日本人が日本語をしゃべりまくるオランダ製ホラー『ムカデ人間』が話題沸騰中

『ムカデ人間』

前から気になってムズムズしていたオランダのホラー映画『ムカデ人間』を渋谷シネクイントで見た。3人の人間の口と肛門を接合してひとつなぎにすると、1人だけ食べれば3人分がまかなえる。そんなネジがぶっとんだ発想の作品である。

この映画、公開前から「ヤバすぎる」と評判で、ネットで流れた予告編(若本規夫がかなりノリノリのナレーションを入れている)にチラっと映っているムカデ人間の姿が話題を呼び、見世物小屋的な興味から公開初日から満員御礼の大ヒットを飛ばしている。

シネクイントは一般的なミニシアターよりも大きめの映画館で、感動のドラマ『127時間』を現在上映中だが、『127時間』とはまったく客層が違うのに、『ムカデ人間』は連日大盛況とのこと。筆者が見に行った回もほぼ満席だった。

この映画はオランダの監督が作った映画だが、ドクター役はドイツ人、ヒロイン役はアメリカ人、そしてムカデ人間のアタマ役が日本人という国際色あふれる内容になっている。日本人がアメリカ人につなげられるということで、作品の売り文句は奇しくも(というか、不謹慎にも)「つながろう日本」となった。

ドイツ人の怪演もアメリカ人の美女ぶりももちろん見どころであるが、なんと言ってもムカデ人間の中でイニシアチブを取っていた日本人が面白い。外国映画に日本人が出てくることはよくあるけれど、どれもセリフを言わされている感があった。しかし、この映画にはそのような言わされている感じがまったくない。本物の日本語で喋っているから面白いのだ。

先日、この日本人役を演じたその人が映画館に登場した。名前は北村昭博(32)。この日は凱旋帰国しての登場となり、本作に誰よりも早くから注目していた日本の著名人・松尾スズキ(48)と初対面してトークショーを繰り広げた。

映画の中のセリフは北村のアドリブとのこと。ドクター役が本当に腹の立つ男でその経緯から「ドイツはソーセージ食ってろ」などのセリフを考えた秘話などがトークショーで語られた。本当にアドリブでなければ出てこないセリフばかりで、映画館で観客が爆笑していた「火事場のクソ力じゃ!」のセリフなど、思わず『キン肉マン』世代かよとスクリーンにツッコミをいれたくなるほど北村の発想が面白い。日本映画でもこれほどのセリフは聞けるものではなく、ましてやオランダ映画を見ているのだから不思議な気分になってくる。

松尾は、本作を「哲学」と絶賛。「先頭がいいのか、真ん中がいいのか、最後がいいのか、色んなことを考えちゃう。表現者として究極の地獄はなんだと考えるんだけど、あの状況を作り出して先頭が外国人という、よくこんな意地悪なことを考え出すな。この監督は人間の尊厳をどういう風に考えているのか気になった。先頭だけは人間の何大尊厳の中の発言の自由があるけど、言葉を失ったとき、コミュニケーションが取れなくなったとき、人間の意味はどのくらいあるのだろうかと考えた。他人てなんだろうとか。すごく哲学的」とコメントしていた。

この映画がすごいのは、映画の中で文字通り本当にムカデ人間をやっちゃっていることである。見せかけだったり子供だましの映画は色々あるが、かなり本格的に作っている。カメラワークも玄人受けがよく、脚本もしっかりと練られていて、アイデアを形にするまでに大勢のスタッフが入念に打ち合わせをして、しっかり予算をかけて丹念に作り上げていった印象を受ける。その意味でも、ただのB級映画で片付けて欲しくなく、実は非常にまじめに作られている作品なので、いかにもゲテモノ映画として売るのはどうかとも思ったが、まあ興行が成功していることを考えたらこの宣伝方法は間違ってはいないのだろう。

筆者が見終わった後もかなりひきづったのは、ヒロインの女性が目がパッチリしていて綺麗な人だったことだ。ムカデ人間になるまで必死に抵抗していたので、かなり感情移入していただけに、いざムカデ人間になったときの衝撃といったら。筆者はてっきり男3人がつなげられると思っていたのに、まさかこんなに綺麗な人がつなげられるなんて。ひとつネタバレになるが、このヒロインは上半身裸のままムカデ人間にされてしまうのだ。裸というのが何よりもトラウマである。ムカデ人間になっても、それでも必死で逃げようとしていたのが可哀相すぎる。

こんなヤバい映画なのに、北村が出演する気になったのは、プロデューサー(監督の妹)がすごく綺麗な女性だったからだそうだ。たしかに、普通はこういうヤバい映画に出ようなんて普通の頭なら考えないが、プロデューサーが美女ならば安心して出てみようという気になる気持ちもわかる。あんなに綺麗なヒロインが出ているのも、この美人プロデューサーが声をかけたお陰ではないだろうか。

北村はトークショーを見ていても本当にバイタリティにあふれる人で、話を聞いているこっちまで元気を分けられるような感じの人である。現在ハリウッドでインディペンデントの映画監督として活躍中という北村。日本人であることに誇りを持って日々まい進している。近い未来、北村監督の映画が世界で評価される日も来るかもしれない。

ムカデ人間』は、トランスフォーマーの配給で、渋谷シネクイントにて公開中。(文・澤田英繁)

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2011/07/10 23:30

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