トム・クルーズ『ワルキューレ』記者会見の全貌
【東宝東和】トム・クルーズが主演、現在公開中の『ワルキューレ』。今日は3月10日に行われたこの記者会見の全貌をお届けします。3年ぶりの来日となるトムですが、ネットで調べてみると、記者会見の記事が山ほどヒットするので、ここでどうこう書いたところで面白くない。ウチだけは違う視点で書いてみようと思いました。記者会見も色々あるけど、トム・クルーズの会見は落ち着いているし、模範的ともいえるものなので、記者会見というものがなんぞやと思っている人に、その雰囲気が伝わればと思います。
記者会見は平日の昼間にホテルのホールにて行われます。ホテルは、日本でも最高級クラスのホテルが選ばれます。東京では、映画の記者会見に使われるホテルは、主に3・4程度。ま、大抵はここだよというホテルが決まってるわけですね。『ワルキューレ』の記者会見が行われたのはザ・リッツ・カールトン東京。記者会見では定番といえる場所です。2Fのグランドボールルーム横で記者達が待機するのですが、待機場所が広くて、他のホテルに比べてかなり明るく、僕はとても気に入ってます。
会見は13:00から開始でしたが、12:00に着いても最後尾の方になってしまいます。だから、ほとんどの記者たちは11:00には集まっています。早い人の場合、10:00には来てたりします。僕はいつも遅く現場に着く方なので、いつも端の席になってしまいます。この日は600人くらい来ていたので、もう大変でした。さすがトム。通常の記者会見の5倍といったところです。
記者会見には2タイプあって、撮影が許可されているものと、許可されてないものがあります。大抵は許可されていますが、大物のトム・クルーズともなると、撮影できません。そのため、撮影用の時間が設けられ、会見とは別の場所でフォトコール(日本ではフォトセッションという)が行われます。
フォトセッションは5分程度。映画のロゴマークと公開情報がプリントされたプレートをバックに撮影することになります。正面を向いて、左を向いて、右を向いて、もう一度正面を向いて終わり。トム・クルーズともなると、異例ですが、A組とB組に別れて、二つの場所で撮影が行われました。スチールカメラマンの出番はここだけです。この5分のために何時間も待つわけですから、待つことが仕事のようなものです。待ち時間が長い割に撮影時間が短いため、本番では結構緊張感があります。
トム・クルーズが撮影場所の近くにくると、「あ、来たな」というのがわかりました。というのも、「へへへ」と笑い声が部屋の向こうから聞こえてきたので。トムのあの独特の笑い声です。現れたトムは、筋肉のラインがはっきりわかる衣装を着ていました。日本人の場合、カメラマンの呼びかけに答えてカメラの方を見てくれるのですが、外国人の場合、いくら「This Camera!」とか「Tom!」とか呼んでもこっちを向いてくれません。ま、こんなもんです。
トムは割と普通の感じの人で、ファインダーごしに見るとかっこよく見える人でした(褒めてます)。普通の人なのに、写真を撮るとびしっと決まる。カメラに撮られると数倍かっこよくなるなんて、すごい役者ですよね。僕が一番驚いたのはそこでした(くどいけど、これって褒めてますから)。
続いて、会見の会場に移動。ここに入れるのはライターとテレビクルーだけです。記者会見ってお堅いイメージかもしれませんが、ワーグナーの音楽に乗せてトム・クルーズがステージ中央の入り口から登場するところは結構派手です。
司会は襟川クロさん、通訳は戸田奈津子さん、二人ともあまり会見では見ない人ですが、トム・クルーズともなると、司会にも通訳にも有名な人が選ばれるのです。ちなみに、司会も通訳も、どの会見でも9割がたは女性がやっています。
トム・クルーズはとても落ち着いている人で、一つ質問されたら3分以上喋る人でした。ちゃんと質問者の目を見て答えるところが他のスターと違うところですね。「ゆっくり訳していいからね」といって通訳の肩にそっと触れるなど、人を気遣う優しさもあります。若い通訳の人だったら、嫉妬されてしまうかも。
最初の挨拶は「今日は皆様お越しくださいましてありがとうございます。今回は家族連れなので余計喜びも大きいです。短いですが、素晴らしい時を過ごしています。本当にありがとうございました」
この前日はオフだったとのことで、「寿司屋で寿司を食べて、帝国ホテルの前の公園にスーリ(愛娘)を連れて行って、アヒルを見たり鯉を見たり、他の子供たちと一緒に走り回って遊びました。それから野球もみました」と話していました。野球の話は、ちょうどWBCの時期で日本ががんばっていたからです。
