バカ殿様、変なおじさん。志村けんの神芸を舞台でかつ目せよ
志村けん一座の第7回公演『志村魂~新作「先(ま)づ健康」~』が天王洲 銀河劇場で現在絶賛上演中だ。2006年の旗揚げ以来、毎年続けて来た『志村魂』も今年で7年目。今年もバカ殿様、ショートコント集、津軽三味線ライブ、お芝居と充実の4場構成であるが、何と言っても今年最大の目玉は、いしのようことの約20年ぶりの共演である。
いつも自分の好みで相手役を決めるという志村けん。記憶に残る相手役といえば、桜田淳子、堀ちえみから、現在の優香、みひろまで、あげればきりがないが、その中でも最も息の合った相手役に”いしのようこ”の名をあげるファンは多い。『志村けんのだいじょうぶだぁ』で共演していたときには、当時中学生か高校生だった筆者の目にも思わず嫉妬心を覚えてしまうくらい息がピッタリだった。
いしのようこが番組を引退したのが1992年の年末だったから、つまりはこの公演で19年と半年ぶりの共演ということになる。『だいじょうぶだぁ』の夫婦コントで毎週やっていた”醤油、辣油、アイラブユー”のやりとりも久しぶりに披露してくれて、うわぁ懐かしいこと。それと同時に、あれからもう20年も経っているのかと思うと、筆者含め番組を見ていた子供たちも今ではみんな社会人になっているのだから、何やら感慨深くなってくる。(しかし、いしのようこのその若さにびっくり。全然20年前と変わっていないのである)
マスコミ向けの囲み取材のときは、普通なら遅れて来て当たり前のこの業界でも、志村けんはきっかり予定時間通りに登場した。志村けんが一度も遅刻したことがないというのは有名な話である。しかし、マスコミの前に来て最初に言った一言が「眠いですね」だったのには笑ってしまった。志村けんはカメラの前に来ると、地面にごちゃごちゃと置かれていた記者たちのICレコーダーを見て、それをひとつひとつ綺麗に一列に並べ始めた。何をやってもおかしく見える。筆者はこの些細な行為に志村けんの自由な生き様と、人柄の良さを見た気がする。カメラに向かってアイ~ンのリクエストをお願いしたら、志村けんは気さくに応じてくれた。
最後の大物独身タレントと言われている志村けんだが、ドリフメンバーの加藤茶、仲本工事の相次いでの年の差婚の報道もあって、「志村さんはご結婚はまだでしょうか?」と予想通りの質問攻めもあった。志村けんは「またその話か。結婚の予定はありません」ときっぱり否定。さらに記者は「いしのさんと現実の世界でもパートナーになることはないんでしょうか?」とぬけぬけ聞いてきて、かなりストレートすぎる質問だったが、いしのは「私は20代じゃないんで」と冗談混じりにそれを否定していた。なんだか懐かしいこの空気。昔から相手役との噂はマスコミを騒がせてきたものだ。
今回は志村けんの方からいしのようこに声をかけて誘ったとのことだ。いしのは二つ返事で出演を快諾したと話していた。お互いを「志村さん」、「陽子さん」と呼び合っていると言っていたが、ゲネプロでは、志村けんがいしのようこを役名で呼ぶところをセリフを間違えて「陽子さん」と呼んでしまって、お芝居とは違う意味で客席から笑いが巻き起こっていた。
たっぷり3時間、筆者は一観客として楽しませてもらった。舞台の感想だが、コントとコントの合間に歌や踊りがあるのもバラエティショーらしく楽しかった。シルク・ドゥ・ソレイユ風のパフォーマンスもあったし、アメリカのタップダンスを取り入れた演目<タップ>のようにメインキャストが出て来ないコントもあって、一座として観客を楽しませようという心意気は高く評価したい。また、出番は少ないが桑野信義のラッパ芸も一見の価値ありだ。
そして、弾けるようなダチョウ倶楽部のノリの良さ。ダチョウ倶楽部がバカ殿様の側用人になったことでお笑いタレントとして確固たる地位を築いたことは言うまでもないが、志村けんにとっても、本当にいい側用人を見つけたものである。バカ殿は志村けんのライフワークで、すでに完成されていたキャラクターだが、そこにダチョウ倶楽部が抜擢されたことで、バカ殿はさらに洗練された完璧なものになったと思う。両者の出会いは奇跡のようなものだと思う。
筆者は子供の頃はドリフのコントだけがテレビを見る楽しみだった正に志村けんのド真ん中世代。筆者にとっては志村けんはコントの神様である。今でも毎年バカ殿を見なければ新年を迎えた気がしない。志村けん一座も地井武男、森下千里がいたときに個人的に見に行ったことがある。今もあの頃と舞台の構成はほとんど変わっていないが、おなじみのひとみばあさんなど、志村けんのいつものネタが生で見られるのはやはり何度でも嬉しい。「待ってました」という感じだ。志村けんはよくマンネリと言われるが、決して悪い意味ではない。むしろ観客はお決まりのネタを期待している節がある。YouTubeなどにあがっている志村けんのコントを繰り返し見ても何回でも笑ってしまうように、いつも見ているネタだからこそ、ぜひ生で見てみたいと思うのである。今回も「スイカ」というセリフが出ただけでまだスイカが出る前から客席は期待感で湧いた。ライブだと、ネタの臨場感は格別違う。
志村けんが侍に扮するコント<お助けください>では腹筋が崩壊するほど笑わせてもらった。一人で見るよりも大勢のお客さんと一緒に見る方が断然楽しい。みんなでドッと笑うと、なんだかやたらと気持ちが良いのだ。志村けんは自分にとってはアイドルだから、舞台でもこれだけ面白いのはファンとして嬉しい。62歳になってもまったく衰えを感じさせないのは偉大だと思う。むしろ『だいじょうぶだぁ』の頃よりも生き生きとしている。「志村けんは面白くない」とか悪く言われたら自分を否定された気になるから、ぜひ今こそ、本当に面白い志村けんを、生の舞台で確認して欲しい。かつ目せよ。(澤田英繁)
志村けん一座 第7回公演『志村魂』~新作「先(ま)づ健康」~
東京公演 5/31(木)~6/10(日) 天王洲 銀河劇場
名古屋公演 6/14(木)~6/24(日) 中日劇場
金沢公演 6/27(水)~6/28(木) 金沢歌劇座
福岡公演 7/2(月)~7/3(火) 福岡市民会館
出演:志村けん、ダチョウ倶楽部、いしのようこ、磯山さやか、みひろ、坂本あきら、桑野信義 他
2012/06/05 4:32