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ハロルドとモード 少年は虹を渡る

Harold and Maude
1971/アメリカ/日本スカイウェイ、アダンソニア/91分
出演:バッド・コート ルース・ゴードン ヴィヴィアン・ピックルズ 
監督:ハル・アシュビー
http://sky-way.jp/ziggy/index.html

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ZIGGY FILMS ’70S  70年代アメリカ映画伝説 第2弾
「ハロルドとモード/少年は虹を渡る」
僕はようやく、生きていく意味を見つけた。
——老女モードとの出会いが少年ハロルドの運命を変えた—
‘70年代ハリウッド・ルネッサンスの真只中、ハル・アシュビーが描き出した
滲み出る青春の痛みがあふれる人生讃歌。

【解説】
生きることの意味を見いだせず、死の幻想に酔い、自殺を夢見る19歳の少年が、自由を謳歌して生きる79歳の老婦人との出会いを通して、恋を知り、青春の喜びや悲しみ、痛みに触れ、人生を歩みだす姿を描く。上流階級の教育熱心な母親と軍人の叔父に囲まれる暮らしの息苦しさ、嫌悪、体制と若者の対立といった構図の中で、過去の絶望的な体験から、何ものにも縛られないで生きる天真爛漫なモードの明るさに導かれ、やがて青春と決別する日々を、シニカルでナンセンスな70年代ふうの笑いと少年の心情に寄り添い、励ますようなキャット・スティーヴンスの歌を散りばめながら綴る。

公開以来、約40年を経た現在もカルト的な人気を誇る、このみずみずしい青春映画は2003年アメリカ、エンターテインメント・ウイークリー誌の<カルトムービーTOP50>で4位に選出されたほか、キャメロン・ディアスなどハリウッドの俳優や監督たちにも多くのフアンをもち、特にこの映画の熱狂的なファンである『あの頃ペニーレインと』(2000)のキャメロン・クロウ監督は自身のレコード会社vinyl film record から2007年に2500枚の限定サントラ版LPを発売した。また、日本でも2007年には大方斐紗子/三浦涼介でミュージカル化、2008年には浅丘ルリ子/西島隆弘で舞台化されるなど、コリン・ヒギンズ脚本の素晴らしさは時代を超えて生き続けている。

監督は『夜の大捜査線』(67年)の編集でオスカーを獲得し、『華麗なる賭け』(68年)『真夜中の青春』(70年)と当時、監督として順調に滑り出したばかりのハル・アシュビー。少年ハロルド役には『M★A★S★H(マッシュ)』『バード★シット』『いちご白書』(いずれも70年)と立て続けに出演し、青春時代の繊細な青年役で一躍脚光を浴びていたバッド・コート。そして老婦人モード役には『ローズマリーの赤ちゃん』(68年)でアカデミー助演女優賞を獲得した大ベテラン、ルース・ゴードン。撮影はこの作品以降、素晴らしい活躍を見せるジョン・A・アロンゾ。曇りの日に戸外撮影、晴れた日に屋内を撮るなど、ハル・アシュビー監督の意図に応え、薄暗い室内に差し込む光線の美しさや戸外の柔らかい光など、情感あふれる映像で繊細な物語を描き出している。製作はコリン・ヒギンズとチャールズ・B・マルヴェヒル、脚本コリン・ヒギンズ、撮影ジョン・A・アロンゾ、音楽キャット・スティーヴンス。編集はウィリアム・A・ソーヤーとエドワード・A・ワーシルカ・ジュニア、美術はマイケル・ホーラーが各々担当。出演はほかにヴィヴィアン・ピックルズ、シリル・キューザック、チャールズ・タイナー、エレン・ギア、エリック・クリスマス、G・ウッド、ジュディ・エングルズなど。

【ストーリー】
19歳のハロルド(バッド・コート)は今日も“自殺”を演じる。自殺の真似ごとは彼の生活の一部だった。広大な邸宅、欲しいものは何でも手に入る大金持ちの一人息子の彼は、上流階級意識もあらわな教育熱心の母親(ヴィヴィアン・ピックルズ)や軍人である叔父(チャールズ・タイナー)に代表される体制に、いまや自殺の演技で抗議するのだった。応接間で首つりをしたり、母親のバスルームでのどや手首を切って血の海にひたったり——母親が青くなればなるほど、彼は満足感を味わっていた。

彼の愛車は霊柩車。 それを運転してさまざまな葬式に出席する。ある日、いつものように他人の葬式に出席しているともう一人の風変わりな傍観者に気づいた。79歳のおばあちゃん、モード(ルース・ゴードン)である。彼女は突拍子のないところがあり、いたずら好きで、生きることの喜びに満ちたチャーミングな女性だった。モードに興味をひかれたハロルドは廃棄された鉄道車両に住む彼女を尋ねた。友達の彫刻家グローカス(シリル・キューザック)のためにモードがヌード・モデルになっているのに驚くハロルド。そんなハロルドにおかまいなく、彼女は活動的に動き回り、音楽の素晴らしさを教えたのだった。

一方ハロルドの将来を心配する母親は息子を落ち着かせるために結婚させようと、コンピューターによる紹介サービスに依頼して、霊柩車も処分し、かっこいいジャガーを買い与えた。たが、ハロルドはすぐさまジャガーを霊柩車に戻して対抗した。コンピューターが選んだ最初のデイト相手は女学生のキャンディ(ジュディ・エングルズ)だった。しかし彼が体に灯油をかけて火をつけたため、悲鳴を上げて逃げてしまった。2番目も3番目も同じようにハロルドの狂言に驚き、逃げ出した。万策尽きた母親を冷たく見ながら、ハロルドはモードと一緒にいる楽しさを味わった。

ある夜、二人はカーニバルに行って遊ぶ。ハロルドはモードを深く愛していると告白した。二人はモードの車両に帰り、ピアノを弾き、ワルツを踊った。暖炉には日が燃え、二人はベッドに入った。翌日、ハロルドは母親にモードの写真を見せ、モードと結婚すると宣言した。母親、叔父、はては牧師まで反対してわめきたてた。しかしハロルドはガンとして耳をかさなかった。だが、ハロルドを驚かせたのはモードだった。80歳の誕生日を迎えた日、二人だけのパーティで幸せに浸っている時、モードはこんなに素晴らしい別れはないと睡眠剤を飲んで自殺を図る。あわてて病院へ連れて行き、モードの回復を祈るハロルド。だが、ハロルドの願いはかなわなかった。
モードのいない翌朝、彼は泣きながら霊柩車を崖下に落下させた。崖の上でハロルドはモードからもらったバンジョーで“モードのワルツ”を弾く。いま、ハロルドは生きる自信を全身に感じて歩みだした。

2010年7月17日より新宿武蔵野館にてロードショー