ちょっと違う切り口の映画ニュースをお届けするウェブマガジン


Casque D'or
1951/フランス/98分
出演:シモーヌ・シニョレ セルジュ・レジアニ クロード・ドーファン   
監督:ジャック・ベッケル

(データベース登録者:ちりつも

偏差値:63.5 レビューを書く

可愛いシモーヌ・シニョレ [96点]

このレビューはネタバレを含みます

19世紀末のパリ。
郊外で仲間とボート遊びに興じていた娼婦マリー(シモーヌ・シニョレ)は、カフェで大工のマンダ(セルジュ・レジアニ)に出会い、粗暴な情夫ロランへの当てつけにマンダと踊ってしまう。
怒ったロランはマンダを殴ろうとしたが逆に殴られてしまう。
ロランはマンダに恨みをいだき、酒場でマンダと決闘するが殺されてしまう。
マンダはマリーと一緒に田舎の百姓家に隠れてつかの間の幸せな時を過ごすのだが、ロランのボスのルカがマリーを自分の女にしたいがために、マンダにある罠をしかける。

原題は“黄金の兜”の意味で、娼婦マリーが、ブロンドの髪を兜型に結って、そのあだ名で呼ばれています。
シモーヌ・シニョレの個性的な美しさと可愛らしさが満開の作品です。
けだるい大人のムードがただようシニョレに“可愛い”という形容は似合わない気がするけど、このマリー役のシニョレは本当に可愛いのです。
特に、マンダと田舎に隠れて暮らす時のマリーがことのほか愛らしいです。
朝、目覚めたマリーが窓から長い金髪をたらしてコーヒーを飲むシーンは無垢な少女のようです。
マリーを見つめるマンダ役のセルジュ・レジアニもハンサムではないけど、いい雰囲気を持っています。
この役者さん、何がどうってわけではないけど、女から見て惹か
れるタイプの男です。
ほとんどしゃべらない朴とつとした役ですが、マリーを見つめる眼差しがとても優しいのです。

あと、私がこの作品に惹かれたのは、男と女が極端にいえば、スキンシップとアイコタクトのみで2人の心が最初から最後まで結びついている、という凄さです。
全編を通して、マリーとマンダには会話らしい会話がほとんどありません。
たまにしゃべっても「会いたかった・・・」「俺も・・・」てなカタコトぐらいなのです。(なんてセリフが少ないの!)
出会ったばかりの男女は普通、相手を知るためにまず、いろいろな対話をすると思うのですが、そんなこと2人にはまったく関係がないようです。
セリフの洪水のような恋愛映画はたくさんあるけれど、この映画は逆に「愛する男女に言葉なんかいらないでしょ!」って言われちゃってるかのようです。

現実には、こういう男女はなかなかいないでしょう。
何もいわなくてもわかる…。「んなアホな…」って思います。
いくら愛してたって自分以外の心が念力じゃあるまいしわかるのか!と人一倍不信感の強い私はいぶかしがってしまうのですが...。
だからこそ、そんな2人のことを見ててとても羨ましいと思います。理想的なカップルです。

作品は前半の淡々とした展開から、一転してマンダがロランを殺した辺りからサスペンスタッチになっていきます。
そして、卑怯者のルカにはめられたマンダは彼に復讐するのですが、このシーンはニヒルなマンダの顔にしびれてしまいました。

残酷な運命にあっけなく散った恋ですが、私にはマリーとマンダの中の“愛の世界”ではハッピーエンドな結末だったのではないかな?って思えました。
淡々としながらも、ひたむきな恋物語を演出したジャック・ベッケル監督に拍手を贈りたいです。


2008/07/13 19:26

ちりつも

参考になりましたか?