ビーチ・ボーイズ 2012年8月 ライブ・イン・ジャパン @千葉マリンスタジアム レポート
会見の写真より (C)EMI Music Japan
8月16日(木)、幕張のQVCマリンフィールド(千葉マリンスタジアム)で行われたビーチ・ボーイズのコンサートに行って来た。もう最高! 感動と興奮の連続! さすがは全米最強のロック・グループだ。
僕も毎年色々なバンドのコンサートに行ってるけど、このコンサートは僕が今までに体験した中でも「思い出に残ったライブ」のトップを争う内容であったと断言する。オーディエンスの数にもびびった。球場のアリーナ席を満席にしたことは、ビーチ・ボーイズが決して過ぎ去った往年のロック・グループではなく、今も現役バリバリのロック・グループだということを示している。
メンバーラインナップは、ブライアン・ウィルソン(ボーカル、キーボード)、マイク・ラブ(ボーカル)、アラン・ジャーディン(ギター、ボーカル)、ブルース・ジョンストン(キーボード)、デビッド・マークス(リードギター)。
正直、僕は最初は軽視していた方だった。というのもメンバーの年齢はアラウンド70。とても50年前のような演奏はできなくなっていると思っていたからだ。好きなバンドだけにヨボヨボ憐れな演奏を見てがっかりなんてしたくない。しかし、前回の来日公演は遥か昔の33年前のこと。これを逃せばもう次はいつ来てくれるかわかったもんじゃなく。とにかくまずは何も言わずに見に行こうではないかと、そんな不健全な気持ちで行ったら、これが大満足! 見事なライブだった。というかこれ、70歳のじいちゃんたちが出す音じゃないよ。みんなすごすぎ。ますます尊敬しました。来日記者会見ではブライアン・ウィルソンは「50年分練習したからうまくなっていると思う」と言ったようで。しかしロック・グループがこうして記者会見を開くのは異例。僕も会見をやると知っていたら喜んで取材したのだが、滅多にないビーチ・ボーイズの記者会見を取材する機会を逃したことは一生悔いが残る不覚であった。
最強のロック・グループのコンサート
それにしてもコンサートはすごかった。何がすごいかって、もうそのロック・フィーリング。リズム感にビート感。こんなにゴキゲンなライブは初めて見た。最初は「恋のリバイバル(Do It Again)」からスタート(これ僕の一番好きな曲なんだよね~)。マイク・ラブとブライアン・ウィルソンの最強コンビの共作。ビーチ・ボーイズによるハード・ロックで、ズンズンと腹にくるこのリズム・ビートがたまらない。
なんと100分で全33曲も歌ってくれた。ビーチ・ボーイズの60年代の曲の多くは2分から3分と短く、コンサートは短い時間に見せ場が凝縮された楽曲のオンパレードとなった。曲目をブロックにまとめて曲が終わる直前に次の曲につながてほとんど途切れなしにやっていたからかなり満腹感があった。アップテンポとバラード、配分もちょうど良かったが、「ドント・ウォーリー・ベイビー」のようなバラードにもビート感があってノリノリ体を揺さぶらせるのはさすが最強のロック・グループである。
それにしても、ビーチ・ボーイズのコーラスは唯一無二だなぁと思った。かなり独特なコーラスで、ある意味異常ともいえる声であるが、これがもう見事なハーモニーになってアリーナを包み込んでいた。スタジオアルバムでは伝わってこないグルーブ感がライブにはあった。
リードボーカルは、マイクとアランとブライアンの3人が曲ごとに分け合った。「セイル・オン・セイラー」でブライアンがリードボーカルを取ったのは意外だったが、これも僕の大のお気に入りの曲なので歌ってくれたのは感激である。マイクとアランは50年前と声がまったく変わっておらず若々しかった。「ヘルプ・ミー・ロンダ」などアランの声ははつらつとしてカリフォルニアの爽やかさを感じる。マイクはぐにゃっとした声でアクが強いが、「これぞビーチ・ボーイズ」といった存在感で、バンド全体をひっぱっていてグループの健在ぶりを示していた。しかし、3人の歌声をこうして同時に聞けることがどんなに幸せなことか。
3つに分かれたメンバーが再び集まった
ファンなら知っていることだが、ビーチ・ボーイズのことをよく知らない人のために説明すると、マイクとアランとブライアンはつい最近までバラバラだったのである。
ブライアンは1966年から「引きこもり」になりバンド活動から退いていたが、肥満でブクブクになっても「作曲家」としてビーチ・ボーイズを裏から支え続けていた。ブライアンの代わりに加入したのがブルース・ジョンストンで、ビーチ・ボーイズは「5人のパフォーマー+1人のブレーン」という構成でロック史に数々の金字塔を打ち立てていくのである。
