『大魔神カノン』特撮物なのに特撮シーンのない野心作

里久鳴祐果

「カノンの夕べVol.3」というイベントに参加してきた。このイベントは、10月8日(金)夜23時から翌朝6時まで映画館で夜通し『大魔神カノン』を見て、作品のスタッフ・キャストとたっぷり語り合うファン向けのイベントである。『大魔神カノン』は大映(現・角川映画)が製作した特撮映画『大魔神』を時代を現代に置き換えて角川書店がリメイクしたテレビシリーズ。深夜時間の放送ではあるが、大人の特撮ファンに支持されて、先々週無事に最終回を迎えた。

これまでに小さなものから大きなものまで数えきれないほどのイベント活動をやってきた『大魔神カノン』だが、そんなイベントもこの日でいよいよ最終回。ゲストには、よくぞここまでという豪勢な顔ぶれが集まった。

『大魔神カノン』の生みの親であり、これまでのすべてのイベントに参加してきた高寺重徳プロデューサー(48)を筆頭に、忙しいスケジュールをぬって来てくれた主演の里久鳴祐果(りくなゆか・22)。その他、共演の眞島秀和(33)、長澤奈央(26)、山中崇(32)、夏菜(21)、標永久(しめぎえのく・20)、滝直希(31)、松本さゆき(24)、竹島由夏(24)、ビデオレターで参加者した子役の鈴木福(6)、スーツアクターの伊藤慎(35)、杉口秀樹、監督の坂本太郎(71)、鈴村展弘(40)、清水厚、江良圭、大峯靖弘、アクション監督の小池達朗、脚本の大石真司、荒川稔久、大西新介、関口美由紀、製作総指揮の井上伸一郎、アソシエイトプロデューサーの菊池剛、「幽」編集長の東雅彦(ひがしまさお)。裏方スタッフも含めると、総勢30名(小川瀬里奈が参加してないのが痛すぎる)のゲストが順々に代わる代わるトークショーに登壇するという盛沢山の内容で、「放送始まって以来のビッグイベント」と角川書店も自信を見せていた。「カノンの夕べVol.1」では『ガメラ』、「カノンの夕べVol.2」では『ウルトラマン』とのコラボが楽しめたが、今回は『カノン』一色で固めた。

オールナイトというヘビーな内容ゆえに、後半にさしかかると、角川書店の井上社長までトークショーに参加するという、あまりにもコアすぎる展開もあった。井上社長は『大魔神カノン』というタイトルを考えるまでに何千というタイトル案を出して選び抜いたといい、当初のタイトルは『大魔神イパダダ』だったことを明かし、ファンを驚かせていた。

見た目はほとんどお笑い芸人に近いムードメーカー高寺プロデューサーもトークでは興奮しきり。いつも以上に嬉しそうに作品の魅力について語っていたが、3時を過ぎると、時間も時間なので、トークショーは、とうとう禁断の下ネタトークに走ってしまった。これが大人のお色気むんむんエロトークではなく、中学2年生レベルの無垢な下ネタに終始していたのがいかにも高寺らしい。中2の脳がこの作品を支えているのだと再確認させられた。

『大魔神カノン』の大きな特徴は、特撮物でありながら、特撮物の見せ場をあえて描かなかったことにある。『大魔神』のリメイクなのに、大魔神が出て来ないという前代未聞の試みである。毎週毎週オープニングテーマの映像では大魔神が出てきて大暴れしているのに、本編にはずっと出て来ない。オープニングテーマでは、カラフルな被り物のヒーローたちが悪玉と激しくバトルアクションを見せているのに、本編ではやはりアクションがない。ここが特撮ファンにとっては賛否両論に分かれたが、僕はこういう試みはアリだと思う。深夜放送だからどうせ安っぽい低俗な番組だろうと思ったら大間違い。カノンという多感な二十歳の女の子の成長を描く重厚なヒューマンドラマになっており、そこそこお金もかけている。特撮業界の花形スタッフたちが腕を奮って新次元に挑戦したという感じだ。トークショーではスタッフ・キャストの多くが「期待していたものと違った」「本当はアクションを撮りたかった」と語っていたけれど、そこはそれまでの特撮物へのアンチテーゼということで、結果はオーライだったと思う。

僕はこういう異色作は大好きである。僕も小さい頃『超人機メタルダー』を見て相当ハマった口なので、特撮物はどちらかというと好きな方だったから結構このイベントも期待していた。うちは映画のサイトだが、このイベントのためだけに、翌日の他の映画の初日舞台挨拶の大事な取材を全部蹴った価値はあったと思う。まず間近で見る里久鳴祐果がすごく可愛くて僕はもう癒されまくり。こんな人がそばにいてくれたら仕事もはかどるだろうなぁなんて。僕の好みのタイプ直球ど真ん中って感じだったから、思わずシャッターをいつもの4倍以上切ってしまい、隣のカメラマンに「撮りすぎだろ」とつっこまれたほどだ。しかしイベントを通して何よりも良かったのは、大画面で作品を通して見て、この作品にかける作り手側の野心をしかと受け取ることができたことだ。それは一本の映画を取材することにも勝る有意義な取材だったと思う。それから三連休、僕の生活はもうこれ一色だったと言っていい。ずっと劇中歌「祈りの歌」が耳から離れなかった。

イベント参加者全員には関係者からある贈り物が贈られたが、これが開けてみると最終回の撮影で使われた鉄橋のミニチュアのカケラだった。最初それをもらったときには正直「こんなものもらってもちっとも嬉しかないよ」と思ったが、いやいや、その後オールナイトで作品をぶっ通しで見ると最終回で鉄橋が壊れるシーンのところで、なんだかじーんときちゃったんだな。客席からすすり泣く声が聞こえたのもこのときだった。これまで何も考えずに作品を見てきたけど、初めて作り手側を意識した瞬間だったというか。ただ壊されるためだけに作られた鉄橋が激しく崩壊していくのを見ていたら、なんだか感慨深い気持ちになってきて胸がいっぱいになった。映像からにじみ出る熱意を肌に感じ、何か大きな達成感を覚えた。トークショーに登壇した江良監督の言葉を借りるなら、「最終回を見たとき僕は感無量でした。作品を終えたからということじゃなくて、大団円を迎えたなと」。まさにその通りの感動のラストだったと思う。

『大魔神カノン』のBlu-ray&DVDは現在角川書店より発売中。僕もまた第1話から見直さなきゃ。(取材・澤田英繁)

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2010/10/12 3:33

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