仲代達矢『春との旅』初日に感無量
5月22日(土)、新宿にて、『春との旅』の初日舞台挨拶が行われ、出演の仲代達矢(77)、徳永えり(22)、淡島千景(86)、柄本明(61)、美保純(49)、小林政広監督(56)が登壇した。
ベテラン揃いの本作。客層としては、珍しくお年寄りが目立った。小林監督はこの映画の完成まで10年を費やしており、満員の客席を見て「僕の映画ではこんなに沢山のお客さんが来たのは初めて」と感謝の言葉でいっぱいだった。
仲代はゆっくりステージにあがると深々とお辞儀をして「自分勝手なわがままな変なじいさんを演じた仲代です。今までは試写会で上映前の挨拶しかしたことがなく、挨拶のしようがありませんでしたが、今回は初めて上映後の挨拶ということで、どうでしたかという言葉と共にちょっと怖いような気もしています」と挨拶した。初めてお金を払って見る観客の前ということで、試写会のときとは表情が違って感無量という感じであった。
『春との旅』で描かれるのは、老いること。誰しもさけることができない人生永遠のテーマを描いたヒューマンドラマの意欲作となった。仲代が疎遠になった兄弟たちを訪ねて回るストーリーで、見終わった後、改めて兄弟について考えさせられる内容でもある。
田中裕子、戸田菜穂ら次から次へとビッグキャストが出てくるところも本作の醍醐味であり、柄本明は仲代の弟役で登場。仲代と殴り合いの喧嘩が見せ場になっている。ただしきりにメンバーの一員になれたことを光栄だと話していた柄本は「ご覧の通り、尊敬する大先輩に殴られてばかりでした」と挨拶していたが、これを受けた仲代は「あなたもずいぶんひどいことをいいましたよ。本当に腹が立ちましたよ」と笑って答え、柄本は「ありがとうございます」とニヤニヤしていた。
柄本の妻役の美保は、中年まっさかりですが頑張ってミニスカートとかはいています。最近友達からよくひよっこだなと言われます。これからも親戚の役をがんがんやっていきたいですね。いそうなおばちゃんの役とか。私はいとこと疎遠だったけどこの映画を見てから仲良くなったので、そういう意味でもいい映画だなと胸を打たれました」と、マイペースなコメントに会場は沸いた。
ここから後は、映画の結末の話題で盛り上がったが、カットするにはもったいない話しっぷりだったので掲載させてもらう。ネタバレになるため映画を見た人だけ続きを読んでいただきたい。
小林監督は脚本を何度も書き直し、結末には主人公の死を描くことにした。念のためハッピーエンドの結末も考えていたが、小林は「仲代さんですから死ぬなんて言いにくいんですよね。断られるんじゃないかと思いましたが、死んでもらった方がみんなのためかなと思った」と語り、年配の観客は大笑い。仲代も「一番いい結末です。あれがあるから救わるんです。殺してもらってありがとうございます。また小林監督の映画には出たいけど、もう10年も生きてませんから、10年以内に作ってください」とベテランならではのコメントで笑わせた。
一人だけ若手の出演となった徳永は「一番思い出に残っていることは孤独だったということです。ああいう状況に追い込まれなければ演じられなかったと思うし、とても意味があったと思います。とにかくぶつかっていくしかなかった」とコメント。劇中がに股歩きを披露しているが、「がに股は完全に治りました」と言ってチャーミングな白い歯を見せた。
『春との旅』は現在全国公開中。
2010/05/24 9:37