バード★シット
Brewster McCloud
1970/アメリカ/日本スカイウェイ、アダンソニア/105分
出演:バッド・コート サリー・ケラーマン シェリー・デュヴァル
監督:ロバート・アルトマン
http://sky-way.jp/ziggy/index.html
ZIGGY FILMS ’70S <70年代アメリカ映画伝説> 第1弾
「バード★シット」
僕は鳥になって 空を飛びたい
——やさしくも滑稽で、おかしくも悲しい少年ブルースターの夢—
‘70年代ハリウッド・ルネッサンスの真只中、
アルトマンが辿りついた奇想天外な狂騒コメディ。
【解説】
鳥のように自由な飛翔を夢みて自分の肉体を鍛え、翼のある装置を作って空を飛ぶ準備を進める少年を主人公に、人間社会の常識と日常の愚かしさをことごとくパロディ化した作品。アメリカ南部、テキサス州ヒューストンに当時できたばかりの、最新設備と厳重な警備を誇る巨大なアストロドーム(屋内野球場)の地下に主人公がこっそり隠れ住むという設定、人類史上初めて空を飛んだアメリカの英雄=ライト兄弟の兄はクリスマス・キャロルのスクルージも真っ青な“守銭奴”と化して品位のない姿をさらし、警官は平気でカツアゲをする。カウンター・カルチャーの最先端を行くサンフランシスコからやって来たスタイリッシュでハードボイルドな刑事は姿形に似合わず間抜けなドジを踏まされ、女たちは貞操観念も乏しく裸になって少年に迫る……そして少年を窮地に追い込む男たちがことごとく殺され、死体にはデス・マークならぬバード★シット(…つまり鳥のフン)がいつもべったりと顔に張り付いて……といった具合だ。
この映画のなかではあらゆる社会通念が風刺の対象となり、そのアイロニーはさらにバカバカしくもナンセンスな演出で徹底的にやり込められる。まさにロバート・アルトマン監督の真骨頂といったブラック・ユーモア満載の作品だ。
アルトマン自身、1976年のプレイボーイ誌のインタビューで「この時期の一番のお気に入り」と応えている。世界的な大ヒットとなった『M★A★S★H(マッシュ)』の勢いにのって、思う存分に撮った作品と言えるだろう。
製作はルー・アドラー、監督は『M★A★S★H (マッシュ)』のロバート・アルトマン。脚本はドーラン・ウィリアム・キャノンのオリジナルだが、鳥類学者のエピソードなどを付け加え、アルトマンが大幅に書き直した(契約上クレジットはなし)。撮影はレイマー・ボーレンとジョーダン・クローネンウェス、音楽はジーン・ペイジ、編集はルー・ロンバード、翼のデザインはレオン・エリックソンがそれぞれ担当。出演は『いちご白書』のバッド・コート、『M★A★S★H(マッシュ)』のサリー・ケラーマン、『さすらいの大空』のウィリアム・ウィンダム、『宇宙大征服』のマイケル・マーフィー、『愛すれど心さびしく』のステイシー・キーチ、新人のシェリー・デュヴァル、『真夜中のカーボーイ』のジェニファー・ソールト、ジョン・シャックなど。
【ストーリー】
舞台はアメリカ南部テキサスのヒューストン。ここの名物は完成したばかりのアストロドーム(屋内野球場)。最先端の設備と厳重な警備を誇るが、このドームの地下の片隅にブルールター・マクラウド(バッド・コート)はこっそり住んでいた。彼は自分の力で鳥のように空を飛ぶため、翼のついた装置を開発し、肉体を鍛えるトレーニングにも余念がなかった。彼を支えているのはホープ(ジェニファー・ソールト)という名のティーンエイジャーと、翼をもがれた背中を持つ、鳥の化身のような謎の守護天使ルイーズ(サリー・ケラーマン)だけだった。
