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Ordet
1955/ベルギー=デンマーク/126分
出演:ヘンリク・マルベルイ エミル・ハス・クリステンセン プレーベン・レーアドルフ・リュ ビアギッテ・フェダース 
監督:カール・テオドール・ドライヤー
原作:カイ・ムンク
脚本:カール・テオドール・ドライヤー
撮影:ヘニング・ベンツェン
音楽:ポウル・シーアベック

(データベース登録者:frost

偏差値:65.0 レビューを書く

神が創った映画における”奇跡” [100点]

このレビューはネタバレを含みます

ドライヤーは、『裁かるるジャンヌ』や『ヴァンパイア』などのサイレント作品で知っていたのですが、この”イメージの神様”が1955年に製作した『奇跡』は驚くべき作品でした。

映画の持つ”映像の力”をつくづくと思い知らされ、いくつもの忘れがたいシーンに出会うことができました。

なかでも、インガが死に至る一連のシーンはまさに映像の奇跡。自らをキリストと混同する狂人ヨハネスのつぶやきと、室内を照らす車のヘッドライトや響いてくるエンジン音がシンクロし、見えないはずの神の姿を、ドライヤーは部屋の中に浮かび上がらせてしまいました。間違いなくそこに神がいた。大鎌を振り上げ、インガの命を召し上げていった。今なら安易にCGで神の姿を作り出す監督もあまたいると思います。狂人のつぶやきとライトとエンジン音だけで、神の姿を造形したこのシーンはまさに映画における奇跡のシーンだと思います。

2時間強の映画の中で、すでに散々、映像の力を見せつけられた後にやってきたラストシーンはさらにすさまじく、そこには”映画の全て”が凝縮していると言っても過言ではありませんでした。

ラストシーンの舞台となるインガの葬儀会場の、その”空間”から伝わってくるはりつめた美しさをどう表現すればいいんでしょう。簡素にして無駄のない室内に、絶妙なシンメトリーで配置されるモノたち。真っ白な室内にゆるゆると動き漂う喪服の人々。悲しげにもれる彼らのすすり泣きと小声の会話。その場全体がぐっと圧縮されてキーンと音を発しているのでではないかという錯覚すら覚えました。

そして、その空間でやり取りされる奇跡をめぐる”意味”の交差。葬儀会場に集まった人々はインガを惜しみ、ひたすら神にすがり奇跡を望みます。最愛の妻に先立たれた憔悴の夫ミケル。わが身も滅ぶほど嘆き悲しんでも、彼の望みは神に通じません。科学の象徴たる医者と宗教の象徴たる牧師は、これまで対立の構図で描かれてきましたが、ここではすでに分かたれた存在ではありません。彼らはただ寄り添って部屋の隅に座るのみ。科学と宗教がその垣根を取り払ってさえ無力な、その姿をどう見ればよいのでしょう。隣人は慈悲の心を思い出し、異宗派であるインガの父親との間の長年の確執を捨て、2人は涙ながらに肩を抱き合います。しかし、宗派を超えた宗教的和解をもってしても神の奇跡に通じる力は生まれない。それはなぜなのか。

やがて、全ての人々が焦がれた奇跡は、それまで狂人として厄介者扱いされてきたヨハネスの手によって実現されます。そして、それを促したのはまだ分別もつかないわずか7歳の女の子でした。

この作品は、宗教に対して強烈な問いを投げかけていると言われています。それは、キリスト教に全く疎い私にも見事に伝わってきました。それだけの影響力のあるメッセージが、実物として目の前のスクリーンに写る映像から発せられてくるということに素直に感動しました。これまで、ストーリー重視で映画を観ていたのですが、映像が意味を作り出し、意味が映像を輝かせる、そういう映画の面白さに気づくことができた作品となりました。ちょっと無理して映画館に観にいって本当に良かった。私の映画人生はこの一本で間違いなく変わります。

2008/04/30 00:28

frost

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