BBCネイチャー・ドキュメンタリー 松本幸四郎と松たか子がナレーションを分け合う
5月28日(土)、渋谷区のスタジオにて、『ライフ -いのちをつなぐ物語-』のナレーションを担当した松本幸四郎(68)、松たか子(33)の公開収録が行われた。
『ライフ -いのちをつなぐ物語-』は、『DEEP BLUE』、『アース』に続くイギリスBBC製作のネイチャー・ドキュメンタリー映画。製作費は『DEEP BLUE』の7倍、撮影日数はアースの1.5倍の3000日と、その規模はこれまで作品の比ではない。この作品で初めて採用された最新鋭のカメラ技術もあり、アフリカゾウの群れなどを、アフリカゾウの目線で捉えることに成功している。
この作品の日本語版のナレーションの起用について、配給のエイベックス・エンタテインメントは、作品のテーマである「生命のつながり」を最高のレベルで伝えるためには松本幸四郎、松たか子の親子しか考えられなかったと語っている。原語版ではダニエル・クレイグがナレーションを務めているが、こうして男女親子が交互にナレーションを分け合うのは日本語版ならではのユニークなアイデアである。
親子共演はこれが初めてではないが、松本は「ナレーションを録音しているときは娘も父親もありません。ライバルですから、少しでも父親の方が良いナレーションと思っていただけるようにただ一心にそれをやって参りました」と早くもライバル心を剥き出していた。
そんな松本は、本作について「我々の歌舞伎の世界に襲名というのがあります。名前をついでいくという。ナレーションをやるときに思い出したのは、亡き父が、襲名の名の字は名前のめいじゃなくて命のめいだっていったのを思い出しました。命を受け継ぐのがこのライフのテーマです」と歌舞伎にからめて紹介。
一方、松は「コモドオオトカゲという物凄いトカゲが出てきまして、彼らの獲物を狩る方法に衝撃を受けまして、才能というか、すべてを活かし切って生きていくという。自然の厳しさとか忍耐力とか、ハッとさせられて、私自身はすごく衝撃を受けました。もちろん可愛い親子の映像であるとか、美しい恋人の姿も出てきます。海にも空にも陸にも色んなところを自分が旅できるような映像なので、自分のお気に入りの動物を見つけていただければと思います」とPRした。
筆者もこのレコーディング風景を見学させてもらったが、松本幸四郎の声がいぶし銀という感じで良い感じに渋く映像とマッチしていると思った。前作の渡辺謙とはまた違った味わいがある。松たか子の声は本当に美声。こんなに声が綺麗な人だったのかと感動すら覚えた。文字起こしのためにこの日テレコに録音しておいた松たか子の声を聞いてるだけでも何だか癒される思いで、これならば本編のナレーションにも期待できると思った。
この日の二人を見ていて、親子同士の会話が、はたからみていても微笑ましく、本当に良い親子だなという印象だった。写真撮影のときには、カメラマンの要望でわざと親子で見つめあってもらったり、腕を組んでもらったりして、照れながらもやってくれるところがまた微笑ましかった。
この二人の会話のやりとりは非常に笑えるので、以下に引用しておく。親子団欒の空気が少しでも伝われば幸いだ。
記者「映画を見て、父親として共感できたものを感じた生物とかありますか?」
松本「父親というのは、我々の世界も動物の世界も後ろ姿が寂しいですね(会場笑)。彼の後ろ姿に哀愁を感じました」
松「自分の後ろ姿はわかんないでしょう」
松本「でもそれはだいたいわかるよ。しかし、それが生きていく上での父親というもんじゃないかなと自分なんか見てて思いましたね。彼らは衣服を着てなくて、大自然の暑さ寒さをもろにくらっているわけですよね。彼らは本能的に信じてるんじゃないんですかね。彼らというと変ですけど、人間の何かこう生き様みたいなものを感じてですね。ゴリラのお父さんを見ながらつくづく我が姿を重ね合わせて、男の哀愁を感じました(会場笑)」
記者「ご家族を動物に例えると何ですか?」
松本「難しいなあ。色々豹変するんですよね。朝昼晩と。パンダかなと思うとチーターみたいだし、つかみどころがないですね。役者という商売が色んな役に扮するので。しかし、猿がヤシの実を割るために硬い石の上で割るという、ああいう知恵は僕にはなかったですね。あの知恵がもう少しあればですね、今頃もうちょっと充実した生活を人間としても父親としても送っていたと思うんだけど(会場笑)。そういう質問はたか子に聞いてよ」
松「ほぼナマケモノといっていいんじゃないんでしょうか」
松本「それは家族全員が?(会場笑)」
松「いや、私が(笑)」
松本「ナマケモノだって、本当は大変なんだから。はたからみると怠けている様に見えるけど彼は彼なりに必死に生きてるんだから(会場笑)」
松「そっか。ナマケモノに失礼か(笑)」
松本「たか子は小動物系だと思ってたけど、人妻になりましたからね。例えるなら狩りをするチーターか足の早いメスのピューマでしょう(会場笑)」
司会者「松さん、お父さんを動物に例えると何ですか?」
松「百獣の王ライオンでいたいんだろうなという(笑)」
松本「ライオンも後ろ姿が哀愁漂うんですよ(会場笑)」
松「もちろん、女性の存在あっての男性らしさ、雄々しく立っているというのもあるんですけど、やっぱり最前列に立っている父親という風に私には見えるので」
松本「ありがとうございます」
松「そういうことにしておきます」
松本「そういうことにしておきます?(会場笑)」
松「余計なこと言っちゃった」
記者「松さん、新しいライフ誕生のご予定はいつですか?」
松「私のライフはまだ宙に浮かんでます。まだそのときじゃないと」
記者「いつごろ紡ぎたいですか?」
松「考えないようにしています」
松本「父親には刺激が強すぎる質問です(会場笑)」
『ライフ −いのちをつなぐ物語−』は、9月1日(木)全国公開。(文・澤田英繁)
2011/05/30 0:17