戦争ゲーム『戦場のヴァルキュリア3』壮大なる架空の歴史ドラマ
発売日からだいぶ経ってるゲームだが、先週ようやくPSPの『戦場のヴァルキュリア3』(株式会社セガ)の「やり込み」をコンプリートしたので紹介する。
ゲームには「クリア」と「コンプリート」という2つの達成感がある。「クリア」というのはステージのゴールにたどり着くことで、すべてをクリア(全クリ)するとエンディングとなる。一方、「コンプリート」というのは「やり込み」の到達点である。「やり込み」とは、クリアした人が別の目的を見つけて遊ぶことである。以前は「やり込み」というものはゲーマー自身が目的を見つけるものだったが、最近のゲームはメーカー側があらかじめ「やり込み」要素を用意してくれていて、これが最近のゲームの言わば醍醐味になっている。この「やり込み」をどこまでやらせるかがゲームの価値を決めるといっても過言ではないのだ。
その意味では、『戦場のヴァルキュリア3』は本当に久しぶりに「やり込み」を最後まで遊ばせてもらった作品である。取材の待ち時間を利用して少しずつやっていたら最終的にプレイ時間が200時間を超えていた。タイトルからもわかるとおり、これは戦争ゲームであるが、全ての戦闘に最高ランクのS評価で勝利し、全ての銃器をゲットして、全ての兵種を経験値上限まで育ててフルコンプリートとなる。これは実にやりがいのあるものだった。そのご褒美が「勲章」という具体的な形になって得られることで、「達成と収集の快感」を生み、とことんまでのめり込ませてくれた。
ここから先のコメントは、『戦場のヴァルキュリア』シリーズのファンのために書かせてもらう。シリーズを通して遊んできたファンが、うんうんと納得して読んでくれるような文を心がけた。改めてこのゲームがすごいゲームだということを再確認していただけたら幸いだ。
ひとつの歴史の裏側を描いた斬新なアイデア
このゲーム、アイデアがうまいと思った。初代『戦場のヴァルキュリア』のゲームシステムの新しさもそれはもう革命的だった。『3』のシステムは基本的に『1』、『2』と同じ。しかし、アイデアのうまさにまたしてもこうも唸らせられるとは。『3』だからといって『2』の後の時代を描くのではなく、あえて時代を遡り、『1』と同じ時間で歴史の別の側面を描いたこのアイデアの妙味。『1』は主人公が戦争の英雄になるまでを描いたものだが、『3』はその歴史の陰で、歴史に一切記録されていない名無しの部隊の活躍を描いたものである。
クリント・イーストウッドは映画『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』を連作し、同じ時間、同じ場所で、別の部隊を描き、それぞれの部隊に人生があり、思想があり、正義があり、歴史があることを示したが、『戦場のヴァルキュリア3』の狙いはそこに近いところにある。『3』最大の魅力は戦争の中に人間の尊厳を描いたこの奥深いストーリーにあると言っていいだろう。
『1』の主人公「ウェルキン」は根っからの主役タイプ、『2』の主人公「アバン」は三枚目タイプとするなら、『3』の主人公「クルト」は二枚目タイプ。『1』、『2』をやった者として言わせてもらえば、あまりにも真面目すぎて、第一印象では、主人公らしからぬ脇役系のキャラだと思っていた。しかし、やっているうちに、どんどんこのクルトという男の虜になっている自分がいた。犯罪者たちで集められ、お互いを番号で呼び合う曰く付きの懲罰部隊を指揮するリーダー。勝てる見込みのない戦いを強いられても、部隊を統率して、天才的な作戦で切り抜けていく様は実に気持ち良い。今ではクルトはシリーズ全作品を通して一番好きなキャラである。
『2』よりもキャラクター数をだいぶ削り落とし、敵役含めキャラクターそれぞれの人生を描いた断章を追加したことで、キャラクターひとりひとりの感情移入度が増し、ストーリーの没入感も前作以上に強くなった。『2』よりも兵種数を減らし、全キャラで兵種の変更を可能としたことで、ひとりひとりのキャラクターの育成も深みが増した。ミッションごとにキャラクター育成結果に確かな手応えがあり、マスターテーブルを見ながら計画的にバトルポテンシャルを目覚めさせていくところもやり込みの楽しさがある。好きなキャラクターはつい活躍させたくなり、愛着はどんどん増していく。
ウェルキン始め、これまでのシリーズのキャラクターと交錯するのも嬉しい。『1』のときからすでにここまで見越して構想していたのではないかと思うほど見事にストーリーがつながっている。『2』で士官学校の教諭になっていたキャラクターが、『3』ではまだ最前線で戦っていたり、シリーズを通してプレイしてきた人にはこの演出はたまらないものがある。『2』で内戦を起こし敵となった人物が、時を遡った『3』では同志として登場するところなど、壮大な歴史のうねりを感じさせ、この架空ヨーロッパの大河ドラマを大いに盛り上げてくれる。
油断するとやられる。ゲームバランスはシリーズ最高峰
今作からあらたにSPという要素が取り入れられた。SPを消費すると、画面に映っている敵を一掃したり、無敵化して適地に攻め込んだりできるようになったわけだが、当初、これはゲームバランスを壊しかねないのでは?という懸念がユーザーの間にあった。フタを開けてみると、これは勝つためには戦術上、使わなければならない要素となっていた。SPをどこで発動させるか、そういった駆け引きがよりゲームの戦略性を高めていたのだ。
戦車の行動ポイント、兵種の特徴やオーダー(命令)など、『1』、『2』の反省点が鑑みられており、『3』はこれまでで最高のゲームバランスとなった。前作の発売から丸1年でこれほどクオリティを上げているのは驚異的だ。『2』の通信機能を廃止した以上に得たものは大きい。
これだけの兵種がありながら、それぞれの兵種のバランスが崩れることなく成立しており、まんべんなく兵種を利用しなければSランクを取れないようにできているところも見事。前作のように偵察兵で特攻をかけたり対戦車兵にわざと地雷を踏ませる小手先の戦法は効かなくなった。
ゲームは難しすぎても易しすぎてもダメだが、本作は油断していると即やられる。各ミッションで勝つか負けるかギリギリのところで勝利できるような適度な難易度が保たれている。1回のミッションが長丁場となるため、接戦の末の勝利の感動は大きい。シミュレーションパートをやっている最中も、その念頭にストーリーの背景があることを考えると、より緊張感も増し、のめりこめるというものだ。
『戦場のヴァルキュリア3』は、かっこいい音楽、ぐいぐいと引き込まれるストーリー、個性あふれるキャラクターたち、ゲームシステムの斬新さ、随所にみられる細かいこだわりと、まさにシリーズの集大成といえる作品になっている。もちろん、『3』から始めても全然問題はない。すべてのゲームファンにおすすめしたい一本だ。(文・澤田英繁)
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(C)SEGA
2011/07/18 2:17