ブルースターはいま、人類最初の飛行で知られるライト兄弟の兄アブラハム・ライト(ステイシー・キーチ)の運転手を務めているが、120歳となったアブラハムは意外にも守銭奴の差別主義者だった。あちこちでお金を取り立てては女の尻を触り、品のない行為を繰り返すのだった。ある日、いつものようにブルースターがアブラハムの車を運転し、アブラハムの車椅子を押しながらお金の取り立てに同行していると、突然、癇癪を起したアブラハムは彼を盗人扱いして銃を抜いた……だが、しばらくすると、アブラハムは死体で発見される。こめかみには鳥のフンがかかっていた。しかもアブラハムの書斎にあったライト兄弟の研究記録は盗まれていた。
これで二人目の高名な市民が殺人事件でなくなったため、事態を重く見たヒューストンの大物政治家ハスケル・ウィークス(ウィリアム・ウィンダム)はサンフランシスコ市警から腕利きの刑事フランク・シャフト(マイケル・マーフィー)を招 き、地元の捜査指揮官クランドール警部(G・ウッド)とともに連続殺人事件の捜査にあたらせようとする。だが、シャフトは交通課のジョンソン警部補(ジョン・シャック)の助けを借りながらマイ・ペースで仕事をはじめ、二人はすれ違いばかり。そして三人目の犠牲者が現れた。堕落した麻薬捜査官が盗品のニコンのカメラを手にし、鳥のフンにまみれて死んでいるのが見つかったのだ。鳥のフンに何かある……そう踏んだシャフトはフンを鑑識にまわし、手掛かりを得ようとするが、鳥の種類はなかなか特定できなかった。
ブルースターはその間も筋肉の鍛錬に励んでいた。ホープはバイト先の健康食品を差し入れしてはブルースターの肉体に興奮して入れ込み、ルイーズは女性と関係を持つことに対して彼に嫌悪感を刷り込んでいく。ある雨の日、ブルースターはアストロドームの案内嬢スザンヌ(シェリー・デュヴァル)の車を失敬しようとして見つかるが、好意を持ったスザンヌは、彼を自分のアパートに誘った。ブルースターがスザンヌの車で帰ろうとすると、ビリー・ジョーが現れ、これは自分の車だといってブルースターに襲いかかろうとした。彼女がビリーから車を盗んだのだった。だがその時、鳥のフンがパシッと彼に命中し、またしても犠牲者が出た。
翌日、スザンヌとブルースターが車に乗っていると、ビリー・ジョー殺害の通報をうけた警察はブルースターの運転する車を追って捜査を開始した。シャフトはジョンソン警部補と独自に追跡を始めるが、元レーサーのスザンヌはシャフトの追跡に気付き、ベルトを締めるとアクセルを踏み込んで疾走した。事態を面白がって間に割り込むルイーズの車に翻弄されて、シャフトの車は道路わきの池に飛び込む。面目を失ったスタイリスト、シャフトはこめかみにピストルの銃口をあて、引き金を引いて自殺した。逃げ延びたブルースターとスザンヌは関係を持つ。
翼はようやく完成し、あとは飛ぶばかり。しかし前日、スザンヌによって知った性に溺れたブルースターはルイーズに反論する。世俗の色欲から逃れてこそ夢の飛翔はかなうと信じ切っていたルイーズにとって、汚れたブルースターにもう用はなかった。ルイーズは大ガラスを肩に、アストロドームを去って行く。一方ベッドのなかでブルースターから「すべての殺人に責任がある」と聞いたスザンヌはかつてのボーイフレンドでウィークスの秘書を務めるバーナードに密告。三人はアストロドームに向かった。が、先に一人でドームに入って行ったウィークスを二人が追いかけると、鳥のフンを浴びて死んでいるウィークスの死体が発見された。
察は総力をあげてドームの内外を固めた。そんななか、真っ白な翼を背負ったブルースターが2階の観覧席に現れ、力いっぱいの飛翔を始めた。鍛え上げた筋肉を駆使し、大きく羽ばたいた彼の顔は喜びにあふれた。しかし肉体を酷使し、体力を激しく消耗させるこの運動は長くは続かなかった。ついに力尽きた彼は鋭い叫びをあげたかと思うと、まっさかさまに落下し始め、フィールドに叩きつけられて即死した。愚かな夢のショーは華々しく終わりを告げる。
2010年7月3日より新宿武蔵野館にてロードショー