バンド・ワゴン
The Band Wagon
1953/アメリカ/112分
出演:フレッド・アステア シド・チャリシー ジャック・ブキャナン エヴァ・ガードナー
監督:ヴィンセント・ミネリ
偏差値:60.5 レビューを書く
たそがれダンサー [85点]
※ネタバレを含むレビューです。
ジュディー・ガーランドの旦那さん、あるいはライザ・ミネリのお父上としても知られる映画監督、ヴィンセント・ミネリのテクニカラー・ミュージカル映画である。製作は「巴里のアメリカ人」のアーサー・フリード、主演は「イースター・パレード」のフレッド・アステアと「雨に唄えば」のシド・シャリース。脚本は「雨に唄えば」のライター・チーム、ベティ・カムデン&アドルフ・グリーン、音楽は「ショウ・ボート」のアドルフ・ドイッチェ、歌曲は作詞にハワード・ディーツ、作曲にアーサー・シュワルツ、ミュージカル振付はマイケル・キッドという陣容。これを見れば、今作が往年の大ヒットミュージカル映画の栄光を再び取り戻さんと企画されたものであることがわかる。
内容も、時代遅れとなって人気の衰えた元ミュージカル・スター、トニー(アステア)が、古巣のブロードウェイに戻って脚本家コンビ、レスター夫妻(O・レヴァント&N・ファブレイ)の企画する舞台で返り咲くというもの。そこへ、今をときめくブロードウェイの大物演出家コルドヴァ(J・ブキャナン)が割り込んできて、トニーの芸風にあわせて軽いミュージカル・コメディだった脚本をしっちゃかめっちゃかに書き変えてしまうのだ。話題性を狙い、バレエ界からプリマドンナ、ガブリエル(S・シャリース)まで呼び寄せ、ようやく完成した大仰なアート指向の「ファウスト」は、大コケ。かくして、再起を賭けたトニー主導の下、芝居は昔風のボードヴィル・スタイルに変えられ、それがかえって全米で好評を持って迎えられるという皮肉な、でもハッピーな結末がやってくる。
忘れられたたそがれスターが、昔のスタイルで再び脚光を浴びるという筋立ては、当時の変わり行くハリウッドに対するアンチテーゼであったと思う。これぞハリウッド、これぞエンターテイメント(ザッツ・エンターテイメント!)というものを恥じることなく前面に押し出してみせたこの作品は、この後急速に衰退するミュージカル映画の最後の輝きを放っている。多くのナンバーのうち映画のために新たに書き下ろされたものは、実は1曲しかないらしいのだが、極上のパフォーマンスに支えられたそれらは、やはり観る者の陶酔を誘う。アステアの撮影当時53歳とは信じられぬすさまじいダンス、シャリースのカモシカのごとく美しい妖艶な脚、ブキャナンとレヴァントのキュートでコミカルな味わい、ファブレイの手馴れたパフォーマンス、そしてそれらの見事な合致、どれをとってもハリウッドにしか存在し得ないエンターテイメントであろう。
2008/06/26 12:07
豆酢
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