主人公については、「シナリオにひきこまれました。アクションありサスペンスがあり、人間というものが深く描かれています。人間というものがどう生きていくべきか、真の姿が描かれています。彼は極限において非常に難しい選択をします。このキャラクターに惹かれました。主人公は大変な犠牲を払います。私は子供の頃ナチを憎んで育った人間でした。私はこういった難しい選択をする立場にはいませんが、ナチスの在り方に賛同しない人がいたということ、国のためならず、世界のため未来のために犠牲を払ったことに感銘を受けました。歴史の中には私たちの知らない物語が隠されています。私は父でもあるので、今日そういう人々のことを学ぶということは色々なことを考えさせられました」と話していました。ナチスの中にナチスに反対する人がいたことは、その後も繰り返し話題に取り上げていたので、トム自身は最もこのことが印象に残っていたのかもしれません。
役作りについては、「私が実在の人物を演じるのは『7月4日に生まれて』以来2回目です。実在の人ということで実話のリサーチを徹底的にしました。『ラストサムライ』のときも1年間日本をリサーチしました。傷を負ったこと、ドイツのあの時代のことを意欲的に勉強しました。この映画の素材をどう現代にアピールするか、娯楽性をどう入れるか、そこに立ち上がったのはブライアン・シンガーでした。彼は本当に映画らしい映画を作る監督です。娯楽性があって実話に忠実な映画を素晴らしい手腕で作ってくれました。『マイノリティ・リポート』のときも『宇宙戦争』のときも、私はライター、監督と密接な打ち合わせをして、そこからドラマを立ち上げて行く作業をしています。全ては実話なので、すべての場面をリサーチして作っていくことは、とても素晴らしい経験でした」
「私は役作りのときは肉体的なもの、精神的なもの両方から入ろうとします。彼は目を失って指を失って、シナリオに書き切れないくらいすごい人生を送った人です。人間として共感できるのは妻を愛し子供を愛し国を愛すること、そして世界の一部としてのドイツを愛するという心の広さに学ばされました。子供のためにも反対しなければいけないという使命感があって、感情的に共感する部分がありました」
現場の雰囲気については、「シリアスなシーンでも現場は楽しかった。私は飛行機が大好きで、飛行機を飛ばしました。砂漠にも全員キャンプして、楽しい撮影でした。私は映画を撮るときに、ベストを尽くせ、ハードワークをしろというい方針で映画を作っていますが、それと同時に楽しくなければいけないという意識はあるのです」
ドイツロケについては、「ベルリンには私は何回か行っています。私はこの映画のために歴史を考えながら歩きました。非常に美しい湖があって、そこにはポツダムがありました。そこで人類をゆるがせる歴史が作られたと感慨深い思いにふけりながら船で回りました。私はアメリカで歴史を学びましたが、アメリカで学んだ歴史と、現場で感じる歴史は違います。俳優である一番の特典は世界を旅できることですね。色々な人にあって、色々な空気を学んで、それを通じて映画を作ることができる、これが一番の特権です。『ラストサムライ』を作って日本を描いたけれど、『ワルキューレ』も、ベルリンが非常に美しい。本当にドイツの人々は素晴らしいし、ベルリンは素晴らしい町です。でもそこに歴史があることをつくづく感じました」
アイパッチについては、「片目ではバランスが取りにくい。アイパッチがあるためにカメラの配置とか場面作りが違ってくるから監督も苦労していましたが、とてもいい効果が出たと思います。映画的にはすごくかっこいいと思う。ジョン・ウェインみたいだろ」と、一映画ファンとしての一面も見せてくれました。
「このシリアスなストーリーをいかに娯楽性をもたせて、映画的にお客さんをつかむか、それはスイスの精密の時計を作るようでした。最初覆面試写会を行ったときには、観客がどういう反応を示すか見ようと思って、野球帽をかぶって、ブライアン・シンガーと一緒にただの観客としてこっそり紛れ込みました。ある場面では観客がぴたりと動きを止めました。飛行機の場面ではとても喜んでいたようですし、クレジットが流れる場面では、観客が拍手をしてくれました。シナリオライターもこのシナリオを完成させるために何年という月日を費やしているし、ブライアンと私も1年を費やしていたから、いい反応が見られて感動しました」と微笑ましいエピソードについても語ってくれました。
会見は1時間ほどで終了。最後は「楽しい記者会見でした。ありがとう」と感謝の言葉も忘れなかったトム。やっぱりスターは違うぜ。そう思った記者会見でした。『ワルキューレ』はTOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開中です。
2009/04/14 9:17