ところが、リードギター・リードボーカルとしてバンドを取りまとめてきた事実上のリーダー、カール・ウィルソンの死により、バンドは崩壊し分裂していく。ビーチ・ボーイズの名義はマイクのものとなり、アランは脱退。ブレーンとしてバンドの創作性に関わってきたブライアンはソロ活動に専念することになる。バラバラになったこの3人が、結成50周年という大義のため、再び集結したのだからファンがこうして今沸きに沸いているわけである。なお、ブライアンがソロになってから発表した作品がことごとく「ビーチ・ボーイズそのもの」といえるものだったので、ファンにとってはブライアンの復帰はこれ以上ない喜びであった。
前述したようにブライアンは引きこもりだった。そのせいか、この日のライブでもただ片隅にじっと座っているだけで手も動かさず、無表情のまま、ほとんど何もしていなかった。でもそれがかえってブライアンのカリスマ性を感じさせた。そこにブライアンが座っている。ただそれだけでファンは満足だった。時々ブライアンがリードボーカルを取ると、もう拍手喝采だった。なお、去年発表したニューアルバム「神が創りしラジオ」をプロデュースしているのはブライアンであり、やはりビーチ・ボーイズの創作性の多くはブライアンが担っていることを示している。
一方、マイクは、やはりこの人こそライブの中心といえる人物だった。「リトル・ホンダ」、「ファン・ファン・ファン」など、圧倒的な存在感で、マイク・ラブに惚れ直したファンも多かったはず。かっこいいなぁ。ビーチ・ボーイズというロック・グループは、マイクという底抜けに明るい陽の部分と、ブライアンというセンシティブな陰の部分、この2つの側面があるから面白いのだと改めて実感させられた。スタジオアルバムで存分に陰の部分を堪能したら次はライブで陽の部分を堪能する。これがビーチ・ボーイズの楽しみ方。どちらもビーチ・ボーイズのイメージそのもの。ビーチ・ボーイズが最強のロック・グループたるゆえんはここにある。
ところで、故カール・ウィルソンの代わりにリードギターで今回新たに加入したのがデビッド・マークスである。デビッド・マークスという名前を見たときにはファンの多くが驚愕したものだ。なぜならデビッドは結成当時にアランの代役としてほんの少しだけバンドに在籍していた人だからである。「サーフィンUSA」、「サーファー・ガール」など初期のサーフィンの名曲の多くはデビッドが在籍していた頃の曲であり、このバンドに今正式メンバーとして加入が許される人物がいるとすれば、それはデビッドをおいて他にはいないと言わせるものがある人物である。これが思いの外うまく、デビッドは渋くリードギターを弾いて間奏部分の主役を担っていた。
アンコールには、嬉しいサプライズとしてクリストファー・クロスとアメリカが登場し共演も果たした。まさかここであのクリストファー・クロスを拝めるとは思ってもみなかった。クリストファー・クロスといったらグラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞している数少ないロック歌手の1人であるが、それだけの偉業の持ち主でもビーチ・ボーイズの前では恐縮しきり。格の違いをうかがわせた。
全体を通して見て、僕が一番感動したのはやっぱり「グッド・バイブレーション」だった。すごい構成力で次々とシーンがダイナミックに展開していくロックの革命ともいえる名曲中の名曲だが、意外にも演奏時間は3分40秒と長くはない。しかし、たった3分40秒という短い時間の中にあらゆるものが詰まっていて、ブライアンの創作性とビーチ・ボーイズの完成されたコーラスワークと、改めてこの曲の作り出す宇宙に感服した思いである。この日、この名曲を生で聞けたこと。それはこの上ない幸福であった。(澤田英繁)
ビーチ・ボーイズ メンバーの変遷
33年ぶりの来日コンサートのメンバーがファンにとっていかにすごいメンバーだったか、次のメンバー変遷図を見ていただければ理解していただけるだろう。
2012/8/16 セットリスト
曲名 | 種別 | 発表 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
1 | Do It Again | ロック | 1968 | アルバム「20/20」から |
2 | Little Honda | ロック | 1964 | アルバム「All Summer Long」から |
3 | Catch a Wave | ロック | 1963 | アルバム「Surfer Girl」から |
