信長の命により城を築いた大工の偉業を描く『火天の城』
去る8月3日(月)、新宿にて『火天の城』の記者会見が行われ、西田敏行(61)、福田沙紀(18)、椎名桔平(45)、大竹しのぶ(52)、寺島進(45)、河本準一(34)、主題歌の中孝介(29)、監督の田中光敏(50)が登壇した。
『火天の城』は、「安土の山、まるごと一つ城にせよ」という織田信長からの厳命を受けた宮大工たちの偉業を描く時代劇。安土城の総製作費は、現在のお金に換算すると、1000億円以上。ブルドーザーなど重機が何も無かった時代に、大工・職人ら100万人以上を動員して、人間の手だけで、わずか3年で築城した。西田敏行は総棟梁の役を熱演し、大竹しのぶと30年ぶりの共演を果たす。織田信長役に椎名桔平、秀吉役に次長課長の河本準一。そして福田沙紀が初めての時代劇に挑む。撮影は東映京都撮影所で行われ、セットでは一本数百万円もする檜が惜しむことなく使用され、安土城が見事に再現された。
『劔岳 点の記』に続く、東映の大スペクタクル映画といえる。『劔岳』は「日本地図を完成させるために前人未踏の山に登る」というのがストーリーだったが、『火天の城』は「織田信長の厳命により、安土城を3年で築城する」というのがストーリー。戦国時代の映画でありながら、戦のシーンはない。たった1行のストーリーで、がっちりと映画ファンのハートを掴む説得力があるのは、さすが活動屋魂を今も忘れていない東映ならでは。西田が「絶対に映画館で見て頂かなければならない映画です。最初から最後まで十分に<映画>の魅力を堪能していただけると確信しています」と毅然と語るその佇まいには、映画ファンの心に何か響くものがあった。大竹も「ワンカットワンカットにスタッフの思いが入っています。映画らしい映画ができました」と話していたが、本作が「映画が映画たる」ビビッドに満ちあふれた作品であることは、西田のその自信に満ちた目を見ただけで、それが嘘ではないと確信できた。
寺島は「東映にはぜひヒットしてもらいたいですね。東映がヒットしないと日本映画界のバランスが悪いと思うんですよ。『劔岳』のときは木村大作さんがキャンペーン活動して、200万人を突破したんで、今回は田中監督がキャンペーン活動してくれることを望んでいます」と発言していたが、ある意味本作はこの時点で『劔岳』と比較される宿命を背負ったかもしれない。今後公開までに田中監督がどこまで頑張ってくれるか興味津々である。
田中監督は、映画に対する姿勢にかけては、仲間意識を大切にしたようで、「初めて時代劇をやらせていただき、東映京都撮影所で撮影させていただきました。東映京都の持っている歴史は非常に深く、僕自身が信長の座りの位置だとかお話をするときも、例えば台本を作ってイメージしたことも、現場の皆さんにこのようにしたらどうかと、その場で話をしながら作ることができ、非常に力になりました。東映京都でなければこの映画は作れなかった」と東映京都のスタッフを何度も讃えていた。「道具でなく、思いが歴史を作る。その思いの強さに、人々が小さな力を一つの方向へあわせたとき、大きな歴史が動く。できなかったもの、不可能だったものが、時代のうねりとなって形になっていく。この作品の中で表現したかったことです。積み重なる力。道具ではなくて、人々の思いじゃないと歴史は動いていかないし変わっていかないのじゃないかと思う」と作品にかける情熱も大きい。
印象的だったのは、登壇者の皆が、城作りと映画作りを重ね合わせて見ていたことである。福田は「城を作る上で、映画作りと重なることがあって、エンドロールの名前を見ていると、言葉にならないというか、涙だけが溢れてきました」とコメント、椎名も「映画作りはアナログ。職人が手で作っていくのは映画作りにつながる」とコメントしている。特に福田は「本当に私が一番この現場で感じたのは、人のもともともっているパワーというか、そういうものの魅力です」と映画作りを通して、人の力の尊さに胸を打たれたようだ。
記者から「時代劇の魅力とは何か」という質問があると、椎名は「恥ずかしがらず、ケレンみをもって何か人に伝えるセリフ回しが使えること」と回答。西田は「歴史上の人物なので、誰も会ったことがないから、どういう人かわからない。もしかしたら甲高い声で喋っていたかもしれない。そうやって自分で想像しながら役を作っていくことが時代劇の楽しさです」と語った。寺島は「時代劇には華と心がある。それから殺陣。時代劇は不滅だと思う。もし時代劇がなくなってしまったらこの国は崩壊します」とぴしゃりと言い放っていた。
役については、河本は「芸人では若手ですが、この若手のレベルで秀吉をやった方は多分他にいないでしょう。一番良い秀吉を私がやったと思います。色んな方々が秀吉をやられたと思いますが、私はほとんど次長課長の河本のままやらせていただきましたので面白い秀吉になったと思います」と大役を演じきって自信たっぷりだ。
椎名は信長の魅力について「何年か前から色々な小説を読んできたが、読むたびに違う信長像が芽生えてきた。最近は大胆に解釈が変わって来て、本当に本能寺で死んだのか?というところまで来てます。歴史上の人物を演じるのは自由気ままにできますが、今回は戦のシーンがない中で、自分がどう信長を演じるか、信長の魅力を監督と探って行きました。城を3年で作れって、3年で作らなければ間に合わない何か事情があったのかと色々考えながら演じました。何か今までと違う信長が画面に映っていればいいと思う。それがもし皆さんに何か感じていただければ、そこが多分自分の思う信長への魅力じゃないかと思う」と語っていた。
『火天の城』は9月12日(土)より、全国ロードショー。
2009/08/11 5:21