第82回アカデミー賞結果発表

ハート・ロッカー

日本時間3月8日(月)、アメリカ・ロサンゼルスのコダックシアターにて、第82回アカデミー賞の授賞式が行われ、『ハート・ロッカー』が最優秀作品賞を受賞した。

今年の授賞式は話題作りも兼ねて、今までとはだいぶ趣の異なる授賞式であった。作品賞の候補作を従来の5本から、今年は10本に増やした。これは戦後初めてのルール変更になる。戦前は本数に決まりはなく、毎年5本から10本の作品が候補になっていたが、今年は戦前のアカデミー賞にならったことになる。それまでは1人につき1作しか投票できなかったが、今年は会員それぞれが10作品に順位をつける方式がとられた。1位票が過半数を集めた作品があればそこで受賞、なければ1位票が最下位となった作品を除外し、それを選んだ会員の次点票を1位票として再集計する。

司会者は普通なら1人であるが、今年はスティーブ・マーチンとアレック・ボールドウィンの2人が担当。スティーブとアレックはオープニングパフォーマンスで「メリル・ストリープは毎年候補になってるけど、つまりメリルは一番落選した回数が多い人なんですよね」という具合に候補者のひとりひとりをいじりまくるジョークで笑わせた。「見ろ、あそこにジェームズ・キャメロンがいるぞ!」と指さし、内ポケットから取り出した3Dメガネをかけてキャメロンの方を見るところでは会場も大爆笑だった。

今年になって禁止されたのが「涙」。スピーチ中に泣くと進行の妨げになるということから禁止になった。おおかたの受賞者はこのルールを守っていたが、女性の受賞者はどうしても涙をおさえきれず、泣いてしまうことがあった。登壇者の代わりに席から見守っていた家族や関係者が涙する光景は多く見られた。

プレゼンターが受賞者を発表するときの常套句も例年とは違った。これまでは「アンド・ジ・オスカー・ゴーズ・トゥ…」だったものが、今年は「アンド・ザ・ウィナー・イズ…」に変えられた。そもそも1987年までは「アンド・ザ・ウィナー・イズ…」と言っていたのだが、ノミネートされただけでも勝者ということで1988年から「アンド・ジ・オスカー・ゴーズ・トゥ…」に変更されていたものである。今年はかつての競争の緊迫感を再び復活させる狙いもあってシナリオを変えたのだろう。ただしケイト・ウィンスレットだけは今年も「アンド・ジ・オスカー・ゴーズ・トゥ…」と言っていた。

毎年何かしらセレモニーに特集を組むのが習わしだが、今年の出し物は「ホラー特集」で、『フランケンシュタイン』、『サイコ』、『ジョーズ』、『エクソシスト』、『ビートルジュース』、『羊たちの沈黙』、『トワイライト』など、往年の名作ホラーから最近のホラーまで、沢山のホラー映画がダイジェストで上映された。

追悼トリビュートでは、『ゴースト』のデミ・ムーアが悼辞を述べ、ロック歌手のジェームズ・テイラーが「イン・マイ・ライフ」を歌う間、スクリーンにパトリック・スウェイジ、ジーン・シモンズ、ジェニファー・ジョーンズ、ブリタニー・マーフィら亡くなった映画人の映像が映し出された。ジョン・ヒューズのためだけに捧げられたトリビュートもあった。

今年のもっぱらの話題はジェームズ・キャメロンとキャスリン・ビグローの元夫婦対決。『アバター』と『ハート・ロッカー』がそれぞれ最多でノミネートされていて、このどちらかが取るということで注目されていた。また、元夫婦対決ばかりにスポットがあてられていたので、大穴であるリー・ダニエルズのことは無視されがちであったが、実はこれまでのアカデミー賞の歴史では黒人監督が受賞したことはなく、ある種、オバマVSヒラリーの様相を呈していた。

『アバター』は映画史上最高の興行成績を打ち出した作品。アカデミー賞最多受賞した同監督の『タイタニック』に続いて受賞なるかと言われていたが、『アバター』は脚本賞にノミネートされておらず、SF映画ということで受賞は難しいと言われていた。82年間のアカデミー賞の歴史において、脚本賞にノミネートされていない作品が作品賞を取った例は『ハムレット』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『タイタニック』のたったの3本しかなく、また、この82年間でまだ一本もSF映画が作品賞を受賞したことはなかった。

『ハート・ロッカー』はローバジェットの戦争映画で、『アバター』との関係についてはよくダビデとゴリアテの戦いに例えられた。授賞式直前に製作者の一人ニコラス・シャルティエが電子メールで投票を呼びかけていたことが発覚し、規約違反行為とされ、シャルティエはこの日のセレモニーに出席できなくなるという失態をさらすハプニングがあり話題になった。

