小池徹平『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』このタイトルに偽りなし

ブラック会社

9月14日(月)、豊洲にて、『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』の業界向けの完成披露試写会が行われ、佐藤祐市監督(47)、小池徹平(23)、マイコ(24)、田中圭(25)、品川祐(37)、中村靖日(36)、千葉雅子(47)、田辺誠一(40)が登壇した。

タイトルだけでこんなにも見たくなる映画って、そうないと思う。まさに今の時代にぴったりのタイトルではないだろうか。集まった記者たちも「うちの会社もブラックだからこの映画の内容は気になる」などと話していたものである。リーマンショック以降、残業代カット、派遣切りなど、この世知辛いご時世では、誰にでも思い当たるところはあるのではないかと思う。だからこそこの映画には心に強く訴えるものがあるのではないか。

サービス残業が当たり前。必要経費が認められない。従業員の出入りが激しい。ノルマがきつい。上層部が仕事に無関心。週一回は辞めたいと思う。このどれかに当てはまれば、あなたの会社もブラック会社かもしれない。この映画で描かれている会社は、これら全てが当てはまる究極のブラック会社。しかも今時のITベンチャー企業。何とも痛々しいやら。いやいや、これが全然他人事に見えてこないんだな。

私事の余談になるが、実は僕も以前プログラマーとして勤めていたITベンチャー会社がブラック会社で、働いた分の給料をまだもらってなくて今現在も裁判中だったりする。さらに最近悪質な振り込め詐欺にあっちゃって、本当に崖っぷちに立たされていたところだった。友達のライターに慰めてもらおうと思って事情を話したら「その体験、誰か監督に映画化してもらったら?」なんてことを言われて、このご時世でそういう前向きな考え方もあるんだなと感心したものだが、そこで僕は「こういうネタが好きそうな監督を一人だけ知ってる。『シムソンズ』の佐藤監督なら映画化してくれるんじゃないかな」などと冗談で話していたのだが、まさかこの『ブラック会社』の監督が佐藤監督とは露知らず、何というか、びっくりした。いや本当、こういう映画を作るなら、もう佐藤監督しかいないと思っていたので、ドンピシャという感じ。これは面白くないわけがないと思った。今の自分の心境にこれほど合った映画はないなと確信した。

この日、僕も映画を鑑賞させてもらったが、予想通りの傑作だったので大満足した。王道的な展開だけど見せ方が面白い。佐藤監督らしい映画だと思う。見終わった後、すぐ友達に電話で薦めたくなるような映画である。登場人物が少ないけれど、一人一人の個性が物凄く濃厚で、そこには美人の派遣さんがいて、お調子ものの先輩がいて、ノーと言えない気弱な人もいて、突然来なくなった奴や出世欲の塊みたいな奴、お局様までいる。たった9人の登場人物だけど、いずれも立場が強調されて象徴的に描かれており、舞台挨拶で田辺が「現代の色々な要素の入った映画」と紹介していたように、それは会社というピラミッド社会の縮図ともいうべき内容になっていた。ほとんどのシーンは小さなオフィスだけで展開していくが、登場人物の個性だけでもぐいぐいと引っ張って最後まで飽きずに見られた。ワーキングプアの主人公が奮闘する健気な姿は『電車男』を彷彿。心の声の一語一語に大共感した。

舞台挨拶では、品川が絶好調だった。人気の役者たちに混じって一人だけ芸人の参加となったが、「こんなに映画に関わったのは初めてです。心の中で面白くないと思っていながら宣伝するのは大変ですが、これは本当に自信を持って面白いと言える映画なので本当に良かったです」と挨拶していた。品川は飲み屋で小池と偶然会ったらしく、「佐藤監督は巨匠になりそうだから、なんとかついていこうね」と話していたそうだ。映画では威張りまくるプロジェクトリーダーを演じているが、舞台挨拶でも映画の中で何百回と言う決め言葉「バーカ!」を司会者にぶつけていた。ちなみに吉本興業は品川曰くブラックだというが、映画を見た後ではこれが本音としか思えないのだから映画って怖い。

「あー、こんな奴いたいた」と思わせる挙動不信な社員を演じた中村は、「自分との共通点が結構多いことにだんだん気付きまして。そういう自分はどうかなと思ったんですけど、そこも楽しんでいただければ」と話していた。

「出世欲の塊」を演じた田中は、この映画を通して自分にも出世欲があることを実感。「舞台挨拶では、もっとセンター側に立ちたい」といって観客を沸かせた。

ほとんどのシーンが狭いオフィスで描かれるわけだが、撮影では小池始め皆かなり眠かったという。現場には漫画がいっぱいあったので漫画喫茶のような雰囲気だったそうだ。やたらとガンダムの話題が多い映画だが、マイコはガンダムの3巻を黙って借りて、そこからちょっとした「ガンダム3巻消失事件」と騒がれたそうだ。

田辺は自分のジャケットの色が皆と違うことが気に入らなかったようで、「恥ずかしいので、徹平君の背中から失礼します」といって小池の陰に隠れるお茶目な一面を見せた。なお、田辺演じる「人格者」役は、それこそ絵に描いたような良い人で、見ていて実に心地好い。

キャラクターが最重要項目といえる映画なので、僕個人的には社長役の森本レオと、無能社員役の池田鉄洋がこの日の舞台挨拶に参加していなかったのが残念だ。池田鉄洋はネズミ男的な一番笑える役だったのに。

なお、マイコが黄、品川が赤、田辺が青、中村が緑、田中が紫、千葉がオレンジといった具合に、登場人物にはそれぞれイメージカラーがあり、キャラクターを色分けして強調する表現技法がうまく取り入れられているところにも注目したい。

働くことの意義を教えてくれる感動のコメディ映画『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』は、アスミック・エースの配給で、11月下旬、全国ロードショー。あなたも社会人なら見て損はないだろう。(文・写真:澤田英繁)

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2009/09/15 20:13

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