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2007/日本/東宝/143分
出演:加瀬亮 瀬戸朝香 役所広司 もたいまさこ 山本耕史 竹中直人 正名僕蔵 小日向文世 
監督:周防正行

偏差値:61.9 レビューを書く

これが裁判。これが映画。 [100点] [参考:2]

このレビューはネタバレを含みます

日本映画史5本の指に入る大傑作だと思います。

裁判モチーフにした映画というよりは、裁判そのものを描いた映画。それだけに的を絞っていることで重厚な2時間半の映画になっています。扱っているテーマは痴漢冤罪。男なら誰にでも起こりうることなので目の付け所がいいです。

映画をみると裁判というものがどういったものなのか、もし痴漢で捕まったらどうなるのか、出演者のセリフを通してよく説明されています。わざとらしい説明にならないように、きちんと登場人物の関係から、セリフの一部として、弁護士や傍聴者に語らせています。監督の長年の徹底したリサーチで、ドキュメンタリーを見ているかのような生々しさがあり、「こんな世界なのか」と驚きの連続で最後まで興味は尽きません。funではなくinterestという意味での面白さが詰まっています。

それだけでなくストーリーとしてもしっかりと作り込まれていて、回想シーンの入れこみ方など、とても巧いです。親子ドラマとしてもよくできているし、シリアスなドラマでありながら所々にちょっとした笑い心があります。

先ほどセリフでうまく説明してると書きましたが、説明は最小限にとどめ、わざわざ説明しなくても次のシーンを見ると途中で何があったのか想像できるのであれば省かれています。裁判という要素の濃度を濃くするため、裁判以外の要素は出来る限り削っており、一切の無駄がありません。

僕はこの映画で初めて加瀬亮さんの存在を知りましたけど、いかにも普通ぽいところに感情移入できました。証人が嘘をついているのをにらみつける目つきが印象的です。法廷では腹が立つけど我慢してただ聞いているしかない。言いたいことがあっても、聞かれた質問にしか答えられない歯がゆさが伝わってきます。もたいまさこさんもリアルな母親のイメージ。法廷で息子を見て相づちをうったとき僕は思わず泣きそうになりました。

この映画で最もよく描けているのは、人間描写だと思います。人はこういうとき、どういう表情になるか、その心理がよく描かれています。小さな役にも妥協がありません。僕が「あるある」と思ったのは、証人の人が質問者に「裁判官を見て答えてください」と言われても、つい質問者の方を見て話してしまう点。そういった些細な人間臭さにリアリティを感じます。

主に会話中心の映画ですが、登場人物の会話の内容が迫真に迫っています。ここでこんなことを言われたら本当に腹が立つだろうというのが、見ていてすごくわかります。話し方がヘタな人がいて、主語が抜けていて何を言ってるのかすぐに整理できない会話があったのもリアルでした。

裁判というものは、僕はお互いに相手の方が悪いと思っているから戦うものだと思っているのですが、セリフを聞いてると「たしかに相手の言っていることも間違っていない」と、そう思うんですね。観客にそう思わせるところが、この映画の凄さだと思うのです。相手の話にも一理あるわけで、例えば当番弁護士が、女弁護士に逆ギレするシーンは、本作のテーマを端的に表していると言えます。

判決のシーンも、「なんでこんなことに」と思うわけですが、裁判官の説明を聞いてると「なるほど」と納得させられてしまうから恐ろしい。ラストの主人公の声「心のどこかで裁判官はわかってくれると信じてた」の一言は、まさに僕が映画を見ていて常に思っていたことでした。だから裏切られたショックは十二分に伝わってきました。最後に裁判官から「着席しなさい」といわれても、言われた通りに従わなかった主人公の気持ちがよくわかります。

2009/02/07 11:19 (2010/01/15 10:15修正)

シネマガ管理人

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