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マン・オン・ワイヤー

Man On Wire
2008/イギリス/エスパース・サロウ/95分
監督:ジェームズ・マーシュ
製作:サイモン・チン
原作:フィリップ・プティ
撮影:イゴール・マルティノビッチ
音楽:マイケル・ナイマン
http://www.espace-sarou.co.jp/manonwire/

偏差値:59.7 レビューを書く 読者レビュー(1)

1974年8月7日の朝、フランスのある大道芸人がニューヨークのワールド・トレード・センターのツインタワーを綱渡りで渡ろうとしていた。高さ411m(東京タワーは333m)・110階の巨大な2つの建物の間にロープを渡してその上を歩くのだ。もちろん命綱もない。また綱渡りが中止させられないように全ての計画はゲリラ的に進められた。一体、こんな無茶な計画を実行するのは、どんな人物なのだろうか?

彼の名前はフィリップ・プティ。幼い頃から独学で大道芸の道を志しながら、その手に余る個性の強さのため多くの学校から放校されてしまう。だがそんな彼を、皆を喜ばせることばできさえすれば認められる大道芸が救ってくれた。そんなある日、歯科医の待合室でニューヨークに世界最高層の建物であるワールド・トレード・センターが建設されるという記事を読んだ瞬間、彼の頭には「このツインタワーで綱渡りをするんだ!」という考えがひらめく。その後、彼の志を支えてくれる仲間たちとともに、パリのノートルダム大聖堂、オーストラリアのハーバー・ブリッジなど世界中の有名な建物でゲリラ的に綱渡りを敢行する。もともと命がけの行為であるため、公式に計画を立てるということはできず、準備から実行まで全てゲリラ的に行われた。最終目標であるワールド・トレード・センターも、ジャーナリストや建築業者を装って何度もビルに忍び込む。場所の把握はもちろんのこと、何十キロもある鋼鉄のロープを持ち込む必要があり、綿密な計画は欠かせないのだ。挙句のはてには、ビルの内部にスパイさながらの内通者まで見つける始末。その様子はまるで銀行強盗をたくらむ怪盗ルパンのようでもあった…。

そんな彼に対して向けられる質問はいつも同じ。「どうしてこんな危険なことをするんだ?」プティは答える。「それ、聞き飽きた。理由なんてないんだ。でも、人生はエッジの上を歩かなくては意味がないだろう?」しかし、本作でプティの芸を目の当たりにした時、きっとその理由が想像できるかもしれない。プティの綱渡りは音楽や演劇などその他多くの芸術と全く同じ、美や自由を表現した「芸術(アート)」であり、だからこそ見る人を感動させるのだ。今は無きワールド・トレード・センターで、かつてこんな嘘のような本当の出来事があった。米国の作家ポール・オースターや、俳優ロビン・ウィリアムス、歌手スティングら著名人らも「美しい記憶」と称揚して止まず、米国では単館系作品としては、わずか2館の公開から100館までに広がる大ヒットとなった。

6月13日より、テアトルタイムズスクエアほか全国順次ロードショー!