4 | Hawaii | ロック | 1963 | アルバム「Surfer Girl」から |
5 | Don't Back Down | ロック | 1964 | アルバム「All Summer Long」から |
6 | Surfin' Safari | ロック | 1962 | アルバム「Surfin' Safari」から |
7 | Surfer Girl | ロック | 1963 | アルバム「Surfer Girl」から |
8 | Don't Worry Baby | ロック | 1964 | アルバム「Shut Down Volume 2」から |
9 | Little Deuce Coupe | ロック | 1963 | アルバム「Surfer Girl」から |
10 | 409 | ロック | 1962 | アルバム「Surfin' Safari」から |
11 | Shut Down | ロック | 1963 | アルバム「Surfin' USA」から |
12 | I Get Around | ロック | 1964 | アルバム「All Summer Long」から |
13 | That's Why God Made The Radio | ロック | 2011 | 新曲。アルバム「That's Why God Made The Radio」から |
14 | Sail on, Sailor | ロック | 1973 | アルバム「Holland」から |
15 | Heroes and Villains | ロック | 1967 | アルバム「Smiley Smile」から |
16 | Isn't It Time | ロック | 2011 | 新曲。アルバム「That's Why God Made The Radio」から |
17 | Why Do Fools Fall in Love | ポップ | - | ソウルグループ フランキー・ライモン&ティーンエイジャーズのカバー |
18 | When I Grow Up (To Be A Man) | ロック | 1964 | アルバム「Today!」から |
19 | Cotton Fields | ポップ | - | ブルース歌手 レッドベリーのカバー |
20 | Forever | ロック | 1970 | アルバム「Sunflower」から デニス・ウィルソンの生前の映像と共演 |
21 | God Only Knows | ロック | 1966 | アルバム「Pet Sounds」から カール・ウィルソンの生前の映像と共演 |
22 | All This is That | ロック | 1972 | アルバム「Carl and the Passion: "So Tough"」から |
23 | Sloop John B | ロック | 1966 | アルバム「Pet Sounds」から |
24 | Wouldn't It Be Nice | ロック | 1964 | アルバム「Pet Sounds」から |
25 | Then I Kissed Her | ポップ | - | ソウルグループ、クリスタルズのカバー |
26 | Good Vibrations | ロック | 1966 | アルバム「Smiley Smile」から |
27 | California Girls | ロック | 1965 | アルバム「Summer Days (And Summer Nights!!)」から |
28 | Help Me, Rhonda | ロック | 1965 | アルバム「Today!」から |
29 | Rock and Roll Music | ポップ | - | ロックンロール歌手 チャック・ベリーのカバー |
30 | Surfin' USA | ロック | 1963 | アルバム「Surfin' USA」から |
以下、アンコール | ||||
31 | Kokomo | ロック | 1988 | アルバム「Still Cruisin'」から。 クリストファー・クロス(リードボーカル)が参加 |
32 | Barbara Ann | ポップ | - | ロックンロールグループ リーゼンツのカバー。 アメリカがコーラスで参加 |
33 | Fun, Fun, Fun | ロック | 1964 | アルバム「Shut Down Volume 2」から。 アメリカがコーラスで参加 |
2012/08/18 3:01