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彼とわたしの漂流日記

Castaway on the Moon
2009/韓国/CJ Entertainment Japan/116分
出演:チョン・ジェヨン チョン・リョウォン 
監督:イ・ヘジュン
http://hyoryu-nikki.com

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自殺に失敗して都会の無人島で暮らす男×都会のマンションで引きこもる女
誰かがあなたを見守っている

ソウル中心部を流れる川にぽつんと存在する立ち入り禁止の無人島パム島と、対岸マンションの一室という、特殊な二つの限定された空間を舞台に描かれる『彼とわたしの漂流日記』は、人生に絶望して自殺を図るものの失敗し、都会のど真ん中の孤島に漂着してロビンソン・クルーソーさながらの野生生活を送ることになった男と、心身ともに傷を負い、自分の部屋を世界の中心にして三年ものあいだ引きこもる女という、本来ならば交わることのないふたりの交流と出会いを描いた物語である。世界的な不況を背景に、リストラ、消費者金融からの借金、自殺、引きこもりなど、すっかり身近になってしまったモチーフを真正面から扱いながらも、その物語は決して悲惨なものではない。彼らは自分のおかれた状況を少しずつ受け入れ、小さな「希望」を見つけて、自らの殻を破っていく。図らずして社会のアウトサイダーとなってしまった不器用なふたりを観て、誰もが思わず応援したくなるに違いない。
彼らを結ぶのは、メッセージの入ったワインボトルと砂浜に書いた文字だけ。

「HELLO」「WHO ARE YOU?」 

誰かがどこかであなたを見守っている。
幸せは、いつだってすぐそこに漂流している。




孤島のように漂う人間たちのコミュニケーションを描く
『ヨコヅナ・マドンナ』イ・ヘジュン監督の本格演出作

監督は、大ヒット作『ヨコヅナ・マドンナ』で韓国内の映画祭の新人監督賞を総なめにしたイ・ヘジュン。前作では、女の子になりたい少年が偏見にさらされながらも前向きに生きようとする姿を描き、多くの感動を呼んだ。
『彼とわたしの漂流日記』の企画が立ち上がった際、たった2人の主人公が、「孤島」と「狭い部屋」という限定された空間で繰り広げる都心の漂流記とは、果たしてどのように展開されるのか—. その構想は話題となり、製作チームは、撮影前に詳細が外部に漏れないよう苦心したという。企画からシナリオ完成まで一年を要した本作は、監督独特の温かいまなざしは変わらないまま、より時代性のある社会問題をテーマに、エッジのきいたユーモアを交えながら、社会とのつながり方を模索する都会の孤独な男女の交流を時にせつなく、時にコミカルなファンタスティックなラブストーリとして描き出す。




まさに裸一貫! 体当たりで演じた主人公たち

“都会の孤島”で人生最大のピンチに遭遇するものの「どうせ死ぬなら!」と、想像を超えたサバイバル能力で野生生活を送る元サラリーマン、キムを演じるのは『シルミド』、『トンマッコルへようこそ』などの確かな演技力で鮮烈な印象を残したチョン・ジェヨン。高層マンションの狭い部屋で自分だけの世界を作り、独自のルールで生きている風変わりな“わたし”には、「私の名前はキム・サムスン」で主人公の
ライバル役を演じたチョン・リョウォン。
ユニークな設定だけでなく、限定された空間で一人きりで演技をしなければならないのは、少なからずプレッシャーを感じたはずだ。手足の爪、ヒゲもそることができず、撮影中に短期間のダイエットも敢行しなければならなかったチョン・ジェヨンと、よれよれの衣装とほぼノーメイクで、キャラクターのすべてを狭い部屋の中で演じたチョン・リョウォンは100日間、ひたすら役柄になりきった。世界のルールを拒否し、自分らしく生きるために自ら孤立を選んだ主人公に扮した二人は、人間関係に疲弊した現代人を代弁し、新しい希望のあり方を伝えてくれる。
STORY

