マリリン・モンローを演じた女優ミシェル・ウィリアムズ
『マリリン 7日間の恋』が現在公開中だ。永遠の映画スター、マリリン・モンローについて描いた真実のドラマである。公開に先立って行われた記者会見には、マリリン・モンロー役を演じて見事にゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞したミシェル・ウィリアムズが出席。その模様も取材した。
とにかくまずは映画を見てから記事にしようと思っていたので、筆者は初日に早速ヒューマントラストシネマ渋谷まで見に行ってきた。マリリン・モンローといえば、筆者が最も好きな映画スターとあって、この映画ばかりは他の映画とは違って見る前にドキドキ緊張してしまった。このドキドキはロバート・ダウニーJr.がチャップリンを演じた『チャーリー』を見たとき以来である。映画を見た感想はほぼ同じで、昔の映画撮影の裏側を見ているような感じ。シェイクスピア演劇の大家ローレンス・オリビエと、アクターズ・スタジオで演技を学んだマリリン・モンローがお互いの演技法の違いで対立するところは一映画ライターとしても大変勉強になった。もちろん、マリリン・モンローという偉大な女優の半生、マリリンってこんな人だったのかという意外な一面の発見もあり、興味深く見ることができた。
驚くのはミシェル・ウィリアムズのそっくりさんぶり。いや、ミシェルはミシェルで役作りして自分流のマリリン・モンローを作り上げているのだから、そっくりさんというのは失礼かな。それにしても似ている。体型も完全に一致しており、マリリンそのもの。一番驚いたのはオープニングの歌のシーンだ。筆者は一瞬本物のマリリン・モンローの映像を見ているのかと勘違いしてしまった。『ブロークバック・マウンテン』でヒース・レジャーの奥さん役を演じていたときから注目はしていたけど(共演した縁で交際して2人の間に子供がいる)、ミシェルがマリリン・モンローを演じると聞いたときには本当にびっくりだった。なぜなら『ブロークバック・マウンテン』を見たときは、マリリン・モンローが一番好きな僕でさえ、ミシェルとマリリン・モンローとの共通点を全く微塵も感じたことがなかったからだ。これは大抜擢だと思った。
ミシェル自身、実はマリリン・モンローのことをよく知らなかったという。モノクロの写真では色々なところで目にしていたのだけれど、映画の人というイメージは持っていなかったのだ。その点は筆者も同じだったので気持ちがわかる。マリリン・モンローは象徴的な存在で、あまりにも大きな存在でありすぎるゆえに、誰もがすぐに姿をイメージできても映画女優だということを知らない人は多い。しかし誰しもマリリン・モンローの映画を一度見れば、その動いている姿に感動するのである。ミシェルも動くマリリンを見て、今までのイメージが一気に立体化したと語っていた。マリリンの存在感は動く映像で見てこそ光り輝く。映画の中でケネス・ブラナー演じるローレンス・オリビエも言っていたが、マリリンのような奇跡ともいえる女優は他にはいない。そのマリリンをミシェルは見事に演じたのだから、ゴールデングローブ賞の受賞にも納得できるのである。
筆者は記者会見には慣れっこだが、この日ばかりは、妙に緊張していたのを覚えている。筆者は、ミシェル・ウィリアムズではなく、大好きなマリリン・モンローを取材しにいくと、そんな気持ちで会見に臨んでいたからである。登場したミシェル・ウィリアムズは、思ったよりもシャイな感じの人だった。髪型はショートだったけど、その雰囲気はマリリンのよう。丸くて柔らかそうな頬などマリリンみたい。「マリリン・モンローを演じた人」という前提で見ると、なんだかなおさら不思議とマリリンに見えてきた。
ミシェル・ウィリアムズは、マリリンが訪れたゆかりの場所を回りながら撮影をしたと言うが、日本の会見でも、マリリンにあやかろうと帝国ホテルで会見を行った。マリリン・モンローがジョー・ディマジオと来日したときに記者会見を行ったホテルがこのホテルである。帝国ホテルで、マリリン・モンローの最も有名なエピソードが生まれた(そのエピソードは映画の中でも少し触れられる)。「何を着て寝ましたか?」という質問にマリリンは「シャネルの5番よ」と答えたのだ。つまりは寝ているときは裸というわけだが、こんな粋なことを言ってくれる女優はマリリンをおいてそういるものではない。というか、日本の記者にこんな粋な質問ができる人なんて今時いないよ、と思っていた。
ところが、今の日本にも粋な記者はいたもので、時間ギリギリの最後の質問で、ミシェルに「今日ここに泊まったときはなにをつけて寝ましたか」と訊いた人がいたのである(サンケイスポーツ)。日本の今の記者もなかなか捨てたもんじゃない。ミシェルはこの日一番の笑顔で「それは世界で数人だけしか知らない秘密です」と答えていた。(澤田英繁)
『マリリン 7日間の恋』は現在角川シネマ有楽町ほか全国公開中。
2012/03/26 1:45