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きみに微笑む雨

2009/韓国/ショウゲート
出演:チョン・ウソン カオ・ユアンユアン 
監督:ホ・ジノ
http://www.kimiame.com/

偏差値:53.8 レビューを書く 読者レビュー(1)

 互いに想いを寄せながらも告白しないまま、離ればなれになった男女。もう2度と会うこともないとあきらめ、心の片隅にそっとしまっておいた大事な存在は誰にもいるはず。そんな「彼」もしくは「彼女」にもしも再会したら、あなたはどうする? この心ときめくシチュエーションは、『きみに読む物語』や『ビフォア・サンセット』、『隣の女』、『玻璃の城』といった名作ラブ・ストーリーにも登場し、多くの女性に恋の過去ログをセルフ検索させたもの。ホ・ジノ監督の新作『きみに微笑む雨』もしかりで、アメリカ留学中に知り合った韓国人男性ドンハと中国人女性メイが10年ぶりに再会するシーンで幕を開ける。大学時代、想いを口に出せず、行動に起こせないまま終わらせてしまった二人の愛は果たして再燃するのか……。
 唐時代の詩聖、杜甫の詩「春夜喜雨」の冒頭の一節「好雨知時節(良い雨は時を知り、春に降り万物を蘇生させる)」からインスパイアされた原題からもわかるが、愛を雨に例えた物語の軸となるのは愛のタイミング。この愛は果たして今の自分に必要なのか? 今を逃すと永遠に結ばれないのか? もう一度誰かを愛することができるのか? 再会によって相手に感じていた愛情はもちろん、夢や希望を胸に抱いていた純粋そのものだった若き日の自分を思い出すドンハとメイの胸をさまざまな想いが駆け抜けていく。
 主役ドンハを演じるのは、『私の頭の中の消しゴム』や『デイジー』で女性を一途に愛する男を演じ、女性ファンを心底うっとりさせたチョン・ウソン。韓国映画界では志の高い映画人として巨匠からのオファーも多い彼は、ホ・ジノ監督がデビュー作『八月のクリスマス』を製作したときから念頭に置いていた俳優。多忙なウソンと監督が「時節を知り降る良い雨」のようにタッグを組むことになり、ロマンティックな大人のラブ・ストーリーができあがった。またメイ役に抜擢されたのは、中国で人気上昇中のカオ・ユアンユアンだ。『スパイシー・ラブスープ』や『プロジェクトBB』など数本しか公開されておらず、日本の映画ファンには馴染みがない女優だが、透明感のある美貌と芯の強さを感じさせる繊細な演技で複雑なキャラクターを熱演している。
 そして、もう一人の主人公といえるのが物語の舞台である成都だ。四川大地震から1年後という設定で、中国政府全面協力のもとに地震によって壊滅した街並みの再建が進む様子が映し出される。ドンハもその再建に関わる建設重機会社のエリートで、ある出来事で壊れてしまったメイの心を計らずとも癒すという役割りを果たしていて、物語と舞台が密接にリンクしているのも見どころのひとつである。
 メガホンを取ったのは、死という重いテーマを盛り込みながらも清々しさが心に残る純朴なラブ・ストーリー『八月のクリスマス』で監督デビュー以来、『春の日は過ぎゆく』、『四月の雪』、『ハピネス』と一貫して恋愛映画を撮り続けてきたホ・ジノ監督。日常的な愛をテーマにしながらも、誰もがなかなか言葉で表現できなかった“愛の属性”を視覚化した洞察力とリリカルともいえる作風は世界的に高く評価されている。ラブ・ストーリーではあるが、恋人たちが結ばれてハッピーエンドとならないのがジノ監督作の特徴だ。主人公である恋人たちを通り過ぎるさまざまな愛と別れ、出会いから破局までの間で揺れ動く二人の心情に観客は深く共感してきた。『きみに微笑む雨』はジノ監督の新境地ともいえる作品で、見終わった後に愛による癒しと前向きに生きる勇気、そして希望が感じられるはずだ。
 

ストーリー

 韓国の建設重機会社に勤務するドンハ(チョン・ウソン)は、新婚旅行に出かけた同僚の代理で中国・成都に出張する。空港に迎えに来ていた支社長と杜甫草堂に観光に出かけたドンハは、園内を散策中に聞き慣れた声を耳にする。声を追うドンハの前に現われたのは、英語ガイドのメイ(カオ・ユアンユアン)。10年以上前、アメリカ留学中に知り合った旧友だった。小さく手を振るドンハに気づいたメイは驚きの表情を浮かべるが、それが優しい微笑に変わっていく。ぎこちなく挨拶を交わす二人の前にドンハを探す支社長が現われ、メイを四川美人と絶賛。「ドンハさんが杜甫草堂に来たがった理由がわかりました」とメイに中国語で伝える。
 その夜、ドンハとメイは久々の再会を祝いビールで乾杯する。ホロ酔いのドンハは大学時代にメイを好きだったと告白。メイは当時、ドンハが日本人女性に惚れていたはずと言い返し、彼が帰国前に贈った自転車を売り払ったと涼しい顔。やや傷ついたドンハはメイの記憶違いを証明すると言い張る。
 翌日、重機の説明と商談を終えたドンハは、四川大地震の爪痕を目の当たりにし、ショックを受ける。一方のメイは上司が修理していた自転車を見て、思わずベルをチリリンと鳴らしてしまう。夜に再び会ったドンハとメイは夕食後の散歩を楽しみ、人々がダンスに興じる広場に行き着く。二人がワルツを踊っていると、雨が降り出してくる。近所の軒下に駆け込んだメイは杜甫の詩を引用し「良き雨は降る時を知っている」とドンハの恋心に水を差すような発言をし、彼が以前、詩人になりたがっていたことを思い出させる。ホテルに戻ったドンハはパソコンに向かい、詩を書き始めるが、途中で消してしまう。
 帰国の日、空港に向かう車中でドンハは旧友ベンが送ってきた写真を見て微笑む。そこにはサイクリングを楽しむメイの姿があった。その写真をメイに転送した直後、彼女から「渡したいものがあるから空港に見送りに行く」と連絡が入る。出国まで見送るという支社長を必死に追い返したドンハは、メイと一緒に過ごすために中国滞在を伸ばす決意をする。10年前の想いを再確認するように唇を合わせ、パンダ公園でデートをするドンハとメイ。韓国レストランで支社長とばったり遭遇するという気まずいハプニングがあったものの、メイへの積年の愛を告げられたドンハは幸せのまっただ中にいた。しかし、その幸せも長くは続かなかった。情熱に身を委ね「ホテルに戻ろう」とささやくドンハにメイが思いも寄らぬ返事をしたのだ。「ドンハ、私、結婚しているの……」と。

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