イエス9年ぶりの来日ライブ・レポート

イエス

イギリスの大物ロック・バンド「イエス」が東京と大阪で9年ぶりとなる来日公演を行った。


僕は大のイエス・マニアで、このときを9年間も待って待って待ち続け、念願かなってやっと生で見ることができた。ライブにはすごく感動したのに、このライブに関する記事がネットを検索しても非常に少なく、個人ブログとかSNSを検索してもなかなかヒットしないのが残念である。何かあのライブについてのジューシーな記事を読んでライブの余韻に浸りたい。ならば僕自身が記事にするまでよと、感想をここにアップさせてもらうことにした。今回は取材ではなくプライベートの鑑賞だったので写真は一切撮影していない。その代わりに僕が記憶を頼りに自分でイラストを描いてみた。ライブの熱気を思い出してくれたら幸いである。


まずは僕のこれまでのイエスの思い出について書かせてもらう。15年ほど前に『危機(Close To The Edge)』のアルバムと出会い、スゲーと思っていたことはあったけど、本格的にファンになったのは友達から借りた『シンフォニック・ライブ』のDVDを見たときから。みんなかなりおっさんになってるのに、演奏してる姿がやたらかっこよくて、ヴォーカルのジョン・アンダーソンも声が若いまんま。そしてイエスの創始者でありリーダーとしてバンドを支えてきたクリス・スクワイアのブリブリの超絶ベースとサイドヴォーカルにしびれまくった僕は「これはロック史上最強のライブ・バンドだ!」と確信して一気にファンになった。


それから、イエスの全オリジナルアルバムと全ライブアルバム、全DVDを1年かけて集めた。ほとんどのアルバムが満足のいくレベルだった。驚くのは、それぞれ時代時代でバンド・メンバーがクリス・スクワイア以外まったく違う顔ぶれだったことである。僕は『危機』も大好きだし『ロンリー・ハート』も大好きである。60年代から70、80、90、2000、2010年代と、音楽スタイルは作品の時代と共に変わってきている。そこが何より面白かった。どんなにメンバーが変わろうともイエスはイエス、そう言わせるところがこのバンドのすごいところであり、クリスのベース・プレイの凄まじさと、クリスのマネージメントの術には毎度感心されるばかりだった。


ロック・バンドには色々なタイプのバンドがあるけれど、イエス・サウンドといえば間違いなくベースの音が核である。この個性は唯一無二。『スターシップ・トゥルーパー』、『儀式(Ritual)』のベースなど、もう何度聴いても惚れ惚れする。クリス・スクワイアをロック史上最高のベーシストとする音楽評論家は多いけれど、イエスのメンバーの中でもクリスだけがバンドの外で活動をした経験がなきに等しく、事実上クリスのベースが聴けるのはイエスだけというところも、イエスブランドの価値を高めていると思った。


ぜひともライブでイエスを見たい。そう思っていた。ちょうど僕がイエス・マニアになる前に来日公演を終えたばかりで、次に来るのはいつになることやらと思っていたら、やっとやっと今年になって来日。クリスのベースを初めて生で見られると思うと、これは興奮しないわけがない。


今回はアルバム『フライ・フロム・ヒア』を引っさげての来日だったが、このアルバムも傑作で、とても60歳を過ぎたじいさんたちが作った曲とは思えないかっこよさ。イエスの顔だったヴォーカルのジョン・アンダーソンは抜けてしまったけれど、新規加入したベノワ・デイヴィッドはそのプレッシャーを跳ね除ける見事な歌いっぷりで、「クリス・スクワイアがいる限りイエスはどんなにメンバーが変わってもイエス。安泰だ」という思いはさらに確信のものに変わっていった。一度抜けたメンバーを再度加入される粋なことをやってくれるのもクリスらしいところで、今回はキーボードが80年に加入していたジェフ・ダウンズが戻ってきて、80年のサウンドを彷彿とさせるプレイを聴かせてくれている。


さて、ライブだが、このライブの直前にベノワ・デイヴィッドが病気のために脱退するという事件があった。またヴォーカルを欠いてピンチに陥ったイエスは、今度はジョン・デイヴィソンという若手のヴォーカリストを加入させた。この新入りは、数えて5人目のヴォーカリスト。このツアーからの加入であるため、どんな声で歌うのかはファンにはまったくの未知数だった。しかし、それがどんな馬の骨だか知れなくとも、僕はまったく不安には思っていなかった。


かつてジョン・アンダーソンが抜けたときもすぐにトレヴァー・ホーンを入れてくれたし、そのときに発表した『ドラマ』もファンの間では大傑作の部類だった。トレヴァー・ホーンのトリビュート・コンサートのときは『ロンリー・ハート』時代のギタリスト、トレヴァー・ラビンをリードヴォーカルにすえたこともあったが、これがまた面白い化学反応を起こして印象深い演奏となった。つまり、イエスはどんなにメンバーが変わっても、見事にキャスト不在を克服して、いつもとは違う高みに到達しているのである。バラエティの幅を広げるという意味では、クリスのマネージメント術には過去まったく汚点がなく、僕はそこがイエスの最も好きなところだったので、今回のメンバーラインナップはむしろ楽しみだったくらいである。新ヴォーカリストの声が誰よりも先に聴けると思えば嬉しくもあった。


予定時間ぴったりにステージが始まって、ジョン・デイヴィソンが登場したら、これがまあジョン・アンダーソンの若い頃にそっくりなこと。しかも声も瓜二つ。新入りぽさがなく、ずっとイエスで活動してきたようなハマりっぷり。他の観客も最初に抱いていた不安は全部一瞬で吹き飛んだであろう。そしてクリス・スクワイア。超絶ベースプレイは今日も熱い。僕は上手側の前方の席だったので、クリスがかなり至近距離に立っていて、もうドキドキものだった。


ライブでは必ず演奏する『アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル』や最高傑作の『同志(And You And I)』はもちろん、定番曲『ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス』、『スターシップ・トゥルーパー』もやってくれて、もう嬉しい限り。『ロンリー・ハート』では本当に盛り上がった。


2時間きっかりで終わっただけに、まだ聴きたりないくらい。70年代初期作品の率が高い。『ラダー』も『マグニフィケーション』も大傑作なのに90年代、2000年代の曲を一曲もやらないなんてもったいない。イエスは1曲が長いから途中休憩をいれてでも3時間はやって欲しかった。ライブ定番の大作とされる『悟りの境地(Awaken)』または『儀式』のどちらかをやってくれると思ったけどどちらもやらなかったのが一番悔やまれるけど、代表曲の多いイエスだからそういう不満はどんなセットリストでも必ず出てくるものだから仕方が無い。初めて生でイエスを見られただけでも満足しよう。


ジョン・アンダーソンがいなくてジェフ・ダウンズがいることから『光陰矢の如し(Tempus Fugit)』を演奏していたけど、そういったこのメンバーだからこそできるファン・サービスも嬉しかった。ジェフ・ダウンズは割りと裏方に回っていた感じだったけど、『スターシップ・トゥルーパー』のラストの楽器対決パートでは前に立って、かつてのトニー・ケイ、リック・ウェイクマンとはまた違った特色のあるキーボード・プレイを聴かせてくれて新鮮だった。


演奏中のクリスを見ていると、何度もステージの裏方に指示を出している様子が見られた。『同志』でハーモニカを吹いている最中にも親指で指示を出していたし、音が気に入らなくて音を変えるように指示したりしていたのだろうか? 演奏中でこだわりを持つところにミュージシャンとしてのプライドのようなものを見た気がする。


ギターのスティーヴ・ハウは本当に元気。この人にはギターの歪みはまったく不要である。テクニックだけで観衆を魅了する力がある。『スターシップ・トゥルーパー』のリードギターを生で聴いてときにはさすがに鳥肌が立った。クリスとスティーヴが横に一緒に並んで演奏したときは嬉しくなった。


イエスは『スターシップ・トゥルーパー』をステージのフィナーレに持ってくることが多いが、その理由がわかった気がする。まず俄然盛り上がる曲だし、メンバーそれぞれが主役となる見せ場がある。『スターシップ・トゥルーパー』でいつもクリスが見せるカニ歩きプレイを生で見られただけで何だかやたらと感激した。いつもDVDで見ていた世界に今自分がいるという感慨があった。


最後にクリスは「また会おう」と言ってステージを後にしていた。ありがとうクリス! また会いたいよ。次もまた日本にきっと来てくれると信じているぞ!(文・イラスト ヒデマン)

セットリスト(4/17 日本青年館)
No. タイトル 収録アルバム 発表年 メモ 演奏時間
1 Yours Is No Disgrace The Yes Album 1970年   14分
2 Tempus Fugit Drama 1980年   8分
3 I've Seen All Good People The Yes Album 1970年 ライブの定番曲 8分
4 And You And I Close To The Edge 1972年 ライブの定番曲 13分
5 Solitaire Fly From Here 2011年 ツアー曲 10分
6 Fly From Here Fly From Here 2011年 ツアー曲 25分
7 Heart Of The Sunrise Fragile 1972年   13分
8 Owner Of A Lonely Heart 90125 1983年 最大のヒット曲 7分
9 Starship Trooper The Yes Album 1970年 ライブの定番曲 11分
10 Roundabout Fragile 1972年 アンコール 11分

[PR] 戦国時代カードゲーム「秀吉軍団」好評発売中

2012/04/23 4:15

サイトのコンテンツをすべて楽しむためにはJavaScriptを有効にする必要があります。