2009/アメリカ/ディズニー/103分
出演:クリストファー・プラマー エド・アズナー ジョーダン・ナガイ ボブ・ピーターソン ジョン・ラッツェンバーガー エリー・ドクター ジェレミー・レアリー
監督:ピート・ドクター
共同監督:ボブ・ピーターソン
脚本:ボブ・ピーターソン、ピート・ドクター
http://CARL-GSAN.jp
空を飛ぶまでが素晴らしい [75点] [参考:1]
このレビューはネタバレを含みます
久しぶりにオープニングからグイグイと作品に引き込まれた。
子供の頃に出会った同じ夢を持つ女性と結婚し、喜びや悲しみのある日々を送り、年老いて最愛の妻が亡くなるまでが一言のセリフも歌もなく、音楽と映像のみで描かれるいながらその心情が手に取るように伝わってくるのが実に見事で、素晴らしいの一言につきる。
これは面白い作品になるのでは、と期待をしていたら、独り暮らしになり日増しに偏屈で頑固者になったカールじいさんや、彼の家を取りまく周囲の環境が激変した場面が写し出された。
最愛の人を亡くし、足腰も弱り、杖なしでは歩けない姿は老いることの現実を、そして町から自然がなくなり大都会へと変貌するのはある意味住みにくい世界の現実を表しているとは言え、何ともいたたまれない気持ちになった。
そしてカールじいさんは亡き妻と果たせなかった夢をかなえるため旅立つのだか、まるで入道雲のようにカールじいさんの家の屋根から湧き上がるように次々と空に浮かぶ数百、いや数千の風船の描写がこれまた見事である。
この場面を観た時、再び面白い作品になるのではと気持ちがワクワクしたのだが、せっかくの風船旅行がちょっとした危機に見舞われながらも、いともあっさりと目的地の近くに着いたのには拍子抜けがしてしまった。
風船の力で家を飛ばすこと自体が非現実的な話なのだが、それもありかなと思えるほどの素晴らしい映像美が、上映時間の都合もあってか風船旅行の時間が短く、またその後はよくある悪党との対決といった展開でかき消されたように感じられた。
それにカールじいさんと亡き妻の子供の頃のヒーローが悪役となって登場するなんて、この作品を観た子供達はどう受け止めたのだろう。
子供の頃のヒーローにはいくつになってもヒーローでいてもらいたいなんて気持ちは今のハリウッドには通用しないのだろうか。
そしてこれを出す必要があったのかと思ってしまった犬語翻訳機。
確かにこれのお陰で話は膨らみ、翻訳機を介した笑える場面もあるのだが、冒頭の一言のセリフもなくカールじいさんと妻の人生を見事に描いた場面と比べると何ともご都合主義で蛇足っぽく思えてしまった。
と思いつつも数ヶ月前に長年飼っていた愛犬を亡くした者としては、あの犬語翻訳機があの時にあったらなあ、と何とも矛盾する気持ちになってしまいつい苦笑いをしてしまった。
今さら書くまでもないが、本作は第82回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞したばかりか、作品賞にもノミネートされたほどアメリカでは評価の高かった作品であるが、個人的にはハリウッドと日本のアニメーションの違いを改めて感じさせられた作品でもある。
しかしあの犬語翻訳機、やっぱり欲しいな。これが蛇足か(笑)
2010/05/10 23:34