9月14日(金)まで、オーディトリウム渋谷で『シネマ☆インパクト』といわれる作品群が上映中である。5作品あって、監督もなかなか有名どころが集まっていたので、面白そうなので筆者もちょっくら初日にお邪魔させてもらったのだが、刺激にあふれた作品群になっていて、内容には大満足だった。大きな映画館でやっているメジャー作品よりもある意味よくできていると思ったくらいである。
これは山本政志監督が発起人となっているプロジェクトで、一見すると映画のワークショップのようなものであるが、実際は有名監督たちが、「これだけ」と決められた予算・決められた期間の中で、若い俳優・若いスタッフたち(シネマ☆インパクト第一期受講生と呼ばれる人たち)と一緒に自由に映画を制作し、それをぶつけ合う映画の格闘技のようなものになっていた。
音楽でいえば即興のような感覚で映画を制作しているわけだが、といっても本人たちはガチンコで勝負しているから、ハイ軽く作りましたという程度のレベルじゃなく、恐ろしく品質は高かった。役者たちはみんな無名の若者たちであるが、演技の質があまりにもハイレベルで、存在感というか佇まいはまるでベテラン俳優のように味があった。同じ受講生が複数の作品に出ているので、2作品続けて同じ顔の役者を見ると、もうまるで有名俳優のように見えてきたものである。どうみても低予算なのだが、いずれも強く心に刻み込まれる傑作で、即席でもアイデア次第でこんなにも面白い映画ができてしまうのかという驚きの連続であった。
参加監督は、山本政志のほかに、大森立嗣(『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』)、瀬々敬久(『アントキノイノチ』)、鈴木卓爾(『私は猫ストーカー』)、深作健太(『バトル・ロワイアルII』)。詩的な瀬々、寓話的な鈴木、暴力的な深作と、おのおのの作品がことごとく作風がバラバラ。非常に実験性に溢れているのが特徴で、「アジアのインディーズ映画の息吹が芽生えていけばと思います」と瀬々監督。深作監督は「3日間の撮影で、スタッフと一緒に作って行く映画作りの基本に戻れた。心から楽しんで作りたいものを作れた映画。映画作りの熱が伝われば」と話していた。
中でも鈴木監督作品の『ポッポー町の人々』は上映時間が86分もあり、普通に一本の映画としてのボリュームがある。群像劇の形をとった作品としてはメジャーシーンと比較してもかなり傑作の部類ではないかと思う。「脚本はなく、グループ分けした人物像の中でも、みんなで関係性を独自に作ってもらったものをエチュードという形でまとめあげた。まとめていくうちに、ブレーメンの音楽隊のように描くアイデアが思いついた」と話す鈴木監督。ヨーロッパ映画のような雰囲気の長回し撮影が特徴で、演出の力だけでごく普通の見慣れた東京の町を、まるでおとぎの国のように描くことに成功している。
一方、山本監督の『アルクニ物語』は遊び心に溢れた密室SF劇となっているが、一室に閉じ込められた9人の生活がそのまま人類の歴史を凝縮したカリカチュアになっており、そのぶっとんだ発想力はインパクト大である。
映画上映後の舞台挨拶では、スタッフが椅子を用意しようとしていると、山本監督が「面倒だ。そのままここに座ってやろう」といってステージであぐらをかいてトークショーが始まった。筆者はステージであぐらをかいた人を過去見たことがない。こういう誰も考えもしなかった行動を本能的にすること、これこそが天才的アイデアの源だという気がする。
山本監督は「今回他の人の作品を見てすごく刺激になった。映画監督って、みんな映画バカなんだね」と話していた。映画バカが思いつくままに自由に映画を作ると、それだけで、こんなにも面白いものができてしまうことを『シネマ☆インパクト』は教えてくれる。何より役者・スタッフからほとばしる若いエネルギーに圧倒されるが、改めて映画とは何かということに立ち返れるだろう。第2弾、第3弾も控えているとのことで、筆者も楽しみが増えた。映画バカなら、これを見て損はない。(澤田英繁)
2012/09/03 4:20