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ノーカントリー

No Country For Old Men
2007/アメリカ/パラマウント=ショウゲート/122分
出演:トミー・リー・ジョーンズ ハビエル・バルデム ジョシュ・ブローリン ウディ・ハレルソン 
監督:ジョエル・コーエン
製作:イーサン・コーエン

偏差値:60.4 レビューを書く 読者レビュー(1)

異様なまでに生真面目な殺し屋と、時代に取り残された保安官──
ふたりの男に追われる男の可笑しいほど残酷な運命


INTRODUCTION

静寂のなかに漂う異様なまでの緊迫感──
コーエン兄弟の最高傑作誕生! 


 アメリカの荒涼たる西部、テキサスの町でひとりの男が麻薬密売にからんだ大金を発見し持ち去ることで、その危険な金を巡り謎の殺し屋や警察が動き出す。追う者と追われる者。彼らの行く先々には無数の死体が転がり、荒野は血の海に染まる──。
コーエン兄弟待望の新作は、ここ数年ご無沙汰だったいかにもコーエンらしい作風が久々に復活した、スタイリッシュ・スリラー・サスペンス。デビュー作品の『ブラッド・シンプル』から、『ミラーズ・クロッシング』、『バートン・フィンク』、『ファーゴ』、さらには『バーバー』といった作品に共通するノワール的要素を含みながら、本作では常にこだわりぬく音楽をあえて抑制。静寂が引き起こす緊迫感と恐怖を観ている者の内側から引き出すという新たな挑戦を試みた。コーエン兄弟らしさをたっぷりと凝縮しながらも、さらに一歩先へと踏み込んだ本作は、2007年カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品され批評家からも大絶賛。「コーエン兄弟の最高傑作!」との呼び声も高い。


世界各国から集結した豪華キャストの渾身の演技に注目! 

 力強くスリリングなストーリーにより深みを与えているのが、個性派俳優たちによる渾身の演技だ。
 作品全体を見渡し語り手として物語の中心に位置するベル保安官には、『ハリソン・フォード 逃亡者』(93)でアカデミー賞助演男優賞を受賞したトミー・リー・ジョーンズ、ルールにやたら執着する、生真面目で冷酷な殺し屋には『海を飛ぶ夢』(04)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたスペインを代表する俳優ハビエル・バルデム、金を奪い追いかけられる運命を選んだ男には、本作をきっかけに今一番注目されている、ジョシュ・ブローリン。さらに、南部アクセントを完璧に習得して強くタフな女性を演じるスコットランド人女優のケリー・マクドナルド、カメレオン俳優ウッディ・ハレルソン、ベテラン女優のテス・ハーパーが脇を固める。テキサスに集結した多国籍キャストが、それぞれに与えられた役柄をパーフェクトに演じながら、圧倒的な存在感でスクリーンを魅了する!


米文学界の異端児コーマック・マッカーシーの原作をコーエン兄弟が映画化。
奇跡のコラボレーションが実現! 


 1992年「すべての美しい馬」で全米図書賞と全米書評家協会賞を受賞し、これに続き98年までに国境三部作を完結させ、90年以降のアメリカ文学をリードし続けているコーマック・マッカーシー。変わり行くアメリカ西部を背景に描き出す類まれな小説の数々でその名を広く知られ、2006年に発表した「The Road」ではピューリッツアー賞を受賞。米文学界の重鎮で、現代アメリカ文学界を代表する作家である。
 本作の原作である「血と暴力の国」(03)は、そんなマッカーシーのもっとも本能的で、多重構造的な現代の物語を特色とする小説のひとつでありながら、本格的な犯罪小説でもある。マッカーシーが描く登場人物の薄暗いウィットと飾り気のない人間性を描くのに、ジョエル&イーサン・コーエンほどぴったりマッチする映画人はいないだろう。マッカーシー小説のページに描かれた力強さは、コーエン兄弟の手により印象的な映像と歯切れのいい会話へと変貌を遂げ、最強のペアがタッグを組むことで、強烈な説得力をもつ作品が誕生したのである。


もはや誰にもとめられない。
すべての人を裏切る結末へと物語は加速する──。


 偶然大金をみつけた平凡な男モス(ジョシュ・ブローリン)が、金を持ち去ることで運命の歯車が大きく狂い始める。法と正義を信じる年配の保安官べル(トミー・リー・ジョーンズ)や警察を巻き込みながら、執拗に追ってくる謎の殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)から逃げるモス。突如、血と終わりのない暴力に染まるフロンティアで男たちは何を見て、どこへ向かっていくのか? そして、待ち構える結末はいかに?
 本作中、ひときわ異彩を放つ、殺し屋シガーは、コインの裏表で殺しを決め、目的の為には自分の体でさえも道具としか考えていない、"純然たる悪"。反面、ルールに忠実で、生真面目、姿勢もよく、礼儀も正しい。すべてにおいて完璧ゆえ、悪にも神にも見えてしまう存在だ。
 老いた保安官が語り手となり、失われていく昔かたぎのフロンティアを嘆きながら綴られる『ノーカントリー』。しかし、本作は老いた者の小言などではなく、80年代以降暴力的な無法地帯と化し成長してきた西部に対するアメリカ全土の嘆きを代弁し、静かに、だけど鋭く心に突き刺さる!