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1937/フランス
出演:マリー・ベル フランソワーズ・ロゼー ルイ・ジューヴェ 
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ

(データベース登録者:ちりつも

偏差値:61.3 レビューを書く

古き良き時代のワルツ [90点]

このレビューはネタバレを含みます

イタリアのコモ湖畔の城に、30代半ばの女性、クリスティーヌ(マリー・ベル)は住んでいた。
彼女はたった今、夫に死なれたばかり。ある日、クリスティーヌは身の周りの整理をしていると、1冊の手帖を見つける。それはクリスティーヌが初めて16歳の時に社交界デビューした夜の舞踏会で、彼女に愛をささやいた男たちの名前が記してあった手帖であった。
クリスティーヌの心に20年前の美しい幻想のような舞踏会が蘇ってくる・・・。
そして彼女はその後の男たちを訪ねて旅に出るのだが、彼女を待ち受けていたものは・・・。

なんとも、不思議でロマンチックな作品です。
この作品は美しい未亡人となったクリスティーヌと、愛をささやいた8人の男たちとの再会の物語です。
オムニバス形式なので、ロマンチックミステリーな短編小説を見ているようです。

最初に訪ねた男は既に20年前に、死亡してます。
死因は自殺。
クリスティーヌに恋人ができた事での絶望死です。
クリスティーヌは亡き息子の亡霊と暮らす母親から、その事を知らされます。
フランソワーズ・ロゼーが扮してます。
その姿は哀れな母親そのものです。

次に出会った男(ルイ・ジューヴェ)は、いかがわしいナイトクラブを経営していて、すっかりクリスティーヌと出会った頃とは変わっていました。
この男は昔、クリスティーヌにヴェルレーヌの詩をささやき、彼女を口説いたほどのインテリでした。
なのに今は悪党になり果てて、クリスティーヌの目の前で逮捕されてしまいます。
「凍てつける公園を、 影ふたつ過ぎ去りぬ」と彼女にささやいた青年はもうそこにはいないのです。

3人目の男(アリー・ボール)は、当時40歳くらいのピアニストでした。
男は既にピアノを辞めて、今は聖職者となり、修道院で子供たちに歌を教えてました。
男は、昔の思い出をクリスティーヌに話します。
愛する女性のために捧げた演奏を聴いてもらえず、その愛に絶望して自殺未遂をしたこともあったと・・・。
この男もクリスティーヌを想う余り、犠牲となったのです。
こうして、クリスティーヌは再会する男たちから、その度に悲惨な現状を見せつけられるのです。

ここまで書くとクリスティーヌという女性、普通は性悪女のイメージですが、マリーベルの毅然とした美しさと明るさのせいか、余り彼女に悪女という印象は感じません。
あるのは、とても摩訶不思議な?女性ということです。
彼女はなぜ、16歳の思い出を探しに旅に出たのでしょうか?
彼女にとって初めての舞踏会とは一体、何だったのでしょう・・・。

「モスリンのカーテン シャンデリアの輝き 純白のドレス 何もかもが素敵!」
クリスティーヌは舞踏会の思い出を、余りにも美化してたことにようやく気づきます
それが、単なる幻想と、気がつくのは7人目の男と一緒に、20年ぶりに同じホールの舞踏会にいった時です。
そこは、自分の思い描いていたものとは、余りにもかけ離れた舞踏会でした。
けれど、彼女の隣にいた16歳の女の子は目を輝かせて、クリスティーヌにこう言うのです。

「モスリンのカーテン シャンデリアの輝き 純白のドレス 何もかもが素敵!」
女の子は20年前のクリスティーヌ自身でした。

物憂げで憂鬱なクリスティーヌの旅の果てには、反比例するかのような軽やかなラストが待っています。
「灰色のワルツ」の調べに乗って、まだまだクリスティーヌの舞踏会は続いていきます。

2008/07/27 21:40

ちりつも

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