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希望ヶ丘夫婦戦争

2009/日本/バイオタイド/88分
出演:さとう珠緒 宮川一朗太 伊藤克信 イジリー岡田 桐島優介 古屋暢一 小川はるみ 伊藤聖子 川村亜紀 紫とも 桜金造 範田紗々 AI.NEO  
監督:高橋巖
http://www.kibougaoka-war.com

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映画・テレビ・CM・文藝と様々な分野で活躍し惜しまれつつ逝った故・実相寺昭雄が1970年代に発表し問題になった短編小説を、さとう珠緒を主演に迎え、映画化。

一見幸せそうな夫婦たちが抱える問題。それは誰もが感じている夫婦間のタブー。夫たちは、男の自立としてマスターベーションを謳歌する。一方で、夫の愛を求める妻はその美しい肉体をもてあましてしまう。男と女の思惑はすれ違い、交わることもないまま、夫婦の間に暗い影が落とされていく。男たちの欲望がリアルドールへと結実し、実を結ぼうとした時、妻は狂気と愛憎に憑かれ、それは悲劇の幕開けとなる。

ウルトラマンの監督としても知られる実相寺だが、こうした文藝エロス話も得意とし、いくつかの小説も出版している。その才能は今読み返しても、社会を風刺し、滑稽で巧妙なストーリーで読む者を魅了する。本作以外にも、『東京デカメロン』、『いろかぶれ枕草紙』など、タイトル的な面白さも加味した作品群が存在し、コアな人気を誇っている。79年に日活ロマンポルノで西村昭五郎監督が一度映画化された本作だが、現代的な切り口とニュアンスをもって描き出し、より衝撃的な倒錯した性の世界を提示する。

主演はバラエティ番組等、テレビや映画などで活躍中のさとう珠緒。大人の女性として、EDの夫の叱咤激励に奔走する。夫役は名作『家族ゲーム』の主演を始め、ドラマ、映画では貴重なバイプレーヤーとして活躍する宮川一朗太。他に、伊藤克信、イジリー岡田、桜 金造ら個性的な俳優が脇を固める。女性陣も小川はるみ、伊藤聖子、川村亜紀らと実相寺ワールドに彩りを添える。
今回、監督の高橋巖を始めとした元実相寺組のスタッフが再集結し、実相寺昭雄の意思を引き継ぎここに新たな『希望ヶ丘夫婦戦争』を完成させた。


●ストーリー

東京都心から2時間ほど行ったところにある平凡すぎて怖いぐらいの住宅地、希望ヶ丘。
その一画に住む猫田千吉(宮川一朗太)と猫田弘子(さとう珠緒)の猫田夫妻は、35年ローンでこの家を買ったばかり。

夫の千吉は零細食品会社の宣伝マン。妻の弘子は専業主婦。家のローンは思ったよりも大変で、徹底した節約で何とか凌いでいる状態だ。その上、夫の千吉はED(勃起不全)で、弘子はやるせない日々を送っていた。

そんな中、弘子は近所に住む主婦仲間のサヤカによる風水学で夫婦性生活の危機を指摘され、「このままではどんな幸せも手のひらから逃げていく。」と脅される。その言葉に愕然とする弘子は夫・千吉との満ち足りた夫婦生活を願ってサヤカに言われるがままに、風水グッズを購入し、一人奮闘する。

一方、千吉は弘子の思いも知らず、隣の近藤に誘われるまま、希望ヶ丘の夫たちで作る秘密結社『男の自立の会』に入会する。秘密結社といっても、「男の自立はマスだ!」と主催者の矢部や、近藤は高らかに謳い出す状況で、実態は妻とのセックスの拒絶を目指す会だった。だが、EDの千吉にとっては、心安らぐ憩いの場となった。

そんな会に入っているとは知らず、弘子はあらゆる手を使いEDの千吉を奮起させ、幸せな結婚生活を手に入れようとするが、なかなか思い通りにはいかない。
弘子はサヤカの占い相談に一層のめり込み、千吉は弘子の異様な様子に辟易し、一段とEDの症状は強くなっていく。

千吉の勤める会社は、専務と秘書の貞江が公然と会社をラブホテル代わりに使う始末で、会社全体に活気が無く、潰れるのを待つばかりの体たらく。転職したくても、家のローンを抱えている身。そのマイホームも、顔を見れば弘子が迫ってくるので、安らげる場所ではない。

そんな中千吉は、魅力的な肉体を持ち、自分に対しても好意を見せる貞江と専務の情事の様子を盗撮し、密かな喜びとしていた。

ある夜、張り詰めた空気の寝室。暗闇に浮かび上がる弘子の白い肌、鎖骨、美しい身体。
千吉に跨がる弘子。だが、千吉のモノはピクリともしない。性行為が出来ない事以上に虚無感が広がる。

千吉は、『男の自立の会』の若手で映画の美術をしている池山が工房で究極のリアルドール作りをしているのを知り、貞江への妄想をこのリアルドールへ注ぎ込んで行く。

千吉に網走工場への人事異動の辞令が下る。隠し撮りしていた専務と貞江の情事の映像がばれてしまったのだ。
追いつめられた状況になって初めて、弘子は風水をやめ、千吉は治療に行くことを決めた。ふたりはあどけなく笑い合う。それはありふれた食卓のひとコマ、しかし幸せな夫婦の姿だった。

そして千吉に頼るだけではなく、弘子は自立を目指し、仕事を始めようとしていた日、究極の貞江リアルドールは完成し、千吉が試作品第一号を試すことになった。
なんと弘子にはピクリともしなかったモノが、リアルドール相手に勃起した!

夢中でリアルドールを抱く千吉。

その現場を見てしまう弘子———!

リアルドールを人間の女と勘違いして、包丁を振りかざし、ダッチワイフを滅多突き!
リアルドールの体内を流れる赤い液体を浴びた弘子は、正気を失ってしまい……。
弘子は千吉との生活を守るのに一生懸命だっただけ。

「たんぽぽ、たんぽぽ」

千吉との生活のために、タンポポを摘んでいた弘子。
正気を失った今も、夕方になるとタンポポを摘みに行くのが日課だ。
そんな弘子の姿に千吉は胸が締め付けられるのだった———。

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