Pinocchio
1940/アメリカ/88分
監督:ベン・シャープスティン
製作:ウォルト・ディズニー
偏差値:65.0 レビューを書く
ディズニー・アニメーションの最高傑作 [99点] [参考:1]
このレビューはネタバレを含みます
15年かそれ以上ぶりに鑑賞した。昔何度も見ていたので、ひとつひとつのシーンをよく覚えてはいたが、そのときには見えなかったディテールの細かさに今改めて驚かされた。美しい。こんなに美しいアニメーション映画が、今から約70年も前につくられていたなんて。僕が学生のころは、この映画がまさか1940年に製作された作品とは夢にも思わなくて、そうとわかったときも印刷ミスか何かだと思っていた。1940年といったら、当時の代表的な名作は『ピノキオ』を除けば、それ以外は全部モノクロ映画だったし、この時代にこれだけ美しい色彩の映画があったなんて驚くしかない。製作を開始したのは1937年ときいたので、まだ『風と共に去りぬ』も『オズの魔法使』も公開されていないわけだから、カラー映画としてお手本にするべき映画は他に何もなかったはずだが、今見ると、驚くほどカメラワーク、照明の表現方法が本格的で、実写映画のそれ以上のクオリティである。アニメなので実際に照明を照らしていたわけではないが、あたかも照明がその場で使われているような空間美にただただ驚かされる。
出だしのシーンは圧巻。暖炉で照らされるゼペットじいさんの部屋の照明と色彩の雰囲気が素晴らしく、まるで魔法の世界に来たような気持ちにさせる。ゼペットじいさんご自慢のパイプの数々、おかしな動きをするオモチャの数々を見ているだけで心が和む。
妖精が登場するときのまばゆいばかりの映像も、すべて当時は手描きで描いていた。暗いシーンでも空間の美学が光る。レッドロブスターのお店の外の霧がかった雰囲気といい、お店の中の薄暗い照明の雰囲気といい、こういう世界を手描きで一枚一枚丁寧に紡ぎだしていることに感動を覚える。
ジミニーはディズニーのキャラクターの中でも僕の一番好きなキャラである。コオロギなのに見た目はもろ人間。このコオロギ、実は原作ではピノキオにすぐにつぶされて後々亡霊として登場するキャラだったらしいが、映画では最も重要な登場人物になった。どんなシーンもジミニーが登場するとちゃんとまとまり、ドラマとしての笑いとテーマ性が深まる。ジミニーが歌う「星に願いを」も名曲で、これはディズニーのコーポレート音楽になった。
ゼペットじいさんはご年配の方だが、子供がいない。だからピノキオを我が子同然に溺愛している。この溺愛ぶりが何度見ても泣かせる。手の動きだけを見てもその感情がよく表れている。ピノキオと一緒に会話しているときのゼペットがもう本当に嬉しそうで。ピノキオはそんなおじいさんのことを「お父さん」と呼ぶ。じんとくるなあ。
純粋にアニメーションの動きだけをとっても、人をここまで感動させられるものかと感心する。猫のフィガロの動きが見事だ。ちょっと眉間にしわをよせてムッとしても可愛くみえてしまう。どのキャラクターも動きだけで人を魅了させる。本作は現在の金銭価値でいうと、200億円もの製作費がかかっているというが、さすがにそれだけお金をかけているだけある作品だ。その最たる例は、クライマックスの鯨に襲われるシーン。海の波の動き、表現方法など、何度見ても凄いとうなってしまう。まさにこれはディズニー・アニメーションの最高傑作だ。
2009/08/10 07:28