浅野忠信「生まれて初めて自分の本当に好きな人を演じた」
4月30日(金)、有楽町にて、『これでいいのだ!! 映画☆赤塚不二夫』の初日舞台挨拶が行われ、浅野忠信(37)、堀北真希(22)、阿部力(29)、木村多江(40)、いしだあゆみ(63)、そして佐藤英明(えいめい)監督が登壇した。
ゴールデンウィークということで、メジャー映画会社各社がこぞって29日から話題作を公開しているが、『これでいいのだ!!』はその中で東映が放つ新作だ。スタッフに聞けば、主演の浅野がハリウッドで仕事中ということもあり、舞台挨拶は当初やらない予定だったらしい。しかし、浅野がスケジュールを縫って出席することになり、急きょ舞台挨拶の実施が決まった。浅野はどうしてもこの映画の初日の舞台に立ちたかったようだ。いしだあゆみが浅野のことを「とてもチャーミングでした」と息子を可愛がるように語っていたけれども、浅野のこの日のスピーチは、かつて見せたこともないくらい嬉々としていて、その瞳は純粋な子供のようにキラキラしていた。臭い言い方になるが、それは、この映画にかける思いの強さが伝わってくる素晴らしい舞台挨拶であった。
『これでいいのだ!!』は、漫画家の故・赤塚不二夫に35年連れ添った担当編集者・武居俊樹の原作を映画化したもの。天才赤塚がどういう人物だったのかが臨場感たっぷりに描かれる。君塚良一が脚本を担当し、主題歌をユニコーンが提供した。スタッフ全員に共通して言えることは、とにかくみんな赤塚不二夫を本当に心から愛し、情熱を傾けていたことである。好きという思いを糧にして作られた本作は、赤塚不二夫への深い愛情のこもった作品となった。
映画化に際し、大きく変わったのは、担当編集者の役が男性から女性になったこと。堀北真希が演じ、今までになかった一面を見せている。堀北は「完成した映画を見たとき、これ本当に自分かなと思うような自分がスクリーンの中にいまして、びっくりしました。皆さんにも変なことをいっぱいやっている私たちを見て沢山笑っていただけたら嬉しいなと思います。」とコメントしていた。
筆者の感想だが、この日の堀北真希はそれはもうひたすら可愛かったこと。筆者が堀北真希を取材するのはこれで3作目だが、今日は今までと顔の表情が違って、より生き生きとしていた。「赤塚さんて、とても甘え上手なことがあるなと思って、私とても甘えるのが下手くそなので、うらやましいなと思いました。」と話しているときのつぶらな瞳には誰しも胸がキューンとなったであろう。幸せそうな笑顔を見ているとこっちまで嬉しくなってくる感じで、取材していてこれほど女優の笑顔に癒されたことはなく、気がつけば写真を200枚くらい撮っていた。撮り過ぎか? この感動をぜひ読者と分かち合いたいので、たっぷりとフォトギャラリーに掲載しているから、女優・堀北真希の笑顔の魔法をぜひご覧あれ。
最後に、浅野忠信のスピーチをほぼそのまま掲載しておく。この日の浅野のスピーチはまさに名スピーチといえる感動的なものだったので、省略すべきではないと当編集部で判断した。たまには赤塚不二夫みたいにウチもメディアの常識破らなきゃいかんよね。
まずは赤塚不二夫について。「赤塚さんが大好きで、それは漫画を徹底的に読んだとかそういうことではなくて、赤塚さんのお顔の写真を見たときに、なにかこう、この人だったら僕のことをわかってくれるんじゃないかって勝手に思って。ずっと僕が部屋に写真を10年くらい貼ってて、毎日のように赤塚さんを見てて。それからこのお話が来て、僕はびっくりして、これはもう赤塚さんが僕を選んでくれたんだと勝手に思って。僕の大好きな人を演じることは生まれて初めてでしたから、現場にいる間も本当に自分の世界に入ってしまいましたし、それで赤塚さんに対して僕が何ができるのか、毎日毎日考えていました。僕が大好きな赤塚さんを演じられてやりきってやりきって、それでこうして皆さんに見てもらえて、本当に嬉しいです。」
役作りについては「僕がノーということはありえないと思いまして、赤塚さんがやってきたことは、普通そこまでできないだろうということばっかりだったので、僕が現場でノーと言ったら僕が現場で赤塚さんを演じることを否定するのと変わんないので、そういう意味では自分が本当にほどけて、自由になりました。」とコメント。
赤塚不二夫のナンセンスな漫画を読んでいると、悩みなど何もかも吹き飛んでしまいそうだが、浅野は「小さい頃の自分を思い出すことなので、まだ何も知らないで自分の好きなようにやったときに先生や親に怒られることはあったけど、そういう怒られる自分がいてもいいんじゃないのかと赤塚さんを演じていて思いましたので、これからは怒られてもいいし、人が怒られるようなことをしてもそれはそれでいいかと思うようになりましたね。」とも語っていた。
日本人なら誰でも”シェー”を知っている。この日、カメラマンから”シェー”をリクエストとされた浅野は、少し間を置いてから”シェー”のポーズで応えた。最後の締めくくりの挨拶はこうだ。
「今日いつ”シェー”をやらされるかとドキドキしてたんですけど、やった瞬間逆に緊張しだしちゃって、俺どういう役だったっけなと逆にわかんなくなってしまいまして。現場では毎日のように”シェー”できる状態でしたし、今日も本当はそういうつもりでいなきゃいけないのに、こんなかっこつけた格好でいるから、さっぱりわかんなくなっちゃって。今思い出したのは、現場に入る前にスタッフの人がみんな集まって、僕が赤塚さんを演じる浅野ですと紹介させていただいたときに、今日から俺は赤塚さんになるわけだから、ここで一発”シェー”をやんないことには始まんないなと思ったわけです。それで勇気を出して今日は”シェー”をやろうと決めてて、浅野さん挨拶お願いしますと言われたときに、なぜか『スタッフの皆さん、一緒に”シェー”をやってください』と言ったんですね。そしたら見事にみんなやってくれたんですね。それが僕すっごく嬉しくて、これはもうこの映画はちゃんと最後まで赤塚さんをやってくれるんだなと思って感動しました。それでひとつお願いしたいんですけど、お客さんも一緒に”シェー”をやってくれたらすげえ嬉しいです。やっていただくとすごい心が自由になるんで。僕”シェー”と言うんで、お願いしますね。せーの、シェー!(会場全員で”シェー”をやる)おー! 最高ですね。素晴らしいです! ありがとうございます!」
この全員”シェー”に会場の空気は一気に弾けて、なんだか不思議と晴れ晴れとした気になった。普通なら東映の初日舞台挨拶は上映後にやるものだが、この日は珍しく上映前。この選択は正解だったと思う。木村多江は「頭をバカにして見て」と言ったが、この日の観客は言われたとおり頭をバカにして、清々しい気持ちで映画を鑑賞することができたに違いない。これでいいのだ。(文・澤田英繁)
2011/05/02 3:13