沢尻エリカ『ヘルタースケルター』で5年ぶりに映画復帰

『ヘルタースケルター』

沢尻エリカ(25)が5年ぶりに映画復帰する話題作『ヘルタースケルター』の記者会見に行ってきた。公開は7月14日(土)。まだまだ先の話である。配給はアスミック・エース。宣伝と話題作りにかけては非常に一風変わった独自の色を持つ業界の異端児的な映画会社である。まだ撮影真っ最中の作品をこんなに早くもマスコミに向けてアピールしようとは、本作にかけるただならぬ意気込みを感じさせる。

『へルタースケルター』は岡崎京子のマンガが原作だ。高い評価を得ていながら長らく単行本化されず、話題が話題を呼んで「幻の作品」と言われていた。2003年にやっと単行本化されると、同作はマンガ界で最も権威ある「手塚治虫文化賞 マンガ大賞」を受賞する。原作者は96年の交通事故以来活動を休止しているが、同作が後のマンガ界に与えた影響の強さは計り知れないという。

この作品の監督を、世界的なフォトグラファー、蜷川実花(39)が務めている。フォトグラファー出身の監督といったら『時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリックがいるが、蜷川監督もキューブリック同様に映像に強いこだわりを持った監督である。人柄も良く、キャストからは「実花さん」と呼ばれて慕われている。彼女の有名な映像作品としてはAKB48の「ヘビーローテーション」のプロモーションクリップがある。YouTubeだけでも現時点で再生回数は驚愕の6389万回を突破しているが、この曲がこれほど成功した要因として、カラフルな蜷川監督の映像の力もかなり手伝っていると思う。

「りりこの部屋」スタジオの様子

本作は芸能界の裏側で事件が起こる、いわゆるバックステージもののジャンル。それにちなんだのか、2月9日、東宝スタジオの撮影用のセットがマスコミ向けに披露された。筆者はロケ地取材ならば過去に何度か経験があったが、スタジオそのものの取材は初めてだったので一映画ファンとして興奮を抑えられなかった。スタジオのゲートにはゴジラが立っていて、七人の侍たちのお出迎え。「おぉ、東宝だ!」とはしゃぐ筆者。余談だが、この日もここで『踊る大捜査線』を撮影していたそうだ。

沢尻エリカ演じる「りりこの部屋」のセットに案内してもらったが、初めてセットの中に立ってみると、なんだか不思議な気分になった。当然ながら、セットの部屋には天上がなく部屋も半分しかない。蛇口をひねっても恐らく水は出てこないだろう。そして変に暑かった。虚構の空間である。現実ではない。だけど、映画の中の人間にとってはこの世界が現実である。そんなことを考えていたら一映画ファンとして何かじんとくるものがあった。細部までこだわり抜いた装飾がすごい。その大半は蜷川監督の私物だというが、見事に『ヘルタースケルター』の極彩色の世界が広がっていた。

スタッフに「りりこの部屋」の写真を撮っていいかと聞くと、「今は蜷川監督の照明になってないから撮って欲しくない」という理由で断られた。その理由、すごくよくわかる。蜷川監督も世界を創造するからにはこだわりがあるのだろう。その世界を誰か別の人が下手なカメラで撮って台無しにするわけにはいかない。このセットは映画の中でこそ初めて息づく世界なのだと納得した。非常に濃いセットなので、ぜひ完成した映画を銀幕で見て確認して欲しい。

沢尻エリカの印象について

記者会見には、沢尻エリカ、蜷川監督の他に、大森南朋(39)、寺島しのぶ(39)、綾野剛(30)、水原希子(21)、新井浩文(33)、鈴木杏(24)、哀川翔(50)、寺島進(48)、桃井かおり(60)が出席した。キャストは劇中衣装での登場だった。

