奇跡のシンフォニー
August Rush
2007/アメリカ/東宝東和/114分
出演:フレディ・ハイモア ケリー・ラッセル ジョナサン・リス・マイヤーズ テレンス・ハワード ロビン・ウィリアムズ
監督:カーステン・シェリダン
顔も名前も知らない両親と自分は、心に聞こえてくる音を通じてつながっている。そう固く信じ、施設で過ごす孤独な日々を耐えている11歳のエヴァン。ある晩、電線を伝う不思議な音に導かれるように、施設を抜け出してマンハッタンへやって来た彼は、ストリート・ミュージシャンのグループと生活を共にしながら、両親探しの第一歩を歩み出す。生まれて初めて楽器を手にしたことで、瞬く間に開花するエヴァンの音楽の才能。“僕が奏でるギターの音は、この世界のどこかにいる両親の耳にきっと届く”―その思いを胸に、街角で無心に演奏するエヴァン。そんな彼の心の声が通じたかのように、母のライラは死産だったと思っていた息子の行方を探し始め、父のルイスも、見えない運命の糸にたぐり寄せられるようにニューヨークへやって来る。果たしてエヴァンは、彼ら両親に会い、愛を伝えるという夢をかなえることができるのだろうか?
『ネバーランド』でピーターパンのモデルになった少年を演じ、世界中の映画ファンを虜にしたフレディ・ハイモア。続く『チャーリーとチョコレート工場』でも、まっすぐな心を持つチャーリー少年の役に自然体の魅力を輝かせた彼が、今度は、音楽のパワーを信じる心で夢をかなえていく少年の役に、健気な存在感を光らせる。本作『奇跡のシンフォニー』は、必ず会えると信じて両親を探す主人公エヴァンの一途な姿に涙し、再会の奇跡を呼び起こす音楽の魔法に心揺さぶられずにはいられない、珠玉のファンタジー・ドラマだ。
感動的なクライマックスを予感させる物語は、主人公のエヴァンが、両親を探す冒険の中で、音楽を媒介に様々な人々と出会い、埋もれていた才能を開花させていく足取りをたどっていく。元ストリート・ミュージシャンのウィザードのもとで初めてギターに出会い、演奏によって自分を表現する術を学んだエヴァンは、聖歌隊の少女ホープから楽譜の読み方を習ったことをきっかけに、作曲に挑戦。両親へのあふれる思いを音符に託し、壮大なラプソディを創り上げていく。その過程で人間としても大きく成長を遂げていくエヴァン。誰からも理解されない悲しみを内に秘めた孤独な孤児だった彼が、人々との触れ合いを通じて自身の才能に目覚め、人間性を豊かにふくらませていく姿は、音が旋律となり、旋律が音楽になっていく過程とよく似ている。そして、エヴァンの投げかけた単音が、母のライラ、父のルイスの魂と響きあい、家族という和音に昇華していくドラマには、コーラスのハーモニーがぴたりと決まったような、すがすがしい感動が満ちあふれているのだ。
そんな物語の感動を一身に担うフレディに加え、彼をサポートする共演者も魅力の顔ぶれだ。才能あるチェロ奏者だったが、ある事故をきっかけにコンサート活動をやめてしまうエヴァンの母ライラを演じるのは、『ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかた』で注目を集めたケリー・ラッセル。ライラとひと目惚れの恋に落ちながら、仲をひき裂かれ、音楽への情熱を失ってしまうロック・ミュージシャンのルイスを演じるのは、『マッチポイント』の美形の演技派、ジョナサン・リース=マイヤーズ。ロマンチックな恋のエピソードでドラマを盛り上げる2人に加え、エヴァンにストリートの厳しさを教えるウィザードの役で、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のオスカー俳優ロビン・ウィリアムズが出演。さらに、『クラッシュ』、『ブレイブワン』などで売れっ子街道を歩むテレンス・ハワードが、ライラとエヴァンの母子再会に尽力する児童福祉局職員に扮し、人間味のある演技で魅了する。
監督は、長編デビュー作の『Disco Pigs』で数々の賞を受賞し、父ジム・シェリダン監督によって映画化された『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』の脚本でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞にノミネートされたカーステン・シェリダン。エヴァンの目線で物語を語り継ぐ繊細なストーリー・テリングや、音と映像を通じて登場人物の情感を伝えていく演出に、新人ばなれした手腕を発揮している。
スタッフにも一流のメンバーがそろった。エヴァンの音感を刺激する自然と都会の情景を、ダイナミックな映像で捉えた撮影監督は、アカデミー賞候補になった『グラディエーター』をはじめ、リドリー・スコット監督とのコラボレーションで知られるジョン・マシソン。ニューヨークの息づかいを的確に捉えたプロダクション・デザインは、『ボーイズ・ドント・クライ』のマイケル・ショウ。編集には、『愛と哀しみの果て』などで3度アカデミー賞にノミネートされている大ベテランのウィリアム・スタインカンプがあたっている。
映画の第2の主役とも言うべきテーマ音楽を手がけたのは、『ザ・シューター/極大射程』のマーク・マンシーナと、『ライオン・キング』でオスカーを受賞したハンス・ジマー。ヴァン・モリソンの「ムーンダンス」から、クラシック、ゴスペルまで、様々なジャンルがクロスオーバーする劇中曲の音楽監修は、ジェフリー・ポラック、ジュリア・マイケルズ、アナスターシャ・ブラウンの3人のスーパーバイザーが担当。彼らが監修したナンバーで、ハーレムのインパクト・レパートリー・シアターが本作のために書き下ろした「Raise It Up」は、第80回アカデミー賞の主題歌賞にノミネートされた。
「音楽は身のまわりのあちこちにある。 あとはただ耳をすませばいいんだ」
エヴァンのように、楽器の弾き方がわからなくても、楽譜が読めなくても、リズムに身をゆだね、気持ちを表現すれば、必ず伝わるものがある。心の耳をすませば、聞こえてくる何かがある。
両親に会いたいと願うエヴァンの真心(まごころ)を、音楽の持つ不思議なチカラが包み込んで起こした奇跡の化学反応。『奇跡のシンフォニー』 は、そのパワーに驚かされると同時に、音楽は決して限られた人たちのものではなく、誰もがその喜びを享受できることに気づかせてくれる。
2008年6月21日(土)日比谷スカラ座他全国ロードショー
公式サイト http://www.kiseki-symphony.com/