結果は『ハート・ロッカー』の圧勝。授賞式中盤までは『アバター』と互角の勝負であったが、後半から流れは『ハート・ロッカー』の方に渡り、キャスリン・ビグローが監督賞を受賞したところで作品賞も決まったようなものだった。戦後のアカデミー賞では監督賞と作品賞が割れたケースは11度しかなく、監督賞を取った作品が作品賞を取るのが当たり前の世界だったからだ。

アカデミー賞82回の歴史において、女性監督が候補になったのは、『セブン・ビューティーズ』のリナ・ウェルトミューラー、『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン、『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラ、今年のキャスリン・ビグローの4人だけだが、キャスリンは女性監督初の受賞となった。バーブラ・ストライサンドがプレゼンターだったのもまるで示し合わせたかのような成り行きである。トム・ハンクスが監督賞の発表後にあっさりと作品賞を発表したので、舞台袖から慌ててキャスリンが戻ってくる一幕も見られた。ちなみに日本では『ハート・ロッカー』はこの時期に合わせて2日前から公開が始まったばかり。配給のブロードメディア・スタジオはこの結果にほくほくである。

主演男優賞は、作品賞のレースとはまた違った盛り上がりを見せた。ウィナーを発表する前に、かつての共演者が応援にかけつけ、候補者を讃えてスピーチした。『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』のミシェル・ファイファーが共演者のジェフ・ブリッジス(60)を讃えるところでは、ジェフ・ブリッジスの目から滲み出るものが見えた。結果はジェフの勝利。カントリー歌手の物語『クレイジー・ハート』での受賞。作品賞候補10本にも入っていない作品で、候補6回目にして念願の初受賞だった。妻や娘に感謝を述べるスピーチは、この日最も長かった。

最後に主演女優賞を受賞したサンドラ・ブロック(45)について。サンドラ・ブロックは現在ハリウッドのマネーメーキングスターの第1位だが、初ノミネート初受賞。彼女はアカデミー賞授賞式のまさに前日、最低映画賞の異名を持つゴールデン・ラズベリー賞(ラジー賞)において、『All About Steve(日本未公開)』で屈辱的な”最低主演女優賞”を授賞されていた。ラジー賞の授賞式には受賞者は間違っても来ないはずだが、なんと、その会場にサンドラ・ブロックが出席して話題になった。「この映画に出たときは誰も見ないんじゃないかと思ったけど、少なくてもここにいる700人のお客さんは見たのよね。700人全員が最低って言ったわけじゃないでしょ。350人くらいは良い映画だと思ってるかもしれないわ」とスピーチし、700人全員に『All About Steve』のDVDを手渡し、「ユーモアのわかる女優」と高評価だった。まさかその翌日に最高の名誉を受賞することになるとは。最高賞と最低賞を同時受賞する珍事となった。彼女はアカデミー賞の後の会見で「両方のトロフィーを並べて棚に飾るわ」と話していた。

第82回アカデミー賞の結果は以下の通り。

作品賞
『ハート・ロッカー』

監督賞
キャスリン・ビグロー『ハート・ロッカー』

主演男優賞
ジェフ・ブリッジス『クレイジー・ハート』

主演女優賞
サンドラ・ブロック『しあわせの隠れ場所』

助演男優賞
クリストフ・ヴァルツ『イングロリアス・バスターズ』

助演女優賞
モニーク『プレシャス』

オリジナル脚本賞
『ハート・ロッカー』

脚色賞
『プレシャス』

撮影賞
『アバター』

衣装デザイン賞
『ヴィクトリア女王/世紀の愛』

編集賞
『ハート・ロッカー』

美術賞
『アバター』

作曲賞
『カールじいさんの空飛ぶ家』

歌曲賞
「ザ・ウェアリー・カインド」『クレイジー・ハート』

音響編集賞
『ハート・ロッカー』

録音賞
『ハート・ロッカー』

視覚効果賞
『アバター』

メイクアップ賞
『スター・トレック』

長編アニメ映画賞
『カールじいさんの空飛ぶ家』

長編ドキュメンタリー賞
『ザ・コーヴ』

外国語映画賞
『瞳の奥の秘密』(アルゼンチン)

授賞式の模様は、WOWOWにて3月8日(月)夜9:00から日本語字幕付きで放送。3月14日(日)夜6:00にはダイジェスト版を放送。

(写真:AP/アフロ)

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2010/03/08 17:29

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