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2010/日本/松竹
出演:吉永小百合 笑福亭鶴瓶 蒼井優 加瀬亮 小林稔侍 森本レオ 芽島成美 田中壮太 ラサール石井 佐藤蛾次郎 池乃めだか キムラ緑子 笹野高史 小日向文世 横山あきお 近藤公園 石田ゆり子 加藤治子 
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
音楽:冨田勲
http://www.ototo-movie.jp/

偏差値:56.6 レビューを書く 解説

『おとうと』 試写会鑑賞 [75点]

鉄郎は本当どうしようもない男で、正直私だったらとっくに見捨てちゃうかも、と思えるような人間。だけど”家族”だからこそ、見捨てることができない、”家族”だからこそ許してしまう、”家族”だからこそ彼が心の奥底に抱えているものがわかってしまうのかもしれません。

ただ吟子にはかなりイライラさせられました。小春の結婚式だって、なぜもっとちゃんと鉄郎がお酒を飲まないように注意して見ていなかったのか、お酒を飲んで暴れだした時点ですぐに外に出さなかったのか、ただ「あら、あら」と見ている吟子や庄平に疑問を感じてしまいました。ああなる前に止められたでしょ、ってね。鉄郎のことを考える気持ちもわかるけど、小春のことをもっと考えてあげなきゃかわいそうじゃない、と。

鉄郎がああいう人間になってしまったのは、吟子が昔から甘やかしすぎていたのが原因なんだと思うんですよ。何をしても許してしまう、何をしても助けてしまう、何をしてもかばってしまう。吟子は優しすぎるのかもしれない、だけど私から言わせたら、厳しくすることができないのは全然優しさじゃない。吟子が甘やかしすぎたせいで、鉄郎はどれだけ自分が人に迷惑をかけているのかを、きちんと理解できない人間に育ってしまったのだと。何をやってもダメな人間にしてしまったのは吟子が原因なんじゃないかと。

家族だから、切ろうにも切れない絆があるのはわかる。だけど、家族だからこそ、もっと鉄郎を学ばせなくてはいけなかったのではないかな、という気持ちがしてしまったんですよね。

私は完全に蒼井優演じる小春目線で観てました。小春の言動はかなりリアルだと思います。鉄郎に台無しにされた結婚式。鉄郎に文句の一つでも言いたいところを、この人に言っても意味がないと何も言わない。ただもうこの人とは関わりあいになりたくないと強く願うだけ。吟子がいつまでも鉄郎を見放さないのを一歩引いた目で見ているんですよね。なぜ母があんな弟を見捨てないのか不思議な気持ちを抱く娘。でも私だったらもっと吟子に文句言っちゃってただろうなぁ。そう考えると小春はかなり偉い子だったように思います。

そんなふうに結構鉄郎と吟子にはイライラさせられながら観ていたのですが、小春と亨の関係や、同じ町に住む丸山や遠藤の存在がとても良くて、予想以上に笑いも多い映画でした。笹野さんとかはさすがですよね。彼がかなりいいクッションになっていて、全体的に温かい空気を作り出してくれていたように思います。

喧嘩してはすぐに許しの繰り返しだった姉弟。切れそうになっても、繋がっていた絆。切りたくても永遠に切れないのではないかと思っていた絆。けれどもそんな家族にやってくる本当の別れ。

そして吟子とは違って、本気で関わり合いになりたくないと思っていた小春も、鉄郎はやっぱり母の弟。どんなに迷惑をかけられ続けていた人だったとしても、やっぱり完全に切ることはできないのが現実なのかもしれません。だからこそ”家族”なんだろな、と思いました。

家族だからこその面倒くささ、家族だからこその温かさ、家族だからこその絆。

思いっきりどうしようもなく愚かだけど、見放せない。愚かだからこそ、心配してしまうし憎めない。それが家族なのかもしれません。

2010/01/04 11:35

masako

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