92歳やなせたかし『アンパンマン』この愛すべきヤケクソ舞台挨拶
7月2日(土)、池袋にて、『それいけ!アンパンマン すくえ!ココリンと奇跡の星』(配給 東京テアトル、メディアボックス)の初日舞台挨拶が行われ、今年92歳になった原作者のやなせたかしと、声の出演者の松雪泰子(38)と大沢あかね(25)が登壇した。やなせたかしは半ばヤケクソのトークを披露した。
『アンパンマン』は0歳から5歳くらいのちびっこに人気のアニメ。『アンパンマン』が日本テレビで放送を開始したのは1988年だから、当時3歳くらいのちびっこも今では一人前の大人になっている。大沢あかねは放送開始した時まさに3歳。『アンパンマン』を見て育った第一世代であるが、今では大沢も素敵なママとなり、子供に毎日『アンパンマン』を見せる日々を送っている。
「本当にうちの子が『アンパンマン』が大好きで、注射で泣いていたときも『アンパンマン』を見たらピタリと泣き止んだんです。私が『アンパンマン』に出ることを夫(劇団ひとり)に話したら、夫が『いいな』とすごく羨ましがっていました」と大沢。ここからやなせは「劇団ひとりと対談したことがあるけど、二枚目でも三枚目でもない中途半端な男だったな」と半ば暴走気味のトークを展開した。
司会の藤井恒久アナウンサーから「怖いものなしですね」と言われると、「俺はヤケクソでやってるんだ!」と上機嫌に笑い飛ばした。「もう俺はダメなんだ。俺はお終いなんだ。舞台挨拶は今年で終わり。もうやんない」と急に愚痴る一幕も。
七夕が近いということで、何とお願いするのかと聞けば、「七夕か。俺をもう一回若返らせてくれぃ! 俺はもっとやりたいことがあるんだよ!」と叫んで見せた。やなせと司会の藤井アナは盟友ともいうべき仲だが、藤井アナは41歳にしてやなせの50歳年下。やなせにとっては子供も同然。「藤井くんは可愛いから藤井くんのために次の舞台挨拶も出てやるか」と言うと藤井アナは感激して驚いたように「ありがとうございます」とお辞儀していた。そんなやなせを前にして大沢は「私にも素敵なおじいちゃんがいたので」と優しい笑顔を絶やさなかった。
本作の注目ポイントは、松雪泰子が宇宙人の声を演じていることだ。筆者が思うに、松雪泰子ほどの美声の持ち主はそういるもんじゃない。筆者の個人的ランキングでは松雪泰子は美声ナンバー1。いかにも女優という雰囲気のその佇まいもさること、筆者もこの日取材していて松雪泰子のうっとりするような声にただただ魅了されるばかりだった(これで何も感じないのは男じゃないと思う!)。普段は低い声の松雪だが、劇中では高くてクリアーな声に挑戦しているとのことで、これは意識して見てみるのも面白いかもしれないぞ。
松雪が宇宙人ということに絡めて、藤井アナはやなせに「宇宙人に会ったらどうしますか?」という質問を投げたが、やなせは次のように答えた。
「俺は外国によく行くが、絵を描くとどこに行っても全部通じるんだよね。あるところで美術館の館長で全然笑わない人がいて、その人に絵を描いたら館長が笑いだしたんだ。『驚きました、生まれて初めて館長が笑っているところを見ました』って言ってくれてね。だから宇宙人が来ても俺が絵を描いて見せればだいたいわかるんじゃねえか!」
この豪快さ。この堂々たる自信。ちなみに同時上映『うたって てあそび アンパンマンともりのたから』は去年金太郎飴のデザインの仕事をしていて思いついたアイデアを生かしたものだという。やなせたかし御大、92歳。まだまだ創作意欲は衰えていないようだ。(文・澤田英繁)
2011/07/04 2:03