『パンドラの匣』太宰治生誕100周年レースの大本命

染谷将太

【東京テアトル】6月16日(火)、渋谷にて、『パンドラの匣』の完成披露試写会が行われ、主演の染谷将太、共演の川上未映子、仲里依紗、窪塚洋介、杉山彦々、音楽を担当した菊地成孔、監督の冨永昌敬が登壇した。

『パンドラの匣』は太宰治の原作を映画化したもの。終戦直後、<健康道場>なる療養所にやってきた結核患者の姿をユーモラスに描いた文芸大作だ。この原作は太宰治の作品の中でも最もポップな作品といわれている。

私もこの日映画を鑑賞させてもらったが、独特のテンポ感があって、久しぶりにアーティスティックな映画を見た気になった。今までにない新種のラブコメを見たという感じである。

染谷は舞台挨拶で「現場が宮城県で、廃校になった小学校を療養所に改造して撮っていたのですが、セットを見たとき想像していたよりも遙かにすごいセットがそこに広がっていて、ここで泊まり込みで撮影ができるのかと思うと、すごく嬉しい気持ちになりました」と話していたが、この映画の見どころはまさに療養所の醸し出す雰囲気と、ほぼ全編を占める染谷のアンニュイな文語調モノローグといえる。そこに流れる菊地成孔の音楽は、一見映像と合っていないイメージさえ受けるが、かえってそこが面白く、ある種異様なムードが漂う。仲は何度もこれを「オシャレな映画」と強調していたが、まさにオシャレという言葉にふさわしく、時代背景は終戦直後の仙台ではあるが、実にモダンで、特に川上と仲の演技スタイルなど、文学的な味わいを湛えながらも時に強烈なエロスすら感じるほど。どことなくフランスのヌーベルバーグを思わせ、仲が「見てる自分にちょっと酔っちゃいました」と言って照れ笑いしていたことにもうなずける。

16歳で堂々と主役を張った染谷の演技力は、イライジャ・ウッドのそれに匹敵するほど見事なものだが、脇役陣の演技も負けず劣らず素晴らしい。これが映画初出演となる川上は「私は小説を書いていますが、映画は映画監督のものですから、映画では監督のいうとおりに動いて、単語の気持ちになれた実感がありました。やっているときは自分がどういうことをしているのか全然わからないのですが、映画になったら、想像もしていなかった物語が書き上がっていて、一種の魔法みたいなものを感じました」と語っていた。文学と映画は全く別の芸術だが、本作は映画ならではの映像の美しさ、雰囲気、そして役者の存在感に注目していただきたい。まさにそれは魔法のようで、染谷、川上、仲、窪塚らの存在感なしにこの映画は語れないだろう。

今年は太宰治生誕100周年とあって、<太宰治コンペティション>の様相を呈しているが、その中でも菊地は「これはぶっちぎりの一番だと思います」と作品に太鼓判を捺していた。これがきっかけで日本文学の世界にのめり込んだという窪塚は「独特な世界観で、絶妙なさじ加減で良い感じにまとまっていると思う」とPR。冨永監督自身も「今までの自分の作品とは全然違う」と自負していた。

こういう文芸映画だと、どうしても見る前に硬くなる人がいるかもしれないが、肩の力は抜いて見ていただきたい。染谷も「深く考えずに見て欲しいです。見て聞いて感じたものが『パンドラの匣』です。ど真ん中のミットで受け止めてください」と話している。

余談だが、取材では、全員の集合写真を撮影する前に、私のカメラが突然故障して最後の集合写真を撮ることができなかった。アップの写真だけでも全員分撮っていたから良かったものの、フォトセッションのときに何もできなかったのは悔やまれる。文学は想像である。集合写真も読者が頭の中で想像していただければ幸いである。(文・澤田)

川上未映子
川上未映子

仲里依紗
仲里依紗

窪塚洋介
窪塚洋介

杉山彦々
杉山彦々

菊地成孔
菊地成孔

冨永昌敬
冨永昌敬監督

『パンドラの匣』は10月よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー。

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2009/06/17 23:49

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