現代にも通じるハードボイルド時代劇『必死剣鳥刺し』

『必死剣鳥刺し』

『たそがれ清兵衛』が公開されたとき、時代劇でありながらも現代人に通ずる内容が受け、一気に原作者の藤沢周平の人気が高まった。それ以後も藤沢周平原作の映画はコンスタントに製作され、日本映画の一ジャンルを形成したといえるが、またこのフィルモグラフィに新たな名作が追加された。

必死剣鳥刺し』は、藤沢周平原作の中でも特に人気の高い短編集『隠し剣』シリーズからの一編。そこに描かれている人間の生きる姿は、現代人と何も変わらない。時代劇という形を借りた普遍の人間ドラマになっている唯一現代劇と異なるのは侍が人を斬るということだけ。チャンバラというのは時代劇の最大の醍醐味といえるものだが、本作ではまさにチャンバラが最大の見せ場として最後の最後に待ち受けている。最後のシーンまではハードボイルドタッチが貫かれるが、最後に静から動へと一転する対比が見事。15分にも及ぶチャンバラシーンは、CGを使わない古典的手法が取られており、未だかつて見たことのなかった凄みと気迫とリアリティに満ちている。間違いなく映画史に残る名チャンバラシーンになっただろう。

この公開を前に、7月5日(月)、丸の内TOEIにて、同作の完成披露試写会が行われ、出演の豊川悦司(48)、池脇千鶴(28)、吉川晃司(44)、村上淳(36)、関めぐみ(24)、岸部一徳(63)、監督の平山秀幸(60)、主題歌のalan(22)が舞台挨拶に立った。

藤沢周平映画はキャスティングも大きな楽しみのひとつだが、このヒロインを射止めた池脇千鶴が短い出番ながらも好演している。筆者は『スイートリトルライズ』のときも同様の感想を持ったが、またも池脇のラブシーンにドキドキさせられようとは。池脇には男性を引きつける何か性的なフェロモンのようなものを感じる。今回は恋慕いながらもそれを表に出さない役だが、その秘めたものが表に出たときの魅力たるや、これは一見の価値ありだ。こんなに時代劇が似合う女優だったとは新発見である。池脇も「大人が見ても万足できると思います。私も見て感動しました」と出来栄えに満足しているようだった。

関めぐみは初の時代劇。池脇とは対照的な役である。関は舞台挨拶で「日本の歴史や文化もそうですが、着物や装飾の美しさも発信できたらなと思う」とコメントしていたが、関が言うように、本作には能楽などの日本の文化、襖を開ける些細な所作など、細かいところにも時代劇ならではの見どころが満載である。平山監督は撮影にもこだわり、青を基調にして、時代劇の陰影の美しさを全編フィルムカメラで表現した。

『必死剣鳥刺し』は、東映の配給で7月10日(土)から全国公開中だ。(評・澤田英繁)

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2010/07/11 1:13

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