沢尻エリカ。恐れながら「バッシング」という言葉で最初に連想してしまう芸能人だったが、実際に会ってみたら、すごく好印象で、これは今までの自分の否定的な考えを改めざるを得なくなった。屈託なく「まだまだ先だけど打ち上げが楽しみです。ヒヒッ」と笑うところなど、瞳がキラキラと輝いていてとても可愛かったし、自己プロデュースがうまく、キャラクターとしてとても魅力ある女優だと思った。会見の日から早くも発言をめぐってネット上で歓声と罵声が飛び交っているが、少なくとも筆者はこの会見を通じて沢尻エリカのことをかなり見直した。筆者は少数派ではないと思う。

濡れ場のシーンについてはテストのところから素っ裸になって寺島しのぶを驚かせたという。「着たり抜いだりするのが面倒臭いんで」と話していた。なんでもカメラに見せてるバージョンと見せてないバージョンの2パターンで撮ったそうだが、見せてないバージョンではうまく隠すのが面倒だったそうで、「そこにプロデューサーさんがいますが、結構R指定とか色々大人の事情で面倒臭かったんですよね。大人の事情なんで、私のせいじゃないですから。ねぇー監督ぅ」と語るあたり、女王健在という感じだが、日本語だときつく聞こえるこういった会話も英語であればしっくりくる。ハリウッドの女優ならこれくらいの態度は当たり前。ちょっとバタ臭いがこれも沢尻なりのユーモアだと思う。

綾野剛は、「こう、なんですか、エスイーエックスじゃないですけど、そういうシーンを演じていまして」と、やや照れながら撮影のエピソードをやおら語り始めたが、これがなかなか興味深い話で、最初の撮影で綾野は寺島しのぶと濡れ場のシーンを演じ、横で見ていた沢尻に罵声を浴びせられたそうだ。しかし、次の日に沢尻と濡れ場を演じ、綾野は沢尻のあまりの優しさに思わず本気でドキッとして、沢尻のギャップに戸惑ったという。

問題になった発言の真相

この日、沢尻が監督の発言の途中に横から記者に対して「その質問おかしい」と言ったことが話題になっている。マスコミならではの誇張がついて各紙で叩かれていたが、実際は全然嫌な感じではなかったことをここに付け加えておかねばなるまい。問題の記者の質問は「過激な原作をどう表現しているか?」というものだったが、沢尻は「始めから腹をくくってやってます。私は本当に原作にリスペクトがあるし、それを私も実花さんもどこまで本物に近づけるか勝負してるので、乞うご期待ですよ。見ててください」と挑発的な態度で返していた。沢尻はマスコミの前でわざと”エリカ様”を演じて我々の期待に応えてくれた感じだった。そういう自分を演じてみせる姿が妙に可愛げがあった。これが沢尻流のユーモア。現に、桃井の「過激ですみません。おだやかに言うように言っておいたんですけどね」というツッコミも手伝って、この沢尻の発言のお陰でいっきに会場の空気は和んだのである。むしろ、作品に対して本気で取り組んでいるまっすぐな気持ちと、沢尻なりのリーダーとしての責任感が伝わったので筆者は逆に良い印象を持った。

取材に来たマスコミは軽く70社を超える大所帯。会見中はプライベートな質問が厳禁だったが、最後のフォトセッションでは、この時間を利用してここぞとばかりプライベートな質問があっちこっちから飛んでしっちゃかめっちゃかだった。記者が「沢尻さん! 5年間は長かったですか!?」と質問すれば「あっという間でした」と沢尻。ゆっくり写真も撮れやしません。まさに朝のワイドショーでよく見る風景が目前にあった。逆にいえば、5年もブランクがありながら、これだけマスコミに注目されるのはすごいことだ。スターの証である。

蜷川監督は沢尻ほどの図々しいキャラクターでなければ「りりこ」の役は務まらないと言っている。見事なキャスティングである。今回の会見でも、沢尻効果のお陰で芸能ニュースも大盛り上がりだった。話題作りとしてはアスミック・エースの目論見通り順調に事が運んでくれた感じである。公開までにまた世間を騒がしてくれそうで楽しみだ。(澤田英繁)

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2012/02/12 23:20

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