東京国際映画祭に野田首相が出席 日本の力を今こそ世界に示すとき
第24回東京国際映画祭が開幕した。24年続いている同映画祭だが、今年は開催する意味が例年とはちょっとばかり違う。今年は3.11、東北大地震で日本が未曾有の危機に瀕した年である。それに伴い、大規模な計画停電などにより関東圏の機能も停止した。中でも福島原発の風評被害はひどく、それは映画業界にも及び、3.11以後、ぴたりと映画スターが来日しなくなった。ハリウッドでは日本に行くと名前に傷がつくとまで言われたほどで、ずいぶんと映画業界も寂しくなっていた。そんな中で、日本人の力を見せてやれと、女子サッカーなど、スポーツ界で日本勢は目覚ましい活躍をしてくれた。日本人のこの強さは世界が賞賛した。
東京国際映画祭は、アジア最大規模の映画祭で、毎年ハリウッドや世界各国から多くの映画人が来日する賑やかなイベントであるが、3.11以後、ほとんど外国からのゲストが途絶えてしまった今、果たして海外の映画スターがこの映画祭のために来てくれるのかという問題に直面していた。
結果として、今年は例年以上の豪華なゲストたちが集まったのである。福島からはフラガールたちが参加してダンスも披露した。「日本人は素晴らしい」。来日した映画スターたちはみんな日本人のことを賞賛している。映画ファンの間では人気が高いヴィム・ヴェンダース監督も来日して「3.11のときから日本に行きたいと思っていた」とまで言ってくれた。ヴェンダース監督は福島にも行くという。
去年は中国と台湾がボイコットしてグリーンカーペットに登場しないアクシデントもあったが、今年はその分を取り返さんばかりに、ジャン・イーイエン、チャン・シンユィ、ソニア・スイ、ニッキー・シエ、フオ・スーイエン、エルヴァ・ニー、ファン・ビンビンら、中国・香港・台湾映画界の美人スターたちがキラ星のごとく集まった。日本勢も負けじと中川翔子、板井麻衣子、剛力彩芽、仲里依紗、黒木メイサらが登場した。ゴージャスなドレスを着てキラキラとオーラを放ちながらグリーンカーペットを歩くその姿はこれぞ東京国際映画祭ここにありといったところだ。
最大の歓声に迎えられたのは、ミラ・ジョヴォヴィッチら『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』のご一行だ。よくぞ来日してくれた。都内でこうして大型映画のプレミアイベントが行われたのは、3.11以来、実にこれが初めてである。もう大丈夫だ。これからは映画スターも日本にいつものように来てくれる。ミラの笑顔を見ていると、そんな安心感を抱かせる。
映画好きという野田佳彦首相と、3.11以後「日本のジャック・バウアー」とまで言われた枝野幸男経済大臣も積極的にセレモニーに参加した。
ゾロゾロと取り巻く黒スーツのSPの人数の多さからして何やらものものしい雰囲気で、野田首相の人気の高さはミラ・ジョヴォヴィッチにも匹敵していた。雨のため映画祭自体がだいぶ遅れていたが、野田首相だけは予定をずらさずに定刻通りに登壇した。「総理!」と集まった人たちからエールも受けて、手を振ってご満悦の野田首相は、満面の笑顔で「本当はミラ・ジョヴォヴィッチさんと一緒に歩くはずだったのですが、枝野さんと歩くことになりました。それでも気分はオーランド・ブルームでした」と語る茶目っ気も見せた。
野田首相は開幕式で、フランク・キャプラの名作『スミス都へ行く』を見て影響を受けたと話していた。『スミス都へ行く』は田舎から都会に来て政治家になった青年が、悪徳政治を妨害するために24時間立ちっぱなしで演説を続ける話だ(アメリカの上院では立っている限り演説を続けることができる)。野田首相は「これの影響で私も13時間演説したことがあります。今日は13時間も演説しないのでご安心ください」とここでもジョークをからめていた。
筆者は、このイベントを取材しにわざわざドイツからやって来たという記者とたまたま一緒に取材させてもらったが、ドイツからはヴェンダース監督の他に、俳優のアレクサンダー・フェーリングも参加しており、この映画祭がアジアのみならず欧米からも注目されていることを教えてくれた。
野田首相は、海外からこれだけ映画人が集まった理由を「我が国で認められることが一流の映画の証になることを、世界中が認めているから」と分析している。もはや、このイベントは単なる映画のイベントではなくなってきており、日本の力を世界に示す重要な意味を持つものになっている。3.11以後、その意味は例年よりも大きなものになっている。(澤田英繁)
アリーナステージ フォトギャラリー
2011/10/24 2:27