「HELLO」「あなたは誰ーーー?」
世界からはぐれてしまったふたりの、小さな勇気が起こした奇蹟

リストラ、借金、失恋が重なって人生に絶望し、ソウルの中心を流れる川・漢江〈ハンガン〉に飛び込んだキム(チョン・ジェヨン)。目が覚めると川の中にぽつんと存在する無人島に漂着していた。そこは生態景観保全地域として一般人の立入が制限されている孤島で、船がなければ脱出できない場所だった。キムは、観光遊覧船や119番、元恋人へ電話をかけて助けを求めるが、取り合ってもらえない。そのうち携帯のバッテリーが切れてしまう。自力で対岸を渡ろうと試みるが、幼い頃溺れた経験から泳ぐこともできない。仕方なく再び自殺を試みるが、美しいサルビアの甘い蜜を口にしてもう少し生きてみようと思い直し、アヒルのボートを住処に無人島での生活を開始する。

漢江の対岸の高層マンションに住む“わたし”(チョン・リョウォン)は、3年間、引きこもりの生活を送っていた。毎日、インターネットで“誰か”になりきってブログを更新している。窓も閉め切った狭い部屋の中だけの生活だが、独自のルールが存在している。朝、決まった時間に起きて朝食、その後軽く運動してからパソコンの前に“出勤”…。日課を終えて、月を撮影することが唯一の趣味だった。月には誰もいないから、さみしくないのだ。

韓国では、半年に1度、訓練空襲が行われる。全国民は一斉に屋内に避難し、交通手段も停止する。その間20分。“わたし”は誰もいない月のような世界を写真に収めようとしていた。その時、漢江の孤島で自殺を試みるキムと砂浜に書かれた“HELP”の文字を目撃。衝撃的な出来事に動揺し、眠れない夜を過ごすものの、翌朝、恐る恐る窓を開けてカメラをのぞいた彼女は、キムまだ生きていることを確認し、安心する。キムを地球外生命体だと思いこんだ彼女は、キムの観察を始める。

野生生活にも慣れてきた頃、キムは島に漂着したジャージャー麺の包装ビニールを見つけ、ジャージャー麺を食べたいという欲求に激しくかられる。彼は鳥の糞を元に、自分の大便を肥料としてトウモロコシを育て、ジャージャー麺を作ろうと畑を耕し始める。いつの間にか砂浜のメッセージは、“HELP”から“HELLO”に変わっていた。2ヶ月間、その様子を観察していた彼女は、地球外生命体からの“HELLO”のメッセージにこたえるため、手紙を入れたワインボトルを携え、勇気を振り絞って3年ぶりに外に出る。誰にも会わないように慎重に夜の街を走る。そして橋の上から、キムの元へワインボトルを投げる。

3ヶ月後、キムが撒いた種が芽を出した。同じ頃、キムは木の枝にひっかかったワインボトルを見つける。中に入っていた白い紙には“HELLO”の文字がプリントされていた。キムは、それが自分宛のメッセージで、誰かが見守ってくれていたことを知る。そして3ヶ月と17日後、“わたし”はようやくキムからの返事を受け取る。砂浜に書かれたメッセージが、“HOW ARE YOU?”に変わったのだ。彼女は再び
キムに返事を届けに行く。そして、キム宛にジャージャー麺の出前を注文する。しかしキムは、アヒルのボートでやってきた出前の店員が差し出すジャージャー麺を受け取らず、「僕にとってジャージャー麺は希望だ」と彼女に伝えてほしいと頼む。キムは会ったことのない“わたし”への思いを募らせていく。

ある晩、台風が市内を襲い、孤島にも激しい暴風雨が吹き荒れた。畑は崩壊し、キムのすみかであるアヒルのボートも川へと流されてしまう。翌日、島の浄化作業に訪れた作業員がキムを発見し、島から出るよう促すが、島が自分の生きる場所と信じるキムは抵抗する。まだ彼女からのメッセージも受け取っていなかった。しかし、作業員に取り押さえられ、無理やり対岸へ連行されてしまう。

久しぶりに市内に戻ったキムは、希望を失い、今度こそ人生を終わらせるため高層ビルへとバスで向かう。その様子を部屋から見ていた“わたし”は、部屋を飛び出し、無我夢中でキムの乗ったバスを追いかける。もう追いつけないと思ったそのとき、市内全体にサイレンが鳴り響いた。それは半年に一度の訓練空襲。止まったバスに追いついた“わたし”はバスに乗り込み、キムに声をかける。

“わたしの名前は、キム・ジョンヨン。あなたは?”

6/19(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー