『ジョン・カーター』クラシックSF映画のテイストが映画ファンにはたまらない

『ジョン・カーター』

ディズニーがおくるSF冒険ファタンジー映画『ジョン・カーター』が公開中だ。この映画は、エドガー・ライス・バローズの有名な小説「火星のプリンセス」の初めての本格的な映画化作品である。この原作小説は、SFファンにとっては大古典とされる名作で、「スペース・オペラ」というジャンルを確立させた記念碑的作品。これまで数多くの映画作家がその映像化を夢見ながらも実現しなかった本作が、原作の発表から約100年の時を経てついに映像化された。


読めば頭の中いっぱいに空想の世界が広がるこの原作の映像化に名乗りをあげた会社は、夢工房ウォルト・ディズニーであった。ディズニーは「これはディズニー生誕110周年作品だ」と高らかに掲げてスタッフたちを鼓舞し、総力を結集してこれを作り上げた。「作るからには最高のものを」というスタッフの熱い心意気が伝わってくる力作となっている。


筆者もまずは語る前にとにかく映画を見るのが先だと思って、早速公開初日に見に行って来た。ちょうど同じ日に『バトルシップ』が封切られて、あちらはユニバーサルの100周年記念作とか言ってるものだから、どうしても比較しながら見てしまうわけだが、両作品ともアプローチがまったく違う作品なので一見すると『ジョン・カーター』の方が地味に見えて損している気がする。しかし、「クラシックSF」として見れば『ジョン・カーター』も優れた作品になっている。筆者は両作品とも大好きである。


この映画を一言で述べるなら、筆者は「没入感」だと思う。バーチャルリアリティ(仮想現実)の世界では「没入」という用語は本来の「熱中する」という意味ではなく、「空想の世界なのに現実にそこにいるような気分になること」を意味する。筆者はその意味では『アバター』、『トロン:レガシー』に続く新しい”没入SFもの”が出てきたと思った。いや、新しいというよりも、”古き良き”映画が蘇った気がする。


主人公ジョン・カーターはあるとき火星に迷い込んでしまう。主人公が地球人ということを除けば、映画の中で描かれる世界はすべてバローズの創造した空想の世界である。『スター・ウォーズ』を思わせる世界が広がっているが、主人公が「地球人」という設定がこの映画の「没入感」を『スター・ウォーズ』以上に高めている。地球と火星の重力の違いから、火星では超人的な力を発揮するコンセプトも面白いが、いつしか地球のことを忘れるほどどっぷりと火星の世界の魅力に惹きつけられていく感覚は『アバター』以来である。


『スター・ウォーズ』と『アバター』のタイトルをあげさせてもらったが、この映画を見て、これらの二番煎じとは思って欲しくない。順序が逆だからである。『スター・ウォーズ』を作ったジョージ・ルーカスは1977年のインタビューで「私はエドガー・ライス・バローズ風のスペース・ファンタジーを作りたかった」と公言しており、2009年に『アバター』を作ったジェームズ・キャメロンもまた公開当時のインタビューで「私はエドガー・ライス・バローズのようなクラシックな冒険映画をやろうと思った」と語っているのだ。


『ジョン・カーター』を見ていると、『スター・ウォーズ』や『アバター』を彷彿させるシーンがいくつか登場するが、そのたびにこの原作の影響力の大きさに何度も感服させられる思いがした。「なんだ、ルーカスもキャメロンも本当は自分の胸の中の『ジョン・カーター』を作りたかったんだね」と、そんなことを考えながら見ていた。ということは、『ジョン・カーター』はみんなが夢見ていた本当の映像化ということになる。ルーカスもキャメロンも子供の頃に原作を読んで、胸をワクワクさせながら火星の世界を想像していたはずだが、ディズニーはそれをこうして映像という見える形にしてくれたのだから、それだけでもまるで夢のようである。製作費は莫大だったろうけど、50年前のハリウッドのスペクタクル史劇を見ているような「クラシック映画の大作の風格」を持った作品なので、ヒットするしないの問題に限らず、これを作った意義は大きかったように思う。


この映画は最後の10分間が良い。よく考えられた非常に余韻が残るラストである。原作者自身をモデルにした人物が重要なキャラクターとして登場するところにもロマンがある。このラストのお陰で、少なくとも筆者にとってこれは極私的名作となった。なんというか、バローズの描く世界には自分の作品にかける愛のようなものを感じるのである。見終わった後、筆者はなんともいえない何か満たされたような感じがした。


この映画を監督したのは、『ファインディング・ニモ』、『ウォーリー』のアンドリュー・スタントンである。実写映画の演出は初である。ピクサーの映画を2本以上作っている監督では、『Mr.インクレディブル』と『レミーのおいしいレストラン』を手がけたブラッド・バードもつい最近『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』で実写映画デビューを飾ったばかりだが、2人の作品をコンペしてみるのも一興かもしれない。アンドリュー・スタントンは本作では元アニメ畑の人間と思えないほど実写映画の技法をものにしており、3DCGの描き方などは「さすが」とうならせるものがある。


去る4月2日(月)、『ジョン・カーター』の記者会見が六本木で行われ、主演のテイラー・キッチュとヒロインのリン・コリンズ、スタントン監督が来日した。『ターザン』へのオマージュなのか、キッチュはほとんどのシーンを半裸で演技しているが、キッチュに対して記者から「どうやって肉体をあれだけ鍛えたのか」という質問もあった。キッチュは「あれは全部CGで描いたんだよ。予算はすべてそこに費やされてるんだ」とおどけて返答し会場は爆笑。なんでも「スクリーンに映る自分に後悔したくなかったから11ヶ月トレーニングとダイエットをした」とのことだ。テイラー・キッチュは2012年はこれと『バトルシップ』の他にもオリバー・ストーン監督の映画にも主演しており、それまで日本でまったくの無名だった俳優が一気に大出世した形になった。


一方、リン・コリンズは、「ディズニーのプリンセスの仲間に入れて嬉しい」と終始ご機嫌で、興奮さめやらない感じで元気良く挨拶していた。印象としてはお転婆娘みたいな感じ。花束ゲストには小林幸子がかけつけた。小林幸子は誕生日がディズニーと同じということもあり、根っからのディズニー・ファンだそうで、この日はシンデレラ城が描き込まれた着物を着て登場し、スタントンらを喜ばせていた。


『ジョン・カーター』は、丸の内ピカデリー他にて、3D・2Dロードショー中。(澤田英繁)

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2012/04/